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農文協トップ主張 2003年10月号

農家の力で、地域を元気にする「水田農業ビジョン」づくりを

目次
◆米政策の大転換
◆「担い手の明確化」は村をおかしくする?
◆「米政策の改革は農業の将来展望を切り拓くため」
◆「将来展望」を先取りした農家の産直・地産地消
◆「担い手」を豊かに構想する
◆JAも自己改革を

米政策の大転換

 不作をもたらす異常天候のもと、米の需給に関心が集まるなかで、いま「水田農業政策・米政策の大転換」がすすめられている。昨年12月の「米政策改革大綱」の決定により、米政策は大きく転換したのである。

 「米の過剰基調が継続」していることを背景に、来年度から米の生産調整・減反政策が大きく変わる。減反目標面積配分から、米の生産目標数量配分へ。面積割り当てをやめ、販売実績に基づいて生産目標数量を配分する方式がとられ、売れ残った場合は、翌年の生産数量を減らすことが基本となる。そのため「米づくりの本来あるべき姿」として「消費者重視・市場重視の売れる米づくり」が求められる。ここには、国の財政事情が悪化するなかで、「過剰米に関連する政策経費の思い切った縮減」というねらいもある。

 同時に、生産調整推進のための奨励金(助成金)の支払い方も大きく変わる。これまで全国一律だった転作助成金は廃止され、新たに地域提案対応型の「産地づくり交付金」が設けられる。この産地づくり交付金は、転作推進に向けた「産地づくり対策」と、「米価下落影響緩和対策(稲作所得基盤確保対策)」の二つの用途に向けられるが、どちらに重点をおくかは都道府県の判断にまかされていて、全額を「産地づくり対策」に振り向けることも制度上は可能とされている。

「担い手の明確化」は村をおかしくする?

 この「産地づくり交付金」の交付に必要な条件として、新たに求められているのが、市町村による「地域水田農業ビジョン」の策定だ。市町村単位に「地域水田農業推進協議会」をつくり、来年3月までに「水田農業ビジョン」を策定しなければならない。

 このビジョンは「画一的にならないように地域の自由な発想で作成すること」とされているが、そこに盛り込むべき内容として「地域の特性を生かした作物振興と水田利用の将来方向」「担い手の明確化と育成の将来方向」「作物作付けとその販売の目標」「産地づくり交付金の活用方法」などがあげられている。とりわけ「担い手の明確化」が重視され、集落の話し合い等を通じて「明確化された担い手のリストを作成する」ことが求められている。

 このビジョンづくりは、米の生産調整の地域計画づくりと一体のもので、「産地づくり交付金」も生産調整を実施した農家だけが対象とされる。ただし、ビジョンの策定にあたって「担い手」の具体的な要件は示されていない。

 一方、米価の低落を見越して、稲作収入下落補てんの上乗せ策として同時に進められる「担い手経営安定対策」では、水田規模の要件が設定されている。その基本原則は、認定農業者の場合、北海道10ha、都府県4ha、集落営農の場合20ha。これに対し、きびしすぎるとの反発があり、知事特認で、認定農業者の場合は八割まで、集落営農の場合、中山間地域では5割までの緩和が認めれた。それにしても、この対象になるのは一部の農家であり、「地道に農地を守ってきた小規模農家の切り捨てだ」という批判もある。

 また、ビジョンづくりにある「担い手の明確化」は、差別・選別をもたらし、村うちの関係をおかしくするのではないか、という心配も生まれている。ビジョンには「担い手の明確化」と合わせて「担い手への土地利用集積の目標」を盛り込むとされており、これは誰に土地を集積するかを明確にするということだ。「担い手の明確化」のために少数が選別されて、ムラが寂しくなったのでは本末転倒である。

 その点は、農水省のトップも同じ考えのようだ。

 「意欲ある農業経営の育成の問題でありますが、(中略)絶対的な面積規模自身は最終目標ではありません。(中略)絶対的な面積だけにとらわれておりますと、面積が上がって生産性が向上したけれども、地域から(他の)農業者が出ていかねばならないという本末転倒なことが起こりますので、そこはぜひお間違えのないように共通の認識にしていただきたい」と渡辺好明農水省事務次官は述べている(平成十五年度都道府県農林水産主務部長政策提案会での挨拶より)。

「米政策の改革は農業の将来展望を切り拓くため」

 さて、あなたの地域では、「地域水田農業推進協議会」による「水田農業ビジョン」づくりは進んでいるだろうか。国から「産地づくり対策」としての交付金の使い道のガイドラインが出てからビジョンづくりを始めようというところも多いようだが、このガイドラインが9月には提示される見込みだから、この秋以降は待ったなしでビジョンづくりに取り組まなくてはならない。

