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編集後記
▼本特別号には1970年代の記事も何本か載っている。一番古いのは72年、福島の荒井俊弘さんの「味噌つくりのコツ」の記事。これを見ると大豆にこだわり、こうじにこだわり、水にこだわり「おけの材料はまわりに杉を使い、底にクルミの木を用いたものがもっともよい」と樽にこだわる。余ったものを上手に生かすのも、素材にこだわり極上の味を求めるのも農家の自給。そんな知恵が今、大きく広がる産直・加工の土台になっている。
一方、特にパート1では90年代に入ってからの記事が多い。朝市や直売所、加工所が各地にでき、平成の大凶作と新食糧法を契機に米の産直が大きく広がり、学校給食や農家レストラン、観光農園など販売方法が一気に多様化した90年代、役場や行政による「地産地消」の取り組みも本格的になってきた。70年代に始まった自給復活の動きが、大きな花を咲かせようとしているのだが、どの事例にも共通するのが「おすそ分け」の気持ち。そこには自分の労働から地域の自然、歴史までが込められていて、その物語が人と人を結ぶ。古い記事に新鮮さを感じ、新しい記事に歴史を感じ、それこそが「農家の知恵」なのだと思う。
(豊島 至)
▼「あといくら月給が上がると楽になる?」と女房に聞いたことがある。「…4、5万ふえると楽かなあ」。意外とささやかな額を言った。
月に4、5万円なら…『現代農業』の記事を読み返しながら、「最初は声が出せなくてねえ」と話してくれた朝市の看板お母さんのことを思い出した。ドブロクを仕込むお母さんの手際のよさを思い出した。白黒の写真なのに、並べられた料理の色合い、創り出した包丁さばき、味、そしてご家族の笑顔を思い出した。生き生きとした暮らしを築き、楽しく稼ぎを生みだしていたお母さんたち、忙しい時間を縫って原稿を書いてくれたお母さんたち、それを支えたお父さんたち…私はたくさんの元気をもらった。今回の特別号は、『現代農業』に込められた、そんな暮らし元気の素≠フ集大成です。
(西森信博)
▼この本に登場するのは「井戸を掘った」人たちだ。記事からは、新たなに加工品づくりを手がけ、直売をするときの熱い思いや息づかいを読み取ることができる。掲載にあたって「井戸掘り人たち」に連絡をした。元気でやっているかな、と思いながら。すると「味噌の仕込みに行くところだよ」「これから直売所に当番で出かけるよ」という張りのある声が返ってくる。とたんに編集の忙しさも忘れてうれしくなる。編集をしていて困ったのは、そんじょそこらでは食べられそうもないおいしそうな食べものがつぎつぎと現れ、ツバが出てきてお腹がすいてしまうことだった。
(西村良平)
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