小麦栽培の総合学習で子どもたちは変わった

梁川 勝利(北海道・当麻町立宇園別小学校)


千羽での小麦おとし

 ’92年度から施行した総合学習の、体験学習での栽培では、作物を子どもたちが重点に取り組むものを決めました。’93年度は「ヒョータン」、’94年度は「ダイズ」、’95年度は「コムギ」、’96年度は「ビート」を中心作物として栽培し、その他3つの班の希望する作物を植えて世話をすることにしました。例として’95年の小麦栽培をした総合学習について述べてみたいと思います。

 早春の4月25日、木々の芽吹きがようやく始まる時期、自然が跳動する感触を受けている子どもたちは待ち切れんばかりのエネルギーで畑に向かいます。初めて栽培する小麦をしっかり世話しようと意気込みが大きく、高学年の姿に低学年もつられて道具などを運ぶのです。手紙で依頼してあるので、すでに老人会の方々が見えており、作業方法を手とり足とり教えてくれます。

 総合的学習は、この年4年目に当たり、地域に定着をし、協力体制が万全となっていました。前年のうちに種の手配をしておかなければ市販では求められないのですが、幸い何軒かの父母が種を用意してくれていました。
 地域の人たちは自宅で小麦作りをしていても、出荷したら行き先もわからないままであり、まして、その麦を挽き粉を使うことは、手間がかかり、誰もやっておりません。しかし、子どもたちは、播種から食品加工まで、すべて自分たちの手で行い、うどんやパン作りをしようという食へのロマンが、活動への大きなエネルギーとなったことは言うまでもありません。
 自分が手がけ、やることを把握している子たちは、総合学習時間外にも畑に足を運び発見したことなどの情報交換を行い、かつ世話をすすんで行いはじめ、斑として責任ある栽培管理をしています。

――小麦を蒔いて――

小麦刈り

 小麦は予定通り発芽し、1日1cmずつ成長することを観察で見つけ、細くても寒さに強い小麦は、学校園のアイドル的存在となりました。やがて6月末になると先端近くがふくらみ、畑に子どもたちが集まりました。

「何だろうか、不思議だ!」という子どもたちに、1本だけ解剖して見せると、「穂の出る準備をしている」と感心するやら「細いところに穂を作る力があるんだ」と驚くやら。こうして、作物の不思議さや偉大さを小麦ばかりでなく、今まで何年も作り続けているものにも目を向けるよう行動しだしました。

小さな種のどこにかくされていたのだろう小さな芽、緑のある力、あるものは花を咲かせ実をつけ、あるものは花は咲かせないが(後で咲くのですが)美しい野菜に育つ。秋にはたくさんの収穫物。1粒の大豆が300個の大豆に実った時の感動。僅か30〜40gのイモ種が1kgものイモになることなどなど。

 そんな中で、いつもなら見逃しそうなひっそり咲く麦の花を見つけたのも、学習の積み上げた結果であると思われました。順調に生育した小麦は夏休み中の8月10日ごろが刈り入れの時期です。親子麦刈りの取り組みをしての収穫ですが、カマを使い、千羽を使っての仕事と同時に、合わせて大型コンバインにも登場願って作業をしてもらいました。これは親子一緒の作業で汗を流すだけでなく、昔の農作業を理解し、祖父母、父母がやってきた道を捉え、今と昔の違いを知る上で貴重な体験でありました。食料を得るための労働の大変さを理解できたのです。

石臼から製粉工場まで

 2学期に入ると、総合学習の2コマ目に入りますが、作業は継続しています。乾燥した小麦の粉挽きを全校生徒が休み時間などに交替で1週間も続けて行うなどの力の入れように、私たちは驚くばかりでした。

 このように、学校生活、教科の学習などやるべきことをしっかりやり上げて、その延長線上に今やっていることがあるのだという意識が高学年を中心として全校にあり、子どもたちの目は輝くばかりです。

石うすでの粉ひき

 100kgほど穫れた小麦を石臼では全部粉にはできませんから、町工場の製粉工場を見学し、そこで製粉して貰うと、粉の違い、うどんの食味が違うことにも、子どもたちの眼は鋭く光って比較することになりました。