 この「地域水田農業推進協議会」のメンバーは、「市町村、農協等生産出荷団体、農業共済組合、農業委員会、土地改良区、担い手農家、実需者、消費者団体など地域の実情に応じて構成」するとされ、生産者としての農家の参画が求められている。「農家の皆さんは、水田農業のあり方や産地づくりについてのアイデア・意見を地域の議論の場(地域水田農業推進協議会)に持ちよって、じっくりと話し合いを行っていただくことが大切です」(農水省・「新たな米政策と水田農業のビジョンづくりについて」より)。

 岩手県では、この4月から「水田農業改革運動」を全県的に展開している。県段階・市町村段階の「協議会」だけでなく、それぞれの集落で水田農業ビジョンを作成することを進めているのが岩手の取り組みの特徴だ。担い手をどうするかの合意形成のためにも、集落単位の話し合いを重視する岩手方式が大切になるだろう。

 選択肢としては、この新しい生産調整政策から抜けて米をつくる道もある。交付金は受け取らず、自己責任で生産・販売する道だ。しかし、「全国で米づくりが拡大すれば、自ずと米価の下落を招くことが容易に予想され、こうした事態は絶対に避ける必要がある(岩手県水田農業推進協議会会長・岩手県農林水産部長の呼び掛け文より)」というのが大方の行政側の意見である。

 米政策の転換だから、米をどうするかに焦点があたるのは当然だが、そもそも、今回の改革の「理念」はどこにあるのだろうか。

 農水省が発行した「新たな米政策と水田農業のビジョンつくりについて」というパンフレットには、「今回の米政策の改革は農業の将来展望を切り拓くためのもの」だとして、次のように書かれている。

 「日本は古来、水田農業を基礎として水準の高い技術を駆使し、良質の農産物を産出してきました。このことが日本独自の食文化の礎となっています。このような我が国の食文化を守るとともに、国民に良質な食料を安定的に供給するためにも、担い手の確保・育成、農地の確保を通じ、地域の特性に応じて米、麦、大豆、野菜等の多様な農作物の生産を振興し、自給率の向上を図ることが重要です。

 その場合、今後、単なるコストダウンだけでなく、味・栄養・安全面へのこだわりなど高付加価値生産を目指し、世界に冠たる日本農業を確立していくための改革をすすめていくべきです」

 ここでは二つのことが述べられている。

 一つは、「地域の特性に応じて(水田を生かして)多様な農作物の生産を振興」すること。水田=稲作の場とする単作の発想ではなく、かつてのもっと多様な農産物を産出していた水田農業の姿に戻り、地域ごとの自給率を高めていくことである。

 そして二つめは、「単なるコストダウンだけでなく、味・栄養・安全面へのこだわりなど高付加価値生産を目指す」こと。これによって、質の高い暮らしをつくる農業として実需者(消費者)との結びつきを強めることである。

「将来展望」を先取りした農家の産直・地産地消

 この二つのことを、村からみると、どうなるだろうか。

 まず、「自主転作」などと他人ごとのように呼ばれる昨今の転作を、村のために必要だから、地域のために有意義だからやる転作にしていくことである。まずは村=地域のために田を使う。とすれば、地域で必要なものをそこで生産する…ということになる。そのような工夫はすでに村々のお年寄りと女性の力で全国各地に広がっている。朝市と産直がそれである。産直という形で、二つめの「高付加価値生産」も進み、消費者との結びつきが強まっている。

 農水省のいう「農業の将来展望」を、産直・地産地消という形で、農家は小さいながら実現させてきているのである。この新しい流れに依拠し、これを一層強める方向で、ビジョンづくりを考えるのでなければ、それは「農業の将来展望を切り拓く」ものにはならないだろう。

 今度の「産地づくり交付金」は一定の基準で国から県段階の「協議会」に交付されたあとは、地域ごとの創意工夫が尊重され、使い道や助成の水準は地域自らが設定できるようになっている。たとえば中山間地域で、麦や大豆づくりには土地や気象条件が悪く、ソバなどを植えて地産地消、特産品づくりをすすめたいというときは、「麦よりもソバの助成金を高くする」ことも可能になった。

 米中心から水田の多面的活用へ、地域で水田の独自な使い方を決める時代が来たのである。

 水田一本、稲作だけでは、地域をつくる農業にはならない。地域をつくる=地域の個性的な暮らしをつくる農業のために、もういちど地産地消に戻って考えてみる。野菜でもかつてはもっといろいろつくっていた。雑穀もゴマもナタネもあった。農産加工もにぎやかにあった。高度成長・米価の上昇にともなって、地域から消えていったものを改めて見直してみる。そんな地域資源の再点検運動が必要だ。

 新しいアイデアもほしい。たとえばだが、水田の多面的活用として、地域に根ざした「バイオマス利活用」を推進する動きがある。

 田んぼでナタネを栽培し、香り高い一番搾りのナタネ油を地域の家庭や学校給食で使用、回収した廃食油は「バイオディーゼル燃料」に再生し、自動車やトラクターなどに使う。そんな「菜の花を活用した資源循環型の地域づくり(菜の花エコプロジェクト)」が滋賀・静岡・千葉など全国に広がってきている。

