現代農業 特別号
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別冊現代農業 2010年3月号
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農家が教える 雑穀・ソバ 作り方・食べ方

B5版 196ページ 定価1200円

 ミネラルを豊富に含む雑穀は,今や健康機能性の高さで注目を浴びている。
 今回の別冊『現代農業』<雑穀・ソバ>は,伝統的な雑穀アワ,ヒエ,キビ,モロコシ,シコクビエ,ハトムギはもちろん,アトピーの子どもたちの主食として,またアメリカ航空宇宙局NASAの「選れた栄養を持つ」作物との報道で一躍注目を集めたアマランサスやキノア,さらには食通をうならせる本格ソバまで,雑穀の由来,栽培方法,脱穀・精白などの調製技術,そして先達の工夫と知恵がこもった食べ方を,最新の情報をもとに収録。
 今蘇る在来種,伝統的な農具と技術はもちろん,最新の研究に基づく栽培技術や,手仕事を機械に置き換えて体をラクにする方法も収めました。雑穀の魅力満載です。

はじめに目次編集後記購入する

別冊現代農業2010年3月号

はじめに

 全国津々浦々の農山漁村を訪ね歩いても、アワ、キビ、ヒエなどの雑穀を栽培している農家に出会うことはほとんどない。わずかに、北上山地や四国山地などの山深い村で、細々と作られているだけだ。ソバについても、国内の年間の玄そば消費量は、おおよそ一三万tとされているが、国内生産量はその二〇%ほどしかない。
 雑穀やソバは、イネに比べて面積当たりの収穫量が少ない。イネの反収は八〜九俵であるが、雑穀やソバは三俵ほどだ。脱ぷや精白に手間がかかる上に、歩留まりが悪い。日本社会の近代化が進むにつれて、雑穀は日本列島から急速に姿を消し、代わりに稲が作付けられるようになった。灌漑が可能なところ
は水田に変わり、焼畑が行なわれていた山には、杉や檜が植えられた。

 近頃は、雑穀ブームであるという。雑穀は米や麦よりもたんぱく質やミネラルの含有量が多く、栄養価が高い。さらに、食物繊維が豊富で、肥満や生活習慣病の予防になるといわれる。
 一九七〇年以降、米の消費量が落ち込んで、減反と転作が始まった。耕作放棄され、荒地となった田んぼがふえている。豊さの象徴であった米を食べず、貧しさの代名詞であった雑穀を求める消費者がふえているのである。
 こうして、近年では、転作田や休耕地に雑穀やソバを作付ける農家がふえてきている。もともと雑穀は、乾燥に強く、稲のように用水で灌漑する必要がない。荒れた土地でも生育し、比較的病害虫にも強い。

 しかし、雑穀栽培を始めるのは簡単ではない。まず、種の入手が難しい。日長や温度など、その土地の気候条件にあった品種でないと、うまく収穫を得られない。栽培種は、数千年の間、その土地の風土にあうように改良しながら伝えられてきたため、一度失われてしまうと、復活するのは困難である。絶滅した生物種を、二度と元に戻せないのと同じことだ。さらに、踏み鋤、石臼、水車などの道具、加工、保存、調理など食の文化も、復元するのは容易ではない。
 百年後の我々の子孫たちが、どの作物を主要な食料としているのかはわからないが、雑穀のような優れた遺伝的資源(種)、さらに栽培法、道具、食文化などの文化財が、未来の子孫に伝えられることを願わずにはいられない。

 本書では、雑穀、ソバの品種や栽培法、加工法、貯蔵法、調理法についての知恵と技術を収集しました。


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別冊現代農業 2010年3月号
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農家が教える 雑穀・ソバ 作り方・食べ方

目次

〈カラー口絵〉

ごろぎゃを使ってのへえまま炊き (石川県・撮影 千葉寛)

あわ

あわおこわ(神奈川県・撮影 小倉隆人)/あわぼったり(佐賀県・撮影 岩下守)/あわじゅし、お茶、たことにんにくの酢味噌あえ(沖縄県・撮影 嘉納辰彦)/チポロシト(北海道・撮影 中川潤)/もちあわの寒もち、あわもち、あわ飯(青森県・撮影 千葉寛)/もちあわ、うるちあわ、あわ飯(神奈川県・撮影 小倉隆人)/あわだごの小豆ぞろ(石川県・撮影 千葉寛)

たわわに実るあわ (青森県・撮影 千葉寛)

メンクル(いなきび)(北海道・撮影 中川潤)

