収量が増える 障害が減る サトイモの水田栽培
偶然から生まれた水田栽培、大成功
鹿児島・鍛治屋公貴
サトイモの種イモを持つ筆者
水が豊富で稲作が盛ん
私が住んでいる鹿児島県さつま町は、標高1067mの霊峰「
紫尾山 」があり、南九州一の大河「川内川 」が流れる山紫水明の地です。古くから、川内川の支流から流れ出るミネラルたっぷりの水を使った稲作が営まれ、肉用牛などの畜産、トマトやイチゴなどの施設園芸との複合経営も盛んに行なわれてきました。私はここで、かじや農産(株)の代表取締役として米や野菜をつくっています。自衛隊を退職後、父親が営んでいた精米業を引き継ぎ、1998年に就農。当初は水稲70aで小規模でしたが、地域の方々や関係機関の協力を得ながら、徐々に規模を拡大してきました。現在は水稲11ha、水稲の受託作業12ha、サトイモやホウレンソウなどの園芸作物4haの経営です。
米づくりでは、米ヌカなどの有機質肥料を豊富に使うなど、土づくりからこだわっています。2018年に山形県庄内町で開かれた、第12回「あなたが選ぶ日本一おいしい米コンテスト」プレミアム部門に、鹿児島県オリジナル品種の「あきほなみ」を出品し、最優秀金賞(日本一)を受賞できました。
隣の田から水が染み出してきた! その後は……
それでは、本題のサトイモの湛水栽培を紹介します。私は水稲で規模拡大をするなかで、従業員の冬場の雇用確保や経営リスクの分散などを目的として、野菜の栽培を模索し、15〜16年前にサトイモをつくり始めました。町の重点品目であるサトイモ、ゴボウ、カボチャを栽培すると、さつま町農業再生協議会から産地交付金(去年は10a6万5000円)をいただけることも魅力でした。
あるとき、水稲を栽培している田んぼの横でサトイモをつくったら、畦畔から水が染み出し、サトイモのほうに流れ込んで溜まってしまいました。どうしようもないのでそのまま放置しましたが、やがてイネ刈りも終わり、サトイモの収穫を始めてみると、水が溜まった場所のほうが芽つぶれ症や裂開症が少なく、イモも大きかったのです。それ以降、夏場は田んぼに水を入れてサトイモを栽培するようになりました。
サトイモ栽培中に水を張った状態。手前から奥に水を流している。各ウネ間の端(手前)に同じサイズの凹形の板を設置すると、どのウネ間にも均一に水が行き渡る(写真提供:池澤和広、以下*も)
サトイモの植え付け風景。ジャガイモ用の機械を応用し、マルチに穴を開けながら種イモを落とす
サトイモは水を好む!?
湛水栽培(水田栽培)の手順は以下の通り。
まず、サトイモは連作を嫌う作物なので、前作で水稲を栽培した場所でつくります。施肥やウネ立て、マルチ張りなどの準備をし、3〜4月に植え付けます。湛水するのは6月下旬(梅雨明け頃)から9月まで。常に一定量の水をかけ流すのがポイントです。その後は畑状態にして、11月下旬から収穫します。
湛水栽培だと地上部の生育がよく、イモの着生数や収量もアップします。品質面では割れや芽つぶれ症などの障害がなくなります。また、センチュウ被害もありません。なぜそうなるのかはわかりませんが、サトイモは本来水を好む植物なのでは、と思っています。
欠点は、畑に比べ土壌水分が多いので、収穫時の作業性が悪いことです。特に雨が多いと苦労します。明渠や暗渠などの排水対策が必要です。
研究も進んだ
3年ほど前、サトイモの湛水栽培を研究している鹿児島県農業開発総合センターの池澤和広さん(現・農業開発総合センター熊毛支場園芸研究室長)と出会い、栽培法や疫病対策、大吉(セレベス)の親イモの有効活用などの情報交換をするようになりました。池澤さんらが実証したサトイモの湛水栽培はマニュアルも作成されました。また、去年は県園芸振興協議会川薩支部が主体となり町内に実証圃を設けて試験した結果、収量が2割ほど増し、裂開症や芽つぶれ症、乾腐病の抑制効果が明らかになったと報告を受けています。
そんななか、役場では国の事業で、湛水栽培サトイモシンポジウムを開催。私は事例発表者として登壇した り、サトイモの大産地である愛媛県四国中央市のJAうまを視察したりと、貴重な体験をさせていただきました。また、大手飲料メーカーがサトイモ焼酎を製造するのに湛水栽培の親イモを使いたいといってくれたので、原料を納品することになりました。
今後も湛水栽培を継続し、品質のよいサトイモを生産していきたいと思います。
(鹿児島県さつま町・かじや農産(株))
この記事の掲載号『現代農業 2020年7月号』緊急特集 コロナで見えた農家力
オレたち、いまどき「への字」に変えた/産地農家に聞く アスパラの立茎、どうしてますか?/リンゴ 落ち着いたカームツリーで早期多収/新連載 草刈り動物を飼う/梅梅生活で体を守る ほか。 [本を詳しく見る]『最新農業技術 野菜vol.2』農文協 編 3つの特集。一つ目はニンニク、サトイモ、アスパラガスなど再び元気を取り戻してきた野菜の特集。ニンニクは青森県と西の伝統産地、香川県の研究とトップ農家の栽培技術。サトイモは’愛媛農試V2号’など各地で育成された個性的な系統と品種、培養苗やセル成型苗育苗など高度になった栽培技術を各県の第一線の研究者が総力を挙げて集大成。二つ目は食用ホオズキやアイスプラント、ノラボウナなど直売所を賑わせてくれる12の新顔野菜。三つ目は「業務・加工用野菜」で、求められる品質・規格や刈り取り再生法などの新技術。 [本を詳しく見る]