主張

減反政策廃止 「米の力」で未来をひらく

 目次
◆需給が締まり、2016年産米価は上がる
◆TPP推進派のシナリオどおりにはならなかった
◆TPP推進路線から農家を守るJAの米対策
◆米の消費は増えている
◆加工で「米の力! 無限大」
◆「中米」を高く売るJAの取り組み
◆大規模水田経営も、風土と地域に支えられている

需給が締まり、2016年産米価は上がる

 あなたの今年のイネの出来はどうだろう。全国的には作況指数100の「平年並み」の見通し。それでは、米価はどうか。2014年産は大暴落、昨年は持ち直し、今年2016年産は去年の米価をさらに上回りそうだ。 

 JAグループが農家に支払う2016年産米の概算金が出そろった。概ね60kgあたり前年を1000~1500円程度上回る水準で設定されている。主要銘柄は前年に続き、大半が引き上げられた。たとえば、JA全農あきたの場合、あきたこまち1等米(60kg)は前年比1100円増の1万1300円。新米の市場価格も今のところ上昇傾向にある。

 その要因は需給が締まっていること。2014年の大暴落を繰り返してはならないと、各県ともに過剰作付の解消につとめ、飼料米や加工用米等への転作を進めたことで全国的に2年連続で生産調整の目標を達成する見込みだ。

 米の「過剰作付」で何かと話題にされてきた秋田県大潟村でも、このところ加工用米への転作が進み、16年産の転作実施面積は前年に比べ27ha(7%)増加、転作達成率は102.9%となった。あきたこまちの一大産地、大潟村から主食用米の供給量が大幅に減ってきたわけだ。

 農林水産省によると、米の民間在庫量(今年6月末)は前年比1割減の205万t。来年6月末には180万t前後まで減少する見通し。これまでの経験から、民間在庫が200万tを下回ると需給がひっ迫して価格が上昇するというのが、関係者の見方だ。

 こうした主食用米の供給量減のなかで、農家からJAに上がってきた16年産出荷契約数量(見込み)は、前年よりも9万3900t、率にして2.7%減っているという(全農まとめ)。一方では、米業界に新規参入した大手企業が農家に直接「新米買い取り」のチラシを配布したことが話題になったりしていて、集荷合戦は熱を帯びそうだ。

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TPP推進派のシナリオどおりにはならなかった

 こうした事態をどうみるか。

 民主党から政権を奪還した自民党政府は2014年を「農政改革元年」と位置付け、米・水田にかかわる政策として以下の4つを掲げ、実施に移した。

①「戸別所得補償制度」(安倍政権で経営所得安定対策に名称変更)により、米の生産調整に参加した販売農家に支給していた反当たり1万5000円を14年度には半減し、5年後には打ち切る。「米価変動補てん交付金」も15年で廃止。

②5年後を目途に行政による生産数量目標の配分に頼らずとも需要に応じた生産が行なえる状況になるよう、行政・生産者団体・現場が一体となって取り組む(国による生産調整・減反政策の廃止)。

③飼料米に数量払いを導入し、最高で反当たり10万5000円を交付するなど、水田フル活用の推進、助成。

④「農地中間管理機構」による農地集積の促進。

 米の生産調整(減反)を廃止し、米の需給・価格を市場経済にまかせるというわけで、TPPを推進する規制改革会議などの政府の審議機関がこれを強く後押しした。

 TPP推進派のシナリオはこんな具合だ。

 規制改革会議のメンバーは「減反廃止は大規模農家を増やし、競争力をアップさせる」「兼業農家に緩やかに退出していただくのが一番の課題」などとコメント。生産調整をやめ、米価を市場にまかせれば、米価は下落する。減反への補償金もなくし、これで小さな農家や兼業農家のイネつくりはやめてもらい、その農地を大規模経営に集積する。こうして米価が国際価格に近づくことで国際競争力も高まり、急速な農地集積によって生まれた大規模・企業的経営が米の輸出を本格的に展開する。これがTPP参加を前提にした、「強い」経営による「攻め」の農業のシナリオである。