 楽しく豊かに、ビジョンづくりを進めたい。

「担い手」を豊かに構想する

 こんなふうに考えると、集落・地域での話し合いを通じて明確にしなければならない「担い手」と、その「育成の将来方向」のイメージも豊かになってくる。

 若い専業農家だけが、「担い手」ではないだろう。産直、地産地消を支えているのは、高齢者・女性であり、新しい農業志願者の出番もそこにある。地域のビジョンづくりには、女性の感性と知恵を集めることが不可欠だ。地元の学校給食に地元の食材が使われていないのはおかしいと感じた女性のネットワークで、地場産給食へ向かう動きが各地で盛り上がってきた。

 専業農家をどう確保育成するかという発想ではなく、地域の兼業農家が営む“小さい農業”を生かすことで村の農業をつづけていく。大きな農家と小さな農家が相互に支えあう“大小相補”の関係を構想するなかで、「担い手」の育成方法も、明確になるだろう。

 小さい農家が連携して土地利用を進める集落営農・地域営農も、いよいよ重要になってきた。中山間地における地域営農の「担い手」としての「集落農場型営農組織」について、楠本雅弘氏は本誌連載「地域営農の組織・運営・経営管理」のなかで次のような「試論」を展開している(2002年3月号)。

 集落農場で生産した農産物の販売収入だけで、その農場の経営の再生産を確保することにはこだわらない。地域社会を持続させることが主な目的であり、農地や土地を有効に維持していくために農業生産活動を持続していると考える。兼業(主業)収入・年金・中山間地域直接支払い・さまざまな被贈金(生活扶助金・家族からの扶養送金・公的支出等)と並んで農業収入も位置付ければよい。

 こうした考え方のもと、

 (1)構成員を農家に限定せず、非農家や、非居住者でその集落に土地の権利を残している者はもちろん、他出してしまった子弟や集落出身者、親類・縁者にも働きかけてメンバーになってもらう。知恵や資金や情報を提供してもらうことが最大の基盤になる。「棚田のオーナー制」や「大豆トラスト運動」などもその一例である。

 (2)非営利協同活動組織=NPOの論理を全面的にとり入れる。集落農場は、利益追求組織ではなく、環境を保全・創造し、生活文化を豊かにするために農地を守り、農業生産活動を持続しているのだから、より公共性を強調し、公益活動の考え方で運営していく。したがって、生産物を市場出荷して、輸入農産物や平場の低コスト農産物と競争することはやめる。地域の直売所や産直市、学校給食、宅配便で予約購入する会員向けに販売する。

 (3)教育農場、研修農場の役割を担う。中山間地域には、何代にもわたり長期間定住する中で環境を保全しながら続けられてきた伝統的な農業技術や山林労働が伝承されている。高齢者たちが持つこうしたノウハウ(伝統技術)を若い世代に継承させていくために、集落農場を積極的に位置付け、教育・研修・実践農場として活用する。

 大胆な「担い手像」である。しかし、ビジョンづくりを単に補助金を受け取るための受け皿づくりではなく、農家と地域のこれからに確信を深める機会にするには、産直や加工、定年帰農や青年帰農などの新しい動きにも着目した大胆な発想も大切である。

 「地域水田農業ビジョンづくり」は、消費者を味方に引き込む「自給・産直ビジョンづくり」であり、新しい「地域コミュニティづくり」なのだ。「地域水田農業ビジョン」には、地域ごとの個性的な暮らしの夢を描かなくてはならない。

JAも自己改革を

 「地域水田農業ビジョン」のなかで生産販売の計画づくりの中心を担うのは地元のJAである。JAもまた、自己革新を目指さなくてはならない時代である。

 「JA越後さんとう」は、米の集荷率95%、公平の原則で生産履歴別に分別集荷し、予約相対で売り切っている。新潟コシヒカリの名前にあぐらをかかず、地産地消・加工重視の総合産地化を目指している。転作の大豆で豆腐・油あげ・納豆の加工に取り組み、直売所で売るだけでなく、米の販売ルートにも乗せて東京のデパートや量販店に卸している。地域営農組合の法人化をすすめ、水田農業の担い手を集落の合意で養成するとともに、高齢者や女性など多様な担い手を組織して、直売所を舞台に多品目生産を広げる。学校給食への野菜の供給も、直売所が取り仕切っている。JAもまた「米単作」からの脱却が求めれている。

 地元の農家、消費者、JAなどの関係団体、自治体の関係者が一同に会し、「地域を豊かにする農業」を構想しよう。農家の力で、地域を元気にする「水田農業ビジョン」づくりを。 (農文協論説委員会)

 注1 「JA越後さんとう」の取組みはビデオ「水田営農復権への地域戦略づくり」(全2巻)で紹介している。JAや自治体で購入活用が進んでいるので、地元のJAや「協議会事務局」にお問い合わせください。

 注2 農文協「ルーラル電子図書館」では、9月中旬、『水田農業ビジョンづくり アイデア&先行事例集』コーナーを開設します。

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