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病家須知(びょうかすち)平野重誠_農文協刊行
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現代語訳でよみがえる

組見本

メダル第19回 矢数医史学賞(日本医史学会)

メダル第21回 間中賞奨励賞(医道の日本社)

 

●飲食・睡眠・呼吸・姿勢を 整えて健康
  ―漢方による養生・予防医学の実際
●日本独自の看護・介護の ルーツ
 
―心と技を備えたケアが回復を早める  

日々の養生にも、地域看護・福祉の健康指導にも、
医学・歴史・民俗研究にも応える決定版!

薬に頼りすぎず、医療をよく選び、日々の養生を大切に。
看護の心と技を伝える――『病家須知』とは?

 1832年(天保3年)に発行されたわが国初の家庭医学百科・家庭看護指導書。書名は「病家(病人のいる家)」+「須知(すべからく知るべし)」=家庭看護必携、家庭医学百科の意。

 その内容は日々の養生の心得、病人看護の心得、食生活の指針、妊産婦のケア、助産法、小児養育の心得、当時の伝染病の考え方・処置対策、急病と怪我の救急法、終末ケアの心得から医師の選び方まで多岐にわたり、一般庶民向けに医学・衛生・保健知識を具体的にまとめた看護書としてわが国初のもの。

 『病家須知』の存在は、これまで医学史・看護史の分野では知られてはいたが、その内容に触れることができるのは一部の研究者だけであった。今回、この日本独自のヘルスケア・看護介護百科というべき内容を、初めて現代語訳を付して、誰もが活用できるように発行する。

原著者・平野重誠について

平野重誠(1790〜1867)。武士出身。

医学館督事(幕府の医学校校長)・御匙(将軍の主治医)である多紀元簡に学び、その技量に一目置かれたエリートであったが、官職につかず町医者として庶民の治療に専心。

42歳になって満を持して著した処女作がこの『病家須知』。

以降、多くの著作を重ね重誠の医学者・臨床家としての優れた業績は、浅田流漢方の流れをくむ安西安周や昭和期漢方復興運動の中心人物であった大塚敬節らの臨床家をはじめ、日本医学史研究の泰斗である富士川游ら、斯界の権威が刮目し、太鼓判を押す優れたもの。

ケイ
推薦者 

・(社)日本助産師会
・日本助産学会
・(社)日本東洋医学会会長 石野尚吾
・北里大学名誉教授 立川昭二
・日本医史学会理事長 酒井シヅ
・日本歯科大学医の博物館顧問 蒲原宏
・日本綜合医学会永世名誉会長 沼田勇
・筑波技術大学教授(鍼灸学) 形井秀一
・日本有機農業研究会理事 山田勝巳
・みずほ漢方研究所・医師 橋本行生
・桂元堂薬局・中医内科医師 宮原 桂
・バースエデュケーター 戸田律子
・小崎整復院・柔道整復師・操体法 小崎順子
・丸橋全人歯科院長 丸橋賢
・いんやん倶楽部 梅葺a子

ケイ
監修のことばにかえて
 
 『病家須知』全6巻は江戸時代後期、平野重誠によって著わされ、天保3(1832)年に刊行された養生・療養・介護・助産の書である。今、170余年という星霜を経、新たに翻刻・現代語訳・注解されて現代に蘇ることになった。まことに意義深いことである。

 

この難事業に取り組み、快挙をものされたのは看護史研究会の篤志家の先生方である。看護史研究会のうちの数名の先生とは従来、日本医史学会を通じて若干の面識はあったが、研究分野も異なり、そう親しい関係ではなかった。

 「『病家須知』の訳注研究をしているので、漢方の考え方や歴史についての基本的な話をしてほしい」という看護史研究会の先生の要請を承けて、世田谷千歳烏山の会場に赴いたのは平成15年11月24日のことだった。詳細は失念したが。『病家須知』や平野重誠のことについてご質問を受けたように思う。なるほど本気で作業に取り組んでおられる様子は理解できたが、失礼ながらそう簡単に事が成就し、今日を迎えることができようとは当時の私には思えなかった。

 『病家須知』は医家ではない一般人にも理解できるよう、仮名交じりの和文で書かれ、おおむね漢字には正式な音訓ではなく俗語(口語)で意訳したルビが振ってある。それが今となってはかえってむつかしいばあいも少なくない。現代では使われない古語もあり、また仮名も変体仮名が用いられていて、古文や漢文の知識に通じていなければ解釈の容易ではないこともある。

 看護史研究会の先生方は、そんな私の予想をみごとに裏切り、その後『病家須知』の原稿や校正を次々と私のもとに送ってこられ、また何度も私の北里研究所東洋医学総合研究所医史学研究部に足を運ばれることになった。その熱意と努力には負けたというよりほかはない。

 本書の監修者として依頼を受けたときには驚いた。とうてい私の任ではないが、情熱に押しきられて固辞しきれなかったことは今でもいささか悔やんでいる。監修者としての責を果たしていないことをお詫び申し上げる。

 ともあれ、日本の誇るべき江戸文化の一端を現代に蘇らせた本書の出版は、斯界の一大慶事である。原著者・平野重誠先生も天界にあっていかに喜び、編著者の先生方に感謝していることか。これを機会に重誠先生の業績が再認識され、他の著述にも光が当てられることを願わずにはいられない。

 不断の努力を積まれ、本書を完成させた看護史研究会の編著者の先生方には満腔の敬意を表し、同会のさらなる発展を祈りつつ筆を置く。

平成18年6月21日 小曽戸 洋