現代農業 特別号
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別冊現代農業 2009年4月号
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農家が教える イネつくり コツのコツ

B5版 196ページ 定価1200円

いよいよ今年のイネつくりがスタート! 本書は今年のイナ作の成功を願って,耕うん,種籾消毒,育苗,田植え,収穫などの1年を通したイネ作業を追いながら,実際の作業とコツを『現代農業』に登場した農家を中心に選び抜いて構成しました。さらに,より深くイネを知りたいという人には,イネの形態や発育,診断法などの研究成果も収録。この1冊でイネつくりの全体がわかる。

はじめに目次編集後記購入する

別冊現代農業2009年4月号

はじめに

 大河の氾濫原に栄えた古代農耕文明のうち、麦作を基本とするチグリス・ユーフラテス川やナイル川流域では、かつての肥沃さは失われてしまった。一方、長江、黄河、ガンジス、インダス、メコンなど、水田稲作が行なわれている河川の流域は、現在でも大きな人口扶養力をほこっている。水田という食料の生産装置は、肥沃さを長期に維持する上で、きわめてすぐれた仕組みを持っている。

 水田を造るには、水源地の森林、ダムや用水路、水を貯めることができる圃場、高い地力をもつ土壌など、きわめて大きな資本を必要とする。開田や水田整備のほとんどを人力に頼っていた時代には、膨大な投資が必要であった。そのため、水田はとても大切にされてきた。「子孫に美田を残さず」というのは、逆にいえば、美田が財の象徴であったということである。

 1970年ごろから、日本の田園風景は様変わりし始めた。田の区画が整理され、耕起や田植えは機械で行なわれるようになった。一方で、遠い祖先が山野を切り開いて作り上げた機械作業に不便な山間部の水田は、植林されたりして、もとの山野にもどりつつある。現在では、圃場整備された平野部でさえ、荒地となった水田が少なからず見うけられる。

 日本の田畑が荒廃するのは、農業という仕事に魅力がないわけでも、田舎が暮らしにくいわけでもない。これは、現状の工業主導の世界経済システムや、南北アメリカ大陸を中心とする食料供給システムがもたらした。「段々田んぼで百俵ほど米を作っていても、子どもを大学にやれない」ということだ。

 人類の食料生産供給のシステム、資源利用、あるいは人々のライフスタイル(半農半Xなど)に、大きな転換が起きない限り、日本の田畑の荒廃を止めることは困難であろう。

 一方、今世紀の末には世界人口がピークをむかえ、同時期に石油資源の枯渇が始まることを、多くの識者が予想している。たとえ今日のように信用経済が弱体化しても、社会に本質的な危機が訪れるわけではない。公共投資や社会保障制度など、富の再分配によって調整することが可能だ。しかし、食料やエネルギーの欠乏は、ただちに、飢餓、社会不安、そして紛争をもたらしてきた。

 現代を生きる我々には、未来の子孫たちが飢えや戦争に遭遇することのないように、周到に準備をしておく責任と使命がある。そのためには、水田をはじめとする食料の生産装置=農地を、確実に次世代に引き渡さなければならない。一般に、農地は私有財として扱われているが、いずれは次の世代に渡さなければならない。ここに、「複数の世代にわたる公有財」としての農地の意味がある。農地法の改正が検討されているが、農地は未来の子孫たちに残していく「超時間的公有財」の側面が強くあることを、正しく認識しなければならない。

 さらに、多くの人々が長い時間をかけて作り上げてきた、種子や米づくりの知恵、技術も伝承していかなければならない。田畑が公有財として引き継がれるように、種子、知恵、技術もまた、原則的には公有財として伝承されるべきであることは、いうまでもない。

 本書が稲作技術をさらに深化させる上で、ささやかな一助となれば幸いである。


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別冊現代農業 2009年4月号
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農家が教える イネつくり コツのコツ

目次

〈カラー口絵〉

傾山麓の段々の田んぼ (撮影 岩下 守)

稲と農具への感謝(撮影 小倉隆人・千葉 寛)

壬生の花田植え (撮影 千葉 寛)

苗代づくり 宮城県 高橋誠也さん (撮影 岩下 守)

荒起こし 福島県 佐藤次幸さん (撮影 倉持正実)

代かき 福島県 佐藤次幸さん (撮影 倉持正実)