 そしてこの年・2014年、米価は暴落し、多くの農協で概算金が1万円を割った。「米の需給を市場経済にまかせると米価は下がる」ことを証明するような事態になった。しかし、翌2015年に米価は持ち直し、2013年以前の水準には戻らないものの、今年の米価も堅調に推移しそうだ。

 農地集積も思惑どおりには進まず、TPP推進派のシナリオのようには事態は進んでいない。

 かくして、こんないらだちを示すマスコミがでてくる。

「コメの『減反政策』が廃止されるとして大きく報道されてから3年近くが経過した。しかし、減反廃止ならば、本来は低下するはずなのに昨年度の新米の価格は前年度より高くなった。エサ米の生産にシフトし、食用米の需給が引き締まった結果という。『減反廃止』となる2018年度からはこの傾向にさらに拍車がかかりそうだ。その一方で、エサ米の生産急拡大は、飼料用穀物の輸入減少につながる。『減反廃止』は新たな貿易摩擦の火ダネとなるかもしれない」(「減反廃止」は実際には減反強化〔毎日新聞〕2016年7月11日付)

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TPP推進路線から農家を守るJAの米対策

 さて、「減反廃止」となる2018年度にむけて、JAはどうするか。

 JAの自己改革を進めるJA全中は、9月8日、「『魅力増す農業・農村』の実現に向けたJAグループの取り組みと提案~1円でも多く生産者手取りを確保し、1円でも安く良い資材を供給するために」を発表。その中の「30年産(18年産)以降の需要に応じた生産の取り組み」として、都道府県段階・市町村段階の農業再生協議会を通じた「需要に応じた生産」への取り組みとともに、JAグループ事業の基本戦略として、①事前契約取引の拡大、②買い取り販売の拡大、③実需者への精米販売の拡大等を掲げた。この間、概算金にもとづく委託販売から、農家の所得確保にむけて買い取り販売に移行するJAが増えてきたが、これをさらに強化する。買い取り販売は売れ残りや在庫リスクを伴うが、これを最小限に抑えるために、生産者と販売先の両方と数量や価格を事前に約束する契約取引を進め、一方では卸を通さない実需者への直接精米販売の拡大を進める。

 そして需給調整については、「各産地が主体的に取り組む」として、その方法でもある「水田フル活用」を強化し、国には、「麦・大豆・飼料用米等に対する政策支援について、恒久的な措置」を求める。

 さらに、担い手への農地の集積・集約化を進める一方、

中山間地など担い手が不足する地域ではJA出資型農業法人の設立等に取り組み、その一方で兼業・小規模農家を含む多様な担い手による、需要に応じた生産や地域の共同活動などを進める。そのために国には、経営安定対策等を継続・拡充、そして日本型直接支払制度の拡充を求める。

 輸出拡大も課題にしているが、それは「グルテンフリー(注・小麦アレルギーの回避)等のニーズ掘り起こし、和食給食の推進など」ともに、国産米需要の拡大によって米価を安定させる手段として位置づけているようだ。

 国の減反政策廃止に対し、地域からの主体的な需給調整に力をいれ、そのために「水田フル活用」を強化し、大規模農家だけでなく兼業・小規模農家も担い手として位置づける。こうしてTPP推進路線から農家を守る。「協同組合」であるJAにふさわしい提案だと思う。

 この11月、農文協から『新 明日の農協』が発行される。著者の太田原高昭さん(北海道大学名誉教授)は、本書の「まえがき」で、「制度としての農協」(協同組合でありながら農政補助機関であるわが国の農協)というあり方がまさに今、変わろうとしているとして、こう記している。

「食管制度と減反政策の終焉がその客観的背景であった。それを主観的に農協そのものの役割が終わったと理解したのが安倍政権の農協改革である。それと反対に、農業と農協の現場からは『制度としての農協』のくびきから解放され、協同組合ほんらいの姿を発揮する生き生きとした明日の農協を展望することが可能となっているのではないか。本書が『新 明日の農協』と題するのは、こうした大きなテーマに挑戦したいからである」

