食は文化を映す鏡である。
台所の食材には、地域の環境と生産様式が反映されている。台所用具や料理方法には、民族の伝統的技術が集約されている。食卓での作法には、伝統的な人間関係のルールや宗教が顔をのぞかせ、冠婚葬祭や年中行事も食事の場に象徴される。作物や家畜のおおくは歴史的な異文化交流によってもたらされたものである。基本的な人間活動である食のありかたをみることによって、地域や社会を理解することができる。
台所と食卓から世界を読み解こうというのが、この「世界の食文化」シリーズである。各地域の食生活について紹介するだけではなく、食を切り口にして見えてくる地域や民族の文化についての考察を試みている。
地域別に構成された各巻の執筆者は、それぞれの地域での生活体験をもつ第一線の研究者たちである。さまざまな専門領域から、わかりやすく食を論じた論考には、従来日本人がそれぞれの地域にいだいてきた常識をくつがえす問題提起が含まれている。
各巻に共通するテーマとしては、それぞれの地域における現代の食文化の特色を基軸に、その形成過程を歴史的にとらえ、食文化の伝統と変化を描き出すことである。したがって、各巻をそれぞれの地域の生活文化論として、独立した単行本として読むこともできるし、全巻を通覧、比較することによって、グローバル化時代の食の文明論として読むことも可能である。
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