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地域に学び地域に返す「食農教育」で〈地域と子どもたちの未来〉を拓く

農文協食農教育本部(「出版ダイジェスト」4月11日号から抜粋)

■総合的な学習の時間で育つ「根っこの学力」

 この四月、これまで移行措置がとられてきた「総合的な学習の時間」の全面実施がはじまった。学校を地域に開放し、「教える」から「学ぶ」への大転換をはかった画期的な学習の時間である。

(中略)

 客観的な知識は、さまざまな体験やその振り返りをとおして育まれる<想像力>や<思考力>の働きなしには、創造的な力に転化しない。「総合的な学習の時間」がねらいとする「生きる力を育む」とは、実社会に出てからも人間が一生にわたってつづけてゆくであろうあらゆる学びの原基、自ら学び自ら考える「根っこの学力」を、学びの喜びを知るなかで育むことなのである。

■「食と農」の学習は「総合」のねらいに最も近い

 このようなねらいをもった「総合的な学習の時間」に、地域と結んだ食と農の学習は最高の学びの場を約束してくれるに違いない。なぜなら食は、子どもの興味関心をおこしやすい最も身近な生活行為でありながら、人間のいのちの源であるからだ。その食と表裏をなす農をつなぐことによって、自然のなかで食べものをつくって生活の糧を得る、という有史以来の<生活の根源>を学ぶことができるのである。

 そこでは、地域の農家が社会人先生として大きな役割をはたすだろう。というのも、農家は地域の自然をよく知った生産者であると同時に、自然の力をたくみに利用し暮らしを立てる生活者でもあるからだ。

 日本の農家の暮らしの根底には必ず自給があり、生産と生活が密接不可分に結びついている。地域の自然を熟知し、自然の循環のなかで自然に働きかけて食べものも衣類も自給し、住居までも大工やむらの人びとと力を合わせて建ててしまう生活者が農家であった。そのような意味で農業とは、農業生産だけでなく、食べものの調理・加工も、貯蔵も販売も、あるいは衣食住の全部を含めて農業なのである。そこにはそれぞれ固有の地域自然のなかで長い時間をかけて磨かれ歴史的に蓄積されてきた生産生活の技があり、地域独自の生活文化がある。農家は地域自然と人間の直接の関係でなりわいを営む、根源的な意味での生活者なのである。

 「総合的な学習の時間」ではそのような農家に、食農の技術の手ほどきを受けつつ、その深い<自然観>や、人びとと共同しつつ自然と調和した暮らしを立てる、その<生活観>を語ってもらうとよい。子どもたちは、自然の力を生かす農家の知恵と息の長い地道な努力に共感し、人間が生きるとはどういうことかを身をもって知ることができるだろう。

 しかも食と農の学習は、奥行きが深く、究めたいテーマがつぎつぎ出てくるのが特徴だ。

 それというのも、食と農は、自然と人間との間で行なわれるあらゆる物質代謝の基礎であり、人間の共同性や人倫の大本だからである。人間は自然に内属しつつも自然を超え、共同をなして自然に働きかけてきた。そして地域独自の日常的生活文化を形成するとともに、その生産力の高まりをもって文明を築いてきた。地球上の文化も文明も一切が、いのちの連鎖である自然の力と、食農という人間の営みを基にして築かれているのである。

 だからこそ食と農の総合的な学習は、たとえば食物連鎖や文明の発生というように、理科や社会科の学習と関連づけたり、保健体育、技術家庭科、国語、算数、図画工作等々の学習と関連づけ、ダイナミックで奥行きの深い学習が展開できる。食と農は、総合的な学習の時間のねらいに最も近い基本的テーマなのである。

 文部科学省から例示された環境、健康・福祉、情報、国際理解などの横断的・総合的課題の学習も、食と農の生活次元でのアプローチのなかで行なわれてこそ高い学習効果が発揮できるだろう。

■食と農で、学校と地域が一体となって地域をつくる

 このような食と農の総合的な学習は、一つの大きな潮流になりつつある。文部科学省の国立教育政策研究所のホームページの分類でも「食農教育」というジャンルが設定されて、各地の食と農の学習の実践事例がたくさん載っている。農水省や農政局、食糧事務所、統計情報事務所や、系統農協も、食農教育を支援する体制を充実させている。食と農の総合的な学習は、今後一層大きな流れになっていくだろう。

 教育は、人びとの生の充実や永続する生活への希求とともにある。農家は学校に「協力」するのではない。学校は地域の人びとの力を「借りる」のではない。地域の大人も教師も、そして子どもも一緒に、地域と、子どもたちの未来をつくるという観点に立つことが重要なのだ。そのとき子どもたちばかりでなく、地域の大人たちが元気になるだろう。教育を地域にとり戻すことによって、高度経済成長時代には無視された自然調和的な生産生活の技術に光があてられ、その時代に弱められた家・むらの共同性が回復されるからである。

(後略)


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