月刊 現代農業
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巻頭特集

青柿・豆柿のタンニンとハンマーの鉄を反応させた(44ページ、伊藤雄大撮影)

茶葉と鉄を水に入れるだけで、真っ黒に反応する「タンニン鉄」。
茶葉だけでなく、渋柿、クリ、クヌギ、サザンカ……。
新しいタンニン素材探しが大盛り上がり。
たった1回の散布で、野菜の味がガラリッと変わるのはなぜ?
畑で団粒促進、田んぼではチッソ固定が増える……。
各地でミラクルが起こっている!

ヒメヤシャブシ、マイマイガの糞、クリの新葉…
タンニン素材と鉄のよもやま話

福島・月田禮次郎れいじろう

筆者(76歳)(写真はすべて倉持正実撮影)

鉄の何億年もの大循環

 私は国道沿いの自宅から2.5kmほど林道を上った標高725mの台地にある林に畑地を開き、現在はカラーやヒメサユリなどの山野草を栽培しています。また、農家民泊で都会の小中学生の生活体験学習を受け入れたり、仲間とともに講師を招いて自然・歴史・民俗などの勉強会をしてきました。

 私が鉄に興味をもったのは、2011年に農文協から出版された『シリーズ地域の再生⑰ 里山・遊休農地を生かす』を読んでからです。守山弘先生の書かれた第1章に、地球上の鉄の動きが詳しく説明されていました。火山灰などに含まれる鉄は植物のタンニンと結合して水に溶け出し、海まで届き、植物プランクトンを育てる重要な働きをしています。食物連鎖を経て、最終的には海底に沈み、プレートの移動や火山の噴火で再び地表に出る。鉄の何億年もの大循環、鉄と植物のかかわりに興味がわいてきました。

祖母のお歯黒に使ったヒメヤシャブシ

 1887年(明治20年)生まれの私の祖母は、私が子どもの頃、お歯黒をしていました。その材料として「ヒメヤシャブシの実から出るタンニンを使った」と後に父が教えてくれました。「歯を染めたときは、本当にきれいなものだった」そうです。やり方はぜんぜん聞いていませんが、「カネをつける」といっていたように思います。

 私の農園に上る林道はほぼアスファルトで舗装されましたが、地下から路面に水が浸み出して赤サビ色になっているところが数カ所あります。鉄分を含んだ水が地上に出て酸化し、赤い酸化第二鉄の状態となるようです。

 前述の本の記述をヒントに、そこにヤシャブシの実を置いて石で潰してみました。少し時間が経つと、インク色になってきます。これがタンニン鉄という安定した物質で、海まで流れて海の生き物を育むのだと知ったときは、感動でした。

 さっそく、民泊に来た子どもたちを農園に連れて行くとき、近くにあるキブシの実を水の浸み出る場所に置いて各自に潰させました。そのときは何も話さず、帰りにその場所で説明を始めます。みごとにインクの流れができた現場で、鉄の大循環の話をします。中学2年生以上であればその意味をおおよそ理解し、興味をもって聞いてくれます。

キブシの実

マイマイガの糞でも染まった

 2014年、隣の昭和村でマイマイガが大発生しました。林道脇に2本ある直径50cmものブナの木は、葉が1枚もなくなり、梢に着生しているヤドリギの葉だけが残っていました。林道は幼虫の糞だらけ。幹には終齢幼虫が縦にビッシリと静止し、遠くから見ると熊が木から降りるときにつける爪跡かと思うほどでした。

 翌年は私の農園も被害を受け、クリの木の葉が丸坊主になり、林道の側溝に糞が溜まり、山側から浸み出す赤サビ色の水をインク色に変えていました。幼虫がよく噛み砕いたクリの葉だからタンニンも濃縮したのでしょうか。それにしても幼虫の腹の中を通ってもタンニンは変化しないのですね。

 

クリの新葉でタンニン鉄をつくる

クリの新葉。クリタマバチの虫こぶがついたものを並べてみた(6月12日撮影)

 

 

ネットに入れて、木槌で5分ほど叩いた。
細かく切ったほうがタンニンは出そう

 

 

20ℓの容器に入れ、使い古しのトラクタのブレーキドラム(鋳物)と水を入れた

 

ペットボトルでタンニン鉄実験。左からクリ・クヌギの新葉、クリの虫こぶ、キブシの実

 

ユリの微量要素欠乏対策に

 本誌19年10月号が届くまで、身近に転がっている鉄が畑の資材に使えるなど考えてもみませんでした。黒ボク土の圃場でつくるユリには、微量要素欠乏とみられる葉の黄化が出ています。今までは市販の鉄資材を使っており、それなりの効果はありました。これを手作りのタンニン鉄で代用できるかもしれません。

 しかし、当地には茶の木が分布しておらず、タンニン素材として地元で使える植物は何かと考えました。まずはお歯黒に使ったヒメヤシャブシ、ヤシャブシ、キブシの実で試してみました。少量の実がとれたので、潰してペットボトルに鉄クズと一緒に入れたところ、みごとにインクができました。

 10月になってマメガキの実をとって試すと、これもいい具合にできました。ただ、秋も遅く、作物に試す前に冬となりました。

クリの新葉でタンニン抽出

 今年に入ってやってみたのは、5月末から6月初め。コナラ、クリ、ヤマハンノキの新葉、クリタマバチの虫こぶで試しました。やわらかい新葉には虫害のリスクを防ぐために、タンニンが多く含まれるそうです。これらの中で入手しやすく一番よかったのはクリの葉でした。虫こぶも色は出たものの糖分が多いためかすぐに発酵して、ショウジョウバエが多発しました。

 肝心のユリの葉の黄化対策ですが、今年は暖冬で蕾が早く上がってきたため、タンニン鉄の本格的な仕込みが間に合わず、ほとんど試せないままでした。ただ、ユリ科のタマガワホトトギスでは効果を確認したところです。

(福島県南会津町)

タマガワホトトギスの黄化した葉に葉面散布してみた。7〜10日後には色がのってきた。ただし、葉面散布では直後に雨で流されないとお歯黒状態になるので、株元にやるのがよさそう

「田舎の本屋さん」のおすすめ本

現代農業 2020年10月号
この記事の掲載号
現代農業 2020年10月号

2020土壌肥料特集:土はどう変わる? タンニン鉄栽培 大盛り上がり
根っこ探検隊が行く/排水をよくする明渠・暗渠のアイデア/手づくり有機資材のQ&A/やっかいものを堆肥・肥料に/緑肥で減肥最前線/堆肥を上手にまく一工夫/肥料袋 開け方・閉め方・運び方/元肥一発肥料での過繁茂・肥切れ問題を考える/根粒菌をとことん活かしてダイズ多収/ナシの元肥、春に切り替える/鉄で牛が喜ぶ牧草づくり ほか。 [本を詳しく見る]

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