きび

こきびの甘酒(香川県・撮影 千葉寛)/きびだんご(静岡県・撮影 千葉寛)/きびの寒ざらし粉でつくったぜんざい(福井県・撮影 千葉寛)

ひえ

ひえもち(東京都・撮影 千葉寛)/オントウレプを入れたトゥレプサヨ(北海道・撮影 中川潤)/ヒエの品種 軽米在来、もじゃっぺ、長十郎もち、黒、達磨、箒根在来(写真 星野次汪)

干してあるひえの穂 (徳島県・撮影 小倉隆人)

もろこし

もろこしのかしば(静岡県・撮影 千葉寛)/たかきびだんご(兵庫県・撮影 小倉隆人)/たかきびもち(岡山県・千葉寛)

しこくびえ

あかびえのはらみもち(岐阜県・撮影 千葉寛)/あかびえ入りのなべがき(岐阜県・撮影 千葉寛)/やつまただんご(徳島県・撮影 小倉隆人)/やせ地でもよくできる朝鮮びえ(しこくびえ)(群馬県・撮影 倉持正実)

アマランサス

ヒポコンドリアカス種/クリエンタス種/カウダータス種/アマランサスの種子(写真 西山喜一)

キノア

さまざまな穂の色をしたキノア品種/収穫時の穂(写真 氏家和広)

そば

いびきりもち(青森県・撮影 千葉寛)/串もち(青森県・撮影 千葉寛)/そばかき(群馬県・撮影 千葉寛)/そばの入り焼き(群馬県・撮影 千葉寛)/そばのいすすひき(栃木県・撮影 千葉寛)/そばっかき(群馬県・撮影 千葉寛)/そば料理三種 ほうとう、そばがき、煮こみそば(長野県・撮影 小倉隆人)

対州そばとさつまいも畑 (長崎県・千葉寛)

大久保流 十割そばの打ち方

伝統的な農具と作業

踏み鋤による耕起「地ごしらえ」(写真 星野次汪)/踏鋤 焼畑用の「軽米鋤」(岩手県・撮影 千葉寛)/オオジャクシとコジャクシ(写真 星野次汪)/がんぜき(高知県・撮影 千葉寛)/ぼったまき─ジギ作り・ジギ播き(写真 星野次汪)/ヒエ島(写真 星野次汪)/からさお(徳島県・撮影 小倉隆人)/まどり(岩手県・撮影 千葉寛)/踏み臼、搗き臼、唐臼、軽臼、碓、バッタ、バッタリー(静岡県・撮影 千葉寛)/木頭のひえ搗き(徳島県・撮影 小倉隆人)/すりびえをつくる道具類(高知県・撮影 千葉寛)/石臼のめっきり(愛媛県・撮影 千葉寛)

もちあわの脱穀 (東京都・撮影 千葉寛)

はじめに

PART1 雑穀のある暮らし

【図解】たたき棒と豆たたき 谷口いわおさん 絵と文・高橋しんじ

【図解】豆植えカギ 谷口いわおさん 絵と文・高橋しんじ

【図解】千年も前からどんべといえば雑穀でつくって来た 青森県 鳥谷文さん 絵と文・貝原浩

アワ、コキビ、シコクビエ、タカキビ…転作田に雑穀を作付け 愛媛県 牧秀宣さん

七集落一五〇戸で雑穀団地 伊藤正男

大豆、ソバ、雑穀が自給できる村を 浅沼英喜

雑穀、堅果(どんぐり、とちの実、栗)の食事 『日本の食生活全集』より

アイヌ 静内地方の食/アイヌ 栽培する植物/青森県 南部の食/岩手県 県北の食/福島県 会津山間の食/栃木県 日光山間の食/群馬県 奥利根の食/埼玉県 秩父山地の食/石川県 白山麓の食/山梨県 富士川流域の食/岐阜県 奥揖斐の食/静岡県 県北山間の食/岡山県 吉備高原の食/徳島県 祖谷山の食/徳島県 那賀奥の食/高知県 秘境・寺川の食

