月刊 現代農業
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巻頭特集

(依田賢吾撮影)

身近な調味料「お酢」が、急展開を迎えている。
知られていなかった効果が、続々と明らかになってきた。
野菜が気象変動に強くなる!? そして、雑草を枯らすって!?

キャベツ酢の残渣液に浸けると、
キャベツ苗が乾燥に強くなる

本間知夫

キャベツ酢残渣液

キャベツ酢の残渣物を活用

 夏秋キャベツの生産量が国内第1位である群馬県では、キャベツ苗の植え付けは4月下旬から7月下旬まで行なわれますが、植え付け直後の高温・乾燥による苗の生育不良や枯死、そして収量への影響が問題となっています。

 2017年、理化学研究所を中心としたグループが、イネやトウモロコシなどの作物の苗に酢酸(酢の主原料)の水溶液をかん注すると、その後、かん水せずにしばらく放置(乾燥処理)をしても枯れずに生存する、すなわち乾燥耐性が付与されたことを報告しました。酢酸だけで苗が乾燥に強くなるなら、簡単で非常に実用的な方法と思われました。

 群馬県ではキャベツの利用拡大の一環として、キャベツを原料とした食酢である「キャベツ酢」を、群馬県農業技術センター、嬬恋村が中心となって開発しました(86ページ)。キャベツ酢はキャベツの搾り汁を酢酸発酵させた液体ですが、製造後の残渣は廃棄物として棄てられています。酢酸を含むこの残渣液を使ってキャベツ苗に乾燥耐性を付けることができれば、廃棄物の有効利用にもつながります。

 そこで、群馬県農業技術センターおよび鳥取大学農学部(鳥取砂丘があり乾燥地の研究で有名)の協力のもと、試験を開始しました。

キャベツのセル苗を、40倍に薄めたキャベツ酢残渣液に浸す(作物によっては濃度だけでなくpHを調整する必要もある)

40倍に薄めて4〜5日浸ける

 キャベツ酢残渣液には酢酸が4.2%含まれているので、2017年の報告を参考にして、約20〜80倍に薄めて使いました。比較として、同じ量の酢酸を含む水溶液、および水道水も使いました。

 農業現場では「苗を定植するときには乾燥耐性が付いた状態にしたい」「たくさんの苗を同時に処理したい」と考えるはずです。そこで、播種4週間後のセル苗(1枚128苗)を使用し、セルトレイの下1/3が各処理液(キャベツ酢残渣液、酢酸水溶液、水道水)に浸るようにして、2〜7日間置いて酢酸処理をしました。

 その後、10日間水をやらずに乾燥処理を行ない、それぞれ萎れが見られたところで5日間かん水。生存した苗を数えて生存率を求め、乾燥耐性の有無を評価しました。

 その結果、キャベツ酢残渣液を約40倍に薄めた液に4〜5日間浸けた苗の生存率が一番高く、乾燥に強くなったことが示されました。

酢酸以外の成分も効いている!?

 酢酸水溶液で処理した苗も水道水に比べて乾燥に強くなったのですが、なぜキャベツ酢残渣液で処理した苗が一番強くなったのか、その要因は現在のところわかっていません。キャベツ酢残渣液中に含まれるビタミンUやアミノ酸、あるいは未知の成分が効いているのかもしれません。キャベツ酢残渣液の中には細かい粒径の澱が含まれていますので、それが育苗培土の土壌の間隙に付着し、物理的に乾燥しにくくなった可能性も考えられます。

 酢酸を含む資材として市販の木酢液でも試しました。容器に書かれている植物の活性を促すための希釈倍率(200〜300倍)では酢酸の量が少なすぎてまったく効果がなく、キャベツ酢残渣液の場合と同じ酢酸濃度に合わせて(20〜40倍希釈)処理したところ、木酢液中に含まれる他の成分の影響なのか、苗は萎れて枯死してしまいました。

 木酢液以外でも、さまざまな素材で調べてみる価値はありそうです。手作りしやすい柿酢ならどうか。キャベツ酢の残渣でなく、食用のキャベツ酢自体では? 単なるキャベツの搾り汁に食用酢を混ぜた、発酵過程を経ていないものならどうか……。今後の追求課題です。

浸漬後に10日間乾燥、
5日間かん水してみると……

 

液体に5日間浸けた後、セルトレイのまま10日間乾燥処理をした苗(以下も同様)

 

 

その後に毎日かん水。5日後の苗

 

 

 

 

 

 

※実験は3回繰り返した(生存率は3回の平均)

乾燥耐性以外の効果も期待

 今回はセルトレイをキャベツ酢残渣液に浸すという方法で、キャベツ苗が乾燥に強くなることが確認できました。苗の生産現場での応用が期待できると思います。しかし、現地での利用が多い地床苗の場合、キャベツ酢残渣液を直接苗や土壌に散布しても、今のところ同様な結果は得られていません。

 また、一度獲得した乾燥耐性がどの程度の期間維持されるのか、処理をした苗のその後の生育や収量などに影響がないのか、他の作物でも同様の効果が得られるのかなど、検討・確認すべき課題が多く残っています。

 なお、酢酸で処理すると、植物体内では傷害を受けたときに機能する植物ホルモンであるジャスモン酸の合成が誘導されることがわかっています。乾燥耐性以外の効果も期待できるかもしれません。さらなる研究を進めて、現場で利用できる技術として確立したいと考えています。

(前橋工科大学工学部生物工学科)

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