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農文協増刊現代農業>山・川・海の「遊び仕事」_編集後記

山・川・海の「遊び仕事」

現代農業2006年8月増刊

【編集後記】

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 私自身の「遊び仕事」体験に、千葉県のある海岸で一昨年夏から参加させてもらっている「イセエビの生け簀漁」がある。 

 生け簀とは、磯の岩場に削岩機で掘った、深さ2m、底の部分が1m四方ほどの徳利状の穴。2本の土管で海とつながっていて、その土管を通って入り込んだイセエビを獲る単純きわまりない漁なのだが、エビを獲るまでが無茶苦茶にきつい。

 まず海水が入り込まないよう土管に栓をし、二人が穴に入って中の海水をバケツで汲んで頭上に持ち上げ、外で待ち受ける一人に手渡す。海水を汲み終えたら、底にたまった泥混じりの重い砂をアワビの貝殻でバケツにかき集め、やはり外の一人にリレー。今度はその砂が土管を通って逆流しないよう、生け簀から離れたところまで捨てに行かねばならない。

 エビを獲ったら獲ったで、次回の漁のために生け簀の底に円形に積み重ねたコンクリートブロック数十個(穴がエビの巣になる)を運び出して波打ち際で洗い、また元に戻して再び積む作業。

 夏の炎天下、足場の悪い磯で、重い砂やブロックを運び、汗まみれになって、一昨年の「漁獲」はなんと3匹! 誘っていただいた民宿のご夫妻によれば、獲れるときには数百匹も獲れるとのことだが、一昨年は7月に台風が3つも居座ったため、底にたまった砂が異常に多いとのこと、参加した一同は温暖化の影響かとうらめしく思った(作業後のビールはじつにうまかったが)。

 そのとき、農山漁村の「遊び仕事」は自然の変化を敏感に反映する「環境指標」のひとつではないかと思った。そして今回、さまざまな「遊び仕事」を取材してみて、たとえば150戸の郡山市石筵地区集落で全戸から160人もが参加する「堰上げ」のように、「遊び仕事」は同時に「コミュニティ指標」でもあると感じた。さらに西表島の石垣昭子さんが「海さらしは気持ちいい。気持ちいいのがいい仕事のあり方。これができる環境を大事にしたい」と語っているように、「遊び仕事」はまた「自然と労働と身体の調和の指標」でもあるのではないだろうか(甲斐良治)

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