現代農業 特別号
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パート1

ますます売れる もち・団子の秘密

宮城県・もちべえ

●編集部

原題「もち・団子で20種類以上のメニューが米のすごさを感じさせます」 1996年11月号55〜61頁

 宮城県JR古川の駅から車で約10分、国道四号線のバイパス沿いに、もちの専門レストラン「もちべえ」はある。稲作農家、佐々木伝兵衛さんが4年前にオープンしたこだわりの店だ。

 平成7年、売り上げ8600万円、今年は1億円をめざす。

メニューを開くと米のすごさが見えてくる

持ち帰りの草もち
持ち帰りの草もち。この隣には、ひとめぼれ団子が並べられている

 メニューを開くと、3種類の膳と単品のもち料理、団子が並ぶ。

 一番豪華なのが「祝い膳」だ。あんこもち・ずんだもち・くるみもち・納豆もち・お雑煮、それに沼えびを散らした大根おろしとお新香がついて1200円。

 次頁の写真が注文した祝い膳。左上のくるみもちは、白あんにクルミと醤油で味をととのえたあんをのせたもの。隣は大根おろしにピンクの沼えびを散らしたもの。上品で美しい。その隣がお新香。一番右が緑鮮やかなずんだもち。

 下の段に行こう。一番左がおなじみのあんこもち。照りのあるあんこが白いもちに映える。隣が納豆もち。一番右がお雑煮だ。揚げ、かしわ、シイタケ、かまぼこ、ミツバが添えられた醤油味。

 昔、お正月など特別な日にしかつくらなかった豪華な膳だ。佐々木さんは小さい頃のことを思い出しながらこの膳をメニューに加えた。彩りも美しく、しかも実力派。おなかいっぱいになった。

 このほか、もちの種類を少なくした二つの膳が用意されている。

祝い膳
祝い膳 上段上から、くるみもち、大根おろし(沼えび散らし)、お新香、ずんだもち。 下段左から、あんこもち、納豆もち、お雑煮。(1200円)

 もちべえ膳 あんこもち・ずんだもち・お雑煮、大根おろし、お新香(800円)

 ふるさと膳 納豆もち、ずんだもち、お雑煮、大根おろし、お新香(800円)

 単品もち料理 バラエティーに富んでいる。祝い膳に並んだもちのほか、ごまもち、しょうがもち、えびもち、あべかわもち、磯辺もち、おろしもち、草もち、カレーもち、ピザもちなど、昔ながらの伝統もちに加えて、今風のもちまで14種。各480円(持ち帰り500円、ピザもちは600円)。

 ずんだラーメン 600円、つけ麺700円(古川市の商工会青年部が創作したもの。もちではないが地域振興のためにメニューに加えている)。

 これらのもち料理のほか、ひとめぼれ団子がある。あんこ、くるみ、ずんだ、みたらし、ごまなど1本80円。5種類の詰合せセット400円。大福やゆべしも自慢の品だ。持ち帰りもできる。

 お米を加工することで、ゆうに20種類以上の料理やお菓子ができあがる。甘いものが苦手なお父さんには、しょうゆと沼えびをもちにからめたえびもち。懐かしさを感じる年輩の方にはずんだもちなどの伝統もち。若い人には団子やかわりもちメニュー。

人気トップは ずんだもち

若い女性の二人連れ
若い女性の二人連れ。ずんだもちとずんだラーメンを注文。「小さいとき、手間かけて母がつくってくれた味がなつかしくて……」

 ところで、もちべえの一番の人気メニューはなんだと思いますか? それは“ずんだもち”。“ずんだ”とは、枝豆をゆでで、豆をはじき出してすりつぶしたもの。そのずんだを、もちにまぶしたのがずんだもちである。豆の鮮やかな緑色と、独特の豆の香りが食欲をそそる。売れ行きトップ。年間売り上げの4割を占める。夏の期間に限ると5割を超える。東京の三越本店での販売では、売り上げの8割を超えた。

 「きっとこのあたりの出身の方が、懐かしくて買われたんでしょう。宮城県、仙台文化の代表がずんだもちですから。夏の暑い時期は食欲も進みません。でも、この時期しか食べられないし、これだったら食が進むんです。枝豆が材料なので、この時期が旬」と佐々木さん。

 『日本の食生活全集』(農文協)の「宮城の食事」にはこう書かれている。

 「枝豆をつぶした緑色のあんで食べるのがずんだ(糂駄)もちである。お盆の供えものにするほか、ふだんにもつくる。枝豆を煮て豆をすり鉢にはじき出し、すりこぎですりつぶす。水を少々加えてやわらかにし、砂糖と塩で味をととのえ、あんをつくる。もちは搗き入れにする。彼岸には、このあんでおはぎを包み、ずんだおはぎもつくる」

 お正月に食べるのが“あべかわもち”。砂糖の飴(水あめ)をもちにまぶして、それにさらに黄粉をつけて食べる。納豆もち、おろしもち、くるみもち、えびもち……そうしたモチ料理に、お客さんはそれぞれの思い出を重ねていく。

 建前があるからとお母さん、上京するから娘にお土産をとご夫婦づれ、グルメっぽい若い女性づれ……お客さんの幅が実に広い。

本物でいこうひとめぼれ団子

佐々木伝兵衛さん
佐々木伝兵衛さん 昭和22年、宮城県小牛田町の農家の長男として生まれる。自作の水田4.4ha、請け負っている水田0.9ha。ひとめぼれ1.5ha、みやこがねもち2.8haを作付ける。とれたお米はすべて「もちべえ」で使い尽くす。借金3000万円でスタート。従業員12名。年商1億円をめざす。

 道路脇にはためく「古川ひとめぼれ団子」にも、佐々木さんのこだわりがあふれている。「もちべえ」で味わってもらう団子は、今摺りのひとめぼれを蒸して、それをつぶしてつくる団子なのだ。

 「ふつう売られている団子の8〜9割が米粉からのものだと思います。粉になってしまったら、どこでとれたどんな品種で、どんなでき具合の米が材料になっているのかさっぱりわかりません。自分で栽培したひとめぼれを使いたいじゃないですか。米粒からつくった団子は歯ごたえが違うんです。最高の贅沢を味わってもらいたいんです」

 最近では、団子にしろ大福にしろコンビニエンスストアで売られている。柔らかいし、翌日になってもまだその柔らかさを保っている。原材料表示を見ると、みんな米粉やもち米粉。

 「うちの団子を買ってもらった方から、『なんだ、この団子は!』なんてお叱りを受けることもあります。でも、つくったその日は歯ごたえがあって、翌日には堅くなるのが当たり前なんです」

 コンビニの団子や大福に馴染んだ人にそのことを伝えるのには時間がかかる。しかし、これが農家がつくった「もちべえ」のこだわりなのだ。

 

▼その後の様子

もち・団子などの商品点数は40に増え、売り上げは年1億9000万円になる。デパートやスーパーからの注文にも応じていくために自宅のある小牛田町に加工場を建設し、レストランの加工部門を移した。販売店を駅前に開設し、レストランと合わせて現在、2カ所で営業をしている。



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