 収穫祭では、学校園活動を振り返りながら老人会の方にうどんのこね方伸ばし方を学びましたが、麺棒の使い方、手つきなど、その技と知恵にびっくりしました。腰は曲がっていても、作業の速さ見事さに圧倒され、おじいちゃんやおばあちゃんたちの存在の大きさを思い知らされたことが感想からたくさん見ることができます。

 老人会の方々(子どもの祖父母もいる)とのこのような結び付つきの中で、3回目を迎えた出前学芸会(総合的学習に入る)――特別養護老人ホーム訪問での取り組みで入居する方々とのふれあい方がすこしずつ変化していくのが分かりました。「握手したら柔らかだった」「とてもよろこんでくれた」「毎年楽しみにしていると言っていた」と会話したり、相手の喜びを受け止められるようになるなど、共に生きているという実感をしながら、「今は弱くなっているけど老人会の方と同じような技や知恵を持っている。」という思いで接してきていることです。

うどんのばし

成果と課題

 5年間、総合学習に取り組みましたが、成果と課題のいくつかを列記しておきたいと思います。

  1. 頂上を目指す道を1本と決めず、あらゆるルートから登山させ、森に触れさせ山を捉えさせることの大切さを学んだ。
  2. 播種から食品加工までの一貫した学習を行ったが、汗をかき心を働かせることで、生き生きとした姿に変容した。心の広さ、優しさ学習意欲の向上が顕著である。
  3. 有機的学習は、子どものあらゆる感覚を鋭敏にさせ、学習能力を高めた。
  4. 子どもの作物への興味・関心が非常に高まり、地域と学校の結びつきが深まった。
  5. 学習のやり甲斐を自覚し、自主的自発的態度が育った。
  6. 自分たちの喜びを他にも分けよう。老人たちを大切にという心が育った。
  7. 生産と労働の厳しさを学んで父母や地域の人々の役割・歴史が認識できた。
  8. 学校園活動を中心に据えた総合学習に取り組んできたが、他のジャンルでの取り組みを手がけていく必要がある。
  9. 総合的学習を実施するに当たり、指導者に得手不得手分野があるが、教師間の研修交流を深めることは不可欠である。

(北海道・当麻町立宇園別小学校)


総合的学習の内容

 総合的学習1の内容 領域と時数

  1. 学校園活動計画(作物の種類、班のめあて)学活 1時間
  2. 老人会へ畑の先生依頼の手紙を書く国語 1時間
  3. 開園式、種まき、苗植え行事 2時間
  4. 全校道徳道徳 1時間
  5. 観察・記録(3回)生活科・理科 2時間
  6. 除草などの世話特活 2時間
  7. 活動の思い出作文国語 1時間
  8. 早春の学校園を描画図工 4時間
  9. 花づくり、花壇づくり(コスモロード作り含)学活 2時間
  10. ボランティア(春の花、夏の花を老人施設、駅へ)行事 2時間

総合的学習2の内容 領域と時数

  1. 収穫作業・計量裁量の時間 2時間
  2. 観察記録とまとめ生活・理科 2時間
  3. 学校園活動・感想文国語 1時間
  4. 老人会への招待状作り特活 1時間
  5. うどんづくりクラブ 1時間
  6. 収穫祭への意識づくり道徳 1時間
  7. 収穫祭の計画裁量 2時間
  8. 収穫祭行事 2時間
  9. ボランティア特活 2時間
  10. 作物や作業風景図工 4時間

総合的学習3の内容 領域と時数

  1. 招待状作り裁量 1時間
  2. お礼の言葉国語 1時間
  3. 感謝状づくり裁量 1時間
  4. ありがとう道徳 1時間
  5. 感謝の集い行事 2時間
  6. 集合の計画学活 1時間
  7. パン作り調べと仕込み家庭・社会・生活 3時間
  8. 飾り・タイトル書き図工 2時間
  9. 音楽練習(ハンドベル)音楽 4時間
  10. ボランティア(出前学習学芸会)行事 2時間