田植え 福島県 佐藤次幸さん (撮影 倉持正実)

稲刈り 福島県 佐藤次幸さん (撮影 倉持正実)

深水栽培のイネ(撮影 倉持正実・岩下 守 ほか)

への字稲作(撮影 倉持正実・赤松富仁 ほか)

水のもち (撮影 千葉 寛)

はじめに

Part1 春の作業

種籾消毒 温泉の湯で種籾消毒 奥山勝明

【かこみ】酵母菌処理もいいぞ/自家製ドブロクで種子消毒

浸種 浸種は低温で1か月 福島県 佐藤次幸さん

育苗 露地プール育苗 ハウスなし、水やりなしで苗が強健になる 清田政也

育苗 苗作りのトラブル対策 福島県 須田 諄さん・上妻正春さん

【かこみ】覆土が固まらないようにする工夫

育苗 への字稲作 黄色い苗がなぜいいか 赤木歳通

【かこみ】苗踏みは愛のムチ 福島県 佐藤次幸さん

育苗 床土の素材 渡辺正信

育苗 床土の調整 高田隆剛

育苗 箱育苗の施肥 佐藤勘治

アゼ塗り アゼ塗り作業のコツ 福島県 佐藤次幸さん

荒起こし 荒起こしは浅く、粗く 福島県 佐藤次幸さん

荒起こし ガスわきを抑える3cmの「荒起こし」 中道唯幸

荒起こし ロータリ耕のコツ 赤木歳通

代かき 代かき名人の十か条 福島県 佐藤次幸さん

田植え 疎植兼業農家一人でも楽々田植え 新潟県 谷内武夫さん

田植え 田植え作業のポイント 福島県 佐藤次幸さん

イネの生理 イネの形態と発育 春 星川清親

Part2 夏の作業

生育診断 葉齢調査でイネと親しくなれた 千葉美恵子

〈あっちの話こっちの話〉カチカチの苗床ならラクに九五七枚の苗作り/ダム底のドロを田畑に

生育診断 イネの生育診断の基礎 角田公正

水管理 深水栽培イネの仕組みと特徴 分げつ少なく、茎が太く、根が深い 大江真道

【かこみ】分げつ300本、1粒万倍!バケツで豪快イネ 薄井勝利

追肥 への字稲作 絶対に倒したくないから、施肥を変えた 新潟県 谷内武夫さん

追肥 茎の蓄積デンプンが少ないイネは倒伏する 倒伏なし紋枯なしの施肥法 澤重孝

除草 米ぬか除草 2回代かきと2種類の除草機で草を抑える 中道唯幸

除草 あなたの強み、弱みは何ですか?田の強害雑草に聞きました 編集協力・森田弘彦

害虫防除 斑点米カメムシおもしろ生態 林英明

害虫防除 畦畔2回草刈りでカメムシを寄せつけない 寺本憲之

高温対策 高温障害のメカニズムと対策 森田敏

【かこみ】高温による白未熟粒発生のメカニズム 森田敏

高温対策 疎植+元肥ゼロで乳白が減った 月森弘

イネの生理 イネの形態と発育 夏 星川清親

〈コラム〉多年草としてのイネを考えると見えてくること 本田進一郎

Part3 秋の作業

稲刈り 刈り取り適期は籾の色で判断 山口正篤

稲刈り 稲刈りは11時から、刈り取り速度は一定で 福島県 佐藤次幸さん

稲刈り 手刈りなしで収穫ロスを少なくするコースどり 福島県 佐藤次幸さん

【かこみ】うちはこんな刈り方です 富山県 堀辰雄さん/新潟県 石塚昭一さん/山口県 藤井猛さん

乾燥 新米のうまさがずっと続く乾燥法 福島県 佐藤次幸さん

イネの生理 イネの形態と発育 秋 星川清親

Part4 冬の作業、緑肥ほか

暗渠 1年に1度、暗渠を掃除する 福島県 佐藤次幸さん

機械 機械は自分で整備、修理する 塙正之

緑肥 誰でもできる緑肥抑草稲作 赤木歳通

【かこみ】コナギの抑草法 2回代かき 稲葉光國

【かこみ】密閉容器で米を美味しく貯蔵/使い捨てカイロを脱酸素剤の代わりに使う 高島忠行/兵庫県 山下正範さん

冬期湛水 冬期湛水で減った雑草、増えた雑草 宮城県 菅原秀敏さん 文・高奥満

論考 疎植栽培への字稲作 井原豊

論考 水田の管理 津野幸人

編集後記


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編集後記

◆イネには、多くの謎があり、長年にわたって私を悩ませてきた。