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米の消費は増えている

 それでは、農家はどうするか。

 今月号の特集は「米の力! 無限大」。「米を一番よく知る人たちの本当においしくて、意外で、元気の出る食べ方提案」の特集である。

 特集の柱の一つは、品種や栽培法だけでなく、精米や貯蔵の工夫で、おいしい米を地域住民、都市民に届けること。米のおいしさがアップする循環式精米や低圧精米法、雪室などの貯蔵の工夫、さらにおいしいご飯の炊き方など、「米の力」に磨きをかける方法を紹介した。

 ところで、米の消費はひたすら減り続けているように思われているが、そんな単純一直線ではない。このところ減少量は鈍化し今年に入ってむしろ増えている。米穀機構「米の消費動向調査」によると、1人1カ月当たりの消費量は今年4月以降、前年同月比で4月2.6%、5月5.5%、6月6.4%、7月6.1%増えている。総務省「家計調査・品目分類」(2人以上の世帯)でも、米の1世帯1カ月当たりの支出金額・購入数量ともに今年に入って毎月前年をオーバーしている。

 理由はよくわからない。小麦アレルギーの問題化や糖質ダイエットの見直しなどが多少影響しているかもしれないが、なんたって米はおいしいし値段は手ごろ、主食の地位は簡単には崩れない。そして、農家の栽培や直売・産直など食べる人とつながる売り方の工夫が、人々の米への愛着を育て続けているからなのだと思う。

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加工で「米の力! 無限大」

 そして農家が米の加工に取り組むとき、「米の力! 無限大」の世界が生まれる。

「加工なら1俵10万円以上」というのは、青森県の野崎さち子さん。稲作農家の野崎さんが経営する「ひまわり工房」では、ほぼ毎朝、6時頃から米の加工をはじめ、8時半から9時までに直売所へ持っていく。おにぎり、赤飯、混ぜご飯、いなり寿司などが定番で、春はワサビナを巻く、夏はスナップエンドウを混ぜる、冬はタカナを巻くなど、季節感も大事にする。使う米は1日3升(土日は6升)。売り上げにして約1万円。加工販売なら1俵が10万円以上になる(44ページ)。

 JAえひめ中央が運営する直売所、太陽市の総菜コーナー「愛菜広場」の代表を務める宮崎美江子さん。ご飯は日本人の主食であり、バランスのよいエネルギー源。もっとたくさん食べてもらえる工夫はないかと考えていたときに、直販部長が「おにぎらずはどうか」と提案。おにぎらずとは、ご飯と具を海苔で包み込む料理。おにぎりのようには握らないのが特徴で、この「愛菜にぎらーず」、お昼時、50~70個がすぐに売り切れるという(54ページ)。

 一昔前のお米の食べ方を見ると、たとえば、米どころ新潟県の1年間のお米の料理・加工の仕方は、ゆうに50種類を超す(『日本の食生活全集』より)。ご飯も白米だけではなく畑のもの、山のもの、海川のものを取り込み、米は主婦の手によって千変万化する。その土地のさまざまな素材、食べものを受けとめ、健康を呼び寄せる米、これもまた「米の力」だ。

「米の力」を生かす新しい技術も生まれている。

 今月号で紹介した米ゲルもその一つ。

 米ゲルとは、国の農研機構が開発したお米の新素材で、米をおかゆ状に炊いて業務用のフードプロセッサーで撹拌するだけでできる。おかゆの水分量や撹拌時間などの条件によって、ぷるぷるのゼリー状から弾力のあるゴムボール状まで形を自由自在に変えられる。これを使えば、スポンジケーキやパイ生地、アイスクリームにムースなど、お米でなんでもできてしまうというのだ。しかもコストが安い。

 茨城県の直売所「みずほの村市場」では米ゲルのピザやパン、アイスが大人気だという。パンもピザも、小麦粉に混ぜて使うが、米ゲルに保水力があるせいか、通常の米粉パンと違って時間が経過してもしっとり感がある。お好み焼きは米粉と米ゲルだけでつくる。米粉の粉っぽさと米ゲルのもっちり感でふんわり焼けるという(97ページ)。

