月刊 現代農業
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夏の石灰欠乏に挑む

巻頭写真

pH調整で毎年かかさずまいてる石灰。
土にいっぱい貯まっているのに、
なぜか夏には、葉先枯れや尻腐れが……。
石灰を作物のすみずみまで行き渡らせる技術に、
この夏、全力で挑む!

「カルシウムは水で動く 積極かん水で挑む」コーナーより

夏秋トマト
かん水量1.5倍で尻腐れがガクンと減った

山口・林 謙次

 約10年前に脱サラして新規就農し、山口県の高原の町、旧阿東町で夏秋トマトをつくっています。当産地の部会「山口あぶトマト」は部会員100名弱、7月から11月下旬までの出荷で、売り上げ3億円を目標に頑張っています。

かん水チューブは株元と通路に設置。乾燥防止や抑草のため、土壌表面は竹チップやモミガラで被覆している(2016年4月号)

かん水チューブは株元と通路に設置。乾燥防止や抑草のため、土壌表面は竹チップやモミガラで被覆している(2016年4月号)

石灰が十分でも尻腐れ

 就農した頃は、トマトに尻腐れがよく出ました。当時の品種は、樹勢が強いと心止まりになりやすい「桃太郎エイト」(タキイ)で、生育初期は暴れないよう水を控えて栽培するのが常識でした。そのためか、土壌診断では石灰過剰と出るにもかかわらず、尻腐れが出ていました。

 その後、暴れにくく多収できる「麗夏」(サカタ)に品種を変えました。トマトは樹勢が強すぎると果形が乱れたり出べそ(二次肥大)が出たりしますが、麗夏は心止まりしにくく、出べそが多少出るくらいの樹勢で育てたほうが増収できる品種です。

 水をやっても暴れにくいので、初期から樹勢をやや強くするため、4〜5年前からかん水量を徐々に増やしてきました。すると、尻腐れも減っていったのです。土に石灰が十分あっても水がなければ吸われない、そう教わった通りだと実感しました。

 最近の品種は麗夏に限らず(桃太郎系も含めて)、暴れて心止まりになる品種は少ないと思います。どちらかというとおとなしくて、つくりやすい品種が多いように感じます。若苗定植して、少し早めにかん水を開始できるようになっています。

品種は麗夏。かん水量が増えて、尻腐れは激減した

品種は麗夏。かん水量が増えて、尻腐れは激減した

かん水量1.5倍、尻腐れは激減

 わが家は現在、自家育苗でセル苗のダイレクト定植をしています。麗夏は比較的おとなしいとはいえ、若いセル苗にしっかり肥料を効かせれば暴れてしまいます。そのため、初期生育を抑えるため、元肥はウネ部分ではなく通路部分に入れています。

 かん水の開始は基本、3段果房の開花時です。しかし、わが家では、その前から少しずつかん水を始め、春の雨が少なかった今年は2段開花で本格的にかん水し始めました。かん水チューブはウネ部分に加えて通路にも設置して、元肥を効かせるようにしています。かん水チューブを増やしたので、トータルのかん水量も1.5倍くらいに増えていると思います。

 通路にかん水するようになったこと、かん水量が増えたことによって、現在は尻腐れがほとんど出なくなりました。前は尻腐れ予防にカルシウム剤をよく葉面散布していましたが、今はまったくやっていません。また、かん水量を増やしたことでハウス全体の湿度が上がって、トマトの生育そのものがよくなったように思います。

 品種を変えてかん水量を増やしたことで、桃太郎時代は反当たり10tが目標でしたが、現在は14tを目指せるようになりました。

樹勢が強すぎても尻腐れ

尻腐れはかん水不足だけでなく、樹勢が強すぎても発生するようです。就農2年目の年(当時は桃太郎エイト)、セル苗のダイレクト定植に挑戦したら、水をやったわけでもないのに、栽培技術もなかったため樹が大暴れ。1段目の果実ほぼすべてに尻腐れが発生、廃棄することになりました。樹勢が強いとなぜ尻腐れが発生するのか、詳しいことはわかりません。ただ、この尻腐れを水不足によるものだと勘違いしてかん水すると、よけい暴れて逆効果です。樹勢を強めに生育させたほうがいい品種に変わりましたが、強くなりすぎないよう、肥料のやり方などを注意しています。

平ウネ、有機物マルチでいく

 ただし、たんにかん水量をどんどん増やせばよいわけではなく、トマトの樹をよく観察しながらかん水するのが大前提だと思います。樹勢が弱くなってから、もしくは強くなってからでは手遅れで、そうなりそうな前段階で手を打つのが大事です。そうはいっても難しく、10年トマトをつくっていても、毎年、失敗したなと思うことがあります。

 わが家では、少しでも土壌水分をコントロールしやすくするため、ポリマルチを使っていません。マルチがあると地下から水分が勝手に上がってくるし、地表の水分を目で確認できないので、暴れる可能性があります。除草の手間はかかるのですが、面倒でも平ウネのマルチなしです(有機物で被覆している)。そのおかげか、自分の圃場には青枯病が出ていません。マルチを張らないと地温が上がらないので、青枯れ抑制効果もあるのかもしれません。

筆者

筆者

 かん水量も多すぎれば弊害が出ると思います。なんでも適量が一番と思いますが、この加減が一番難しい。いつか答えを見つけられるよう、日々頑張ろうと思います。

(山口県山口市)

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現代農業 2017年8月号
この記事の掲載号
現代農業 2017年8月号

巻頭特集:夏の石灰欠乏に挑む
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