キビの脱穀・精白 こんなふうにやっています 岩城八枝

【かこみ】ミキサーでキビの精白 愛媛県 岡田アサコさん

雑穀の保存と精白の方法 及川一也

日本人とアワ、ヒエ、キビ 田中稔

PART2 雑穀の栽培法

〈精農家の栽培技術〉アワ、ヒエ、キビ、モロコシ在来種の栽培 岩手県 韮山正行さん 古沢典夫

〈精農家の栽培技術〉ヒエ栽培の伝統的な農法と農具 星野次汪/武田純一

〈精農家の栽培技術〉シコクビエの麦間直播栽培 岐阜県 武藤かずえさん 堀内孝次

アワ 田中稔

キビ 田中稔

キビの伝播と調理法 木俣美樹男

ヒエ 星野次汪

モロコシ 樽本勲

シコクビエ 加藤肇

ハトムギ 村上道夫/水島嗣雄/奥山善直

アマランサス 飯塚宗夫/西山喜一/豊原秀和/廣瀬友二

キノア 氏家和広/磯部勝孝

PART3 ソバを作る、食べる

村に一軒、そば屋があるといいなあ… 青森県 婆古石そば

ルチン一二〇倍で苦くないダッタンソバ 北村よう子

そば屋開業でソバ在来種を守る 佐賀県 木漏れ陽 写真・文 黒澤義教

大久保流水回し法による十割そば 大久保裕弘/大日方洋

【かこみ】はやそばの作り方 長野県 須賀川はやそばの会 田中久夫さん

石臼の再生法 三輪茂雄

【かこみ】古い石臼を電動に改造 愛媛県 清家定義さん

低温乾燥で風味豊かなソバに仕上げる 西岡政雄

そばの食事 『日本の食生活全集』より

青森県 南部の食/山形県 村山盆地の食/福島県 会津山間の食/茨城県 北部山間地帯の食/栃木県 那須野ヶ原開拓の食/群馬県 奥多野の食/群馬県 赤木南麓の食/福井県 福井平野の食/長野県 木曾の食/長野県 奥信濃の食/静岡県 県北山間の食/徳島県 祖谷山の食/高知県 県西山間の食

ソバの起源と伝播 本田裕

ソバの生理と栽培 長瀬嘉迪/氏原暉男/本田裕/北林広巳/伊藤誠治

ソバ多収栽培のポイント 長友大

輪作作物としてソバを活用しよう 氏原暉男

ソバ 倒伏させて風による落果を防ぐ 北海道 村田博さん 池田佳弘


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編集後記

◆人がイネ科植物の種子(穀物)を食料として利用し始めたのは、きわめて古い。イスラエル北東部のガリラヤ湖西岸から出土した約二万三千年前の遺跡からは、野生の麦のでんぷんの粒が付着した石器や、生地を焼いたと思われる炉の跡が見つかっている。

 また、オーストラリアの約三万年前のカディ・スプリングズ遺跡では、草の種子を加工した跡が残る石臼が出土している。さらに、ウクライナのモルドヴァ遺跡、スペインのカスティリョ洞窟遺跡でも、四万年以上前の遺跡から、食料の加工に使われたと思われる大型の石臼が出土している。

 最新の報告では、アフリカのモザンビークで発掘された約十万年前の遺跡から、野生のモロコシの種子を石器ですり潰した跡が発見されている。洞穴から出土した七〇個の石器を調べたところ、石器の表面にモロコシのでんぷんが多く残されており、モロコシの種子を石器ですり潰して、食料にしていたと考えられている。

 十万年前という時代は、ヒト(ホモ・サピエンス)がアフリカからユーラシア大陸に進出する前であり、ユーラシアではネアンデルタール人が活動していた頃である。人の歴史は、雑穀と共にあったと言えるかもしれない。(本田進一郎)

◆本書に執筆していただいた岩手大学の星野次汪先生から、自身が育種した糯性ヒエ品種「長十郎もち」と、黒米、赤米、あわ、ハト麦、昆布、ひじきなど、岩手の海と山の産物一〇種類を一つにした製品「いわての匠ごはん」が届いた。岩手のすべてをこめた商品をと願った星野先生の想いが伝わってきた。

 夫婦二人のわが家で、二合の白米に混ぜていただく。ほのかな海藻の香りとプチプチとした雑穀の食感があり、不思議な懐かしさが伝わってきた。

 雑穀は用水が自由にならなかった山畑で、暮らしの基本食料として作りつづけられてきた。しかし今、雑穀を支えてきた人たちがお年を召されて、伝統的な雑穀生産の技が消えようとしている。最近、雑穀が持っている健康機能性が注目され、水田転作作物として再び栽培がふえてきたが、農政の変化がその生産に影を落としそうで心配が募る。

 本書は、「雑」穀と呼ばれている作物について、できるだけ正確に、また、暮らしのなかで雑穀が持っていた意味、そして厳しい環境の中で栽培し、加工されてきた農家のかたたちの技を、数少ない資料をもとにしながら拾い集め、なんとかお伝えしたいと企画した。私たちの想いも含めて受け取っていただけると幸いです。(西森信博)



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