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「中米」を高く売るJAの取り組み

 今月号では、網下米と言われる「中米」の「米の力」に

も注目した。中米は業者に安く流す、という常識をやぶる

「農家の中米活用術」である。

 地元の学生食堂に30kg8000円で中米を販売するのは福井県の尾崎晃一さん(112ページ)。また、おなじみ福島県のサトちゃんは、小型の中米選別機で、グレーダーの網目から落ちた「ふるい下米」をさらに選別し、「中米」として米屋に販売している。中米やクズ米、古米のポン菓子加工の工夫もある。

 地域の農友会でクズ米を集荷、会費収入の足しにしている話を、福島県の藤田忠内さんが紹介してくれた。農友会は仲間でイネつくりを勉強する会だが、刈り取り調製作業後は、クズ米の集荷が始まる(118ページ)。

「私の地域は全国でもまれにみる集荷業者の多いところです。業者が個別に各戸を回り、今年は1kg80円、あるいは100円というふうに、業者ごとにまちまちの価格を提示します。農友会で集落各戸を回ってクズ米を農協の倉庫に集荷し、農協が業者と交渉して、一番高い値で売れるところを探してもらう。クズ米集荷は地域の農家にとっても、安心して出荷でき、お金も確実にもらえ、他の業者よりも高値で終わるということで、地区内のほとんどが農友会への出荷となっています。そのために業者はまったくといっていいくらい入って来なくなりました。市内の他地区でも、同様の取り組みを農青連が行なうようになりました」

 農家が協力して集荷し、農協が業者と交渉して、一番高い値で売れるところを探す。先に紹介した「1円でも多く生産者手取りを確保するために」、買い取り販売や直接販売に力を入れようという、米をめぐるJAの基本戦略の原点もこの辺にあるのではないだろうか。ブランド化で高く売ることも大事だが、買いたたかれる「スソもの」を上手に売ることも、農家の手取り確保の効果は大きい。

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大規模水田経営も、風土と地域に支えられている

 最後に、農地集積について考えてみよう。先に農地集積は思惑どおりには進んでいないと述べたが、それでも規模拡大、水田を基盤とする大規模経営は着実に増えている。

 しかし、大規模といっても家族経営や集落営農が多く、TPP推進派が期待するような、米輸出まで射程においた「攻め」の農業に突き進んでいるわけではない。

 大日本農会ではこの間、先進的で規模の大きい水田農業経営についての研究会を開催し、研究会で報告した16農場の記録を会誌「農業」に掲載してきた。

 これを読むと多くの農場では、稲作では有機栽培、特別栽培、加工米や酒米、飼料米に取り組み、すべての経営が転作に麦、大豆、野菜、果樹、飼料作物を導入した複合経営であり、一部の経営は加工販売など多角化に取り組んでいる。米粉加工、モミガラ製品、野菜パウダー、おにぎり屋、さらに体験農園、食育活動にとりくむ農場もある。

 そこから読み取れるのは、いずれの経営も「風土と地域に支えられている」ということである。そこには、稲作(主食用米)だけを拡大し、小さい農家のイネつくりを押しつぶそうなどという発想はない。高齢化などで稲作が難しくなってきた田んぼを村や地域のために引き受けてきた結果、規模が大きくなったという経営が多いのだ。

 小さい農家は小さいなりに、大きい農家は大きいなりに田んぼを生かし、地域を元気にしていく。そう向かわせてくれるのが日本の「米の力」なのだと思う。利用法だけでなく、地域へ、そして次世代へつながる「米の力」を生かしたい。

(農文協論説委員会)

▼この10月、長年、米の調製加工技術を研究してきた佐々木泰弘さんの著書『ポストハーベスト技術で活かすお米の力 美味しさ・健康機能性・米ぬか・籾がら』が農文協より発行される。「米の力」を見直すのに役立てていただきたい。

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