 (1)かつて、福岡正信翁に話を聞いたとき、「自分が学生のころは、イネは一年草と習った。しかし、稲刈り跡の株からはヒコバエがでる。ヒコバエがでるのは、イネの株が生きているからで、条件がよければ、そのまま育てて収穫することができる。イネは一年草なのか、それとも多年草か?」と尋ねられたことがある。日本で栽培されているジャポニカは多年草であり、インディカは一年草である。どうして古代の人々は、まったく性質の異なるジャポニカとインディカを、両方とも栽培化したのであろうか?

 (2)山形あたりの篤農家は、密植して無効分げつ期のころに中干しするが、奥羽山脈を越えた福島あたりの篤農家は、疎植にして同じ時期に深水にする。まったく反対のやり方なのに、どうして両方とも多収穫を実現できるのだろうか?

 (3)イネの発芽の最適温度は、32℃なのかそれより低い温度なのか? 同じイネを前にしているのに、どうして、研究者や実際家の間で観察結果が全く異なるのであろうか?

 (4)星川清親氏は、「移植まもない、分げつ期の初めころは、たとえ超密植でも、苗が小さいので空間も十分あり、分げつが出現しそうに思えるが、実験の結果、まったく分げつが出現しなかった」としている(122頁)。これはまるで、アインシュタイン・パラドックスの「非局所的長距離相関」のような不思議な現象だ…。

 今回、あらためて、多くの文献や篤農家の実践に目をとおしてみた。そして、固く絡まっていたイネの謎が、少しだけほどけたような気がした(128頁)。(本田進一郎)

◆「への字イナ作」で今も全国に数多くのファンを持つ兼業農家井原豊さん(兵庫県・故人)は、生前こんなことを語っていた。

 「月〜金曜日は仕事に精出して、土日はサラリーマンの皆さんはお金を出してスポーツクラブで汗を流しておられるんですな。わしら農家は、まあ、タダで自然の中でのエクササイズですわ。月曜から金曜までは土日のウォーミングアップみたいなもんですな」

 その言葉どおり、月曜日から金曜日までスーツに実を固めた井原さんは、金曜日の夕方からは農家に変身。作業ズボンに麦わら帽子、自転車で田んぼを見回っていた。春には、見事に平らに耕された田んぼがあり、まっすぐに植えられたイネがあった。そして、黄色くて大丈夫だろうかと心配になるほどの初期のイネが、登熟期には井原さん自身が「ゴリラのガッツポーズ」と名付けた豪快な姿に変身した。

 作業中の井原さんは格好よかった。真剣で実に楽しそうなのだ。イネの劇的な変化、豪快さ、美しさとあいまって、この格好よさがまた全国の農家をひきつけた。

 減反政策が始まって39年目を迎える。イネの作付面積は6割にまで落ち込んだ。しかし、定年帰農も含めて,新しい農家も生まれつつある。安全でおいしい米、飼料の自給をめざした飼料イネ、そして米粉利用など、イナ作に新しい光が当たり始めた。

 先祖から引き継いだ田んぼをどうするか? どうせやるならラクに楽しく,格好よく…そんな思いを込めて、本書では,みんながつい注目してしまうような作業のやり方の知恵やイネのおもしろさ、さらには、イネつくりをより深く楽しくしてくれる研究成果を収録した。ぜひ、今年のイナ作にお役立てください。(西森信博)


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「田舎の本屋さん」のおすすめ本

この記事の掲載号
別冊現代農業2009年4月号 農家が教える イネつくりコツのコツ

定年を迎えて郷里へと向かう団塊世代の数は多い。しかし,村を出て実際の作業にかかわってこなかった人たちにとっては,イナ作作業の一つ一つの作業の意味や時期ごとに連続していく作業のやり方がわからない。 本書は,1年間のイナ作作業の春夏秋冬を追いながら,各作業ごとに『現代農業』に登場したベテラン農家のやり方を中心に紹介し,各パートごとに基本的なイネの生理およびイネの見方を「作物編」からも抜粋し,この1冊でイネつくりおおよそのことはわかる。 [本を詳しく見る]

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