中国は数千年の歴史を持つ農業の歴史の古い国です。水稲の歴史もすでに7000年あまりあり、養鴨の歴史も3000年あまりになります。稲田養鴨は中国伝統農業の精華ですが、現代では次第に化学肥料、農薬、除草剤に取って代わられつつあります。人々の環境意識の高まりにつれて、人類は自己の生存環境へより大きな関心を向けています。現在、農薬や化学肥料、除草剤を使用しないで安全な米を生産することはとても難しいことですが、合鴨水稲同時作はそれを実現できます。合鴨水稲同時作は稲田養鴨を継承し、改良し、発展させたものであり、伝統農業と現代農業を結合させた技術です。この方法には大きな可能性があります。
合鴨水稲同時作と稲田養鴨は決して同一の概念や内容ではありません。稲田養鴨においては、鴨は昼間放ち、夜収容します。鴨を放している時間は短いので、鴨の力を十分に発揮させていません。合鴨水稲同時作では、肉用・糞の利用・役畜としての鴨の力を十分に発揮させます。鴨は虫を駆除し、除草し、施肥し、稲を刺激し、土を軟らかくします。田は鴨に仕事・生活・休息の場所、十分な水分、豊富な食料を提供します。合鴨水稲同時作の技術はすでに単純な水稲栽培技術ではなく、人間の稲作に対する思想、観念、方法に全面的で新しい変化をもたらします。
中国には豊富な鴨品種資源があります。これは我々の先祖が残してくれた貴重な遺産です。「中国水禽」だけに記載された鴨品種だけでも24に上ります。体型によって中型、小型に分けられます。用途によって肉用、肉卵兼用、卵用とに分けられます。毛色によってスズメ色型、白色型、黒色型に分けられます。生態によって水郷型、山地型に分けられます。合鴨水稲同時作に適した品種はこの中から完全に選択可能です。
日本の合鴨水稲同時作専門家萬田正治先生、古野隆雄先生らが鎮江市に来て視察、指導をしました。これについては先ず日本の農山漁村文化協会に感謝します。当協会が「日本農業書総目録」を提供してくれたことに感謝します。まさにこの目録の中の多くの情報の中から合鴨水稲同時作の情報を見つけることができたのです。農文協総務部が私たちのために掛け橋を作り、何度も連絡をとってくれました。
古野先生、萬田先生は合鴨水稲同時作を研究し作り上げました。彼らは日本での普及のみに満足せず、熱心にこの技術をアジア各国に広めています。私は萬田先生になぜこんなにまでも熱心なのかを尋ねてみました。萬田先生は「21世紀はアジアの世紀です」と答えました。なんと素晴らしい答えでしょう!
中日両国の農業科学技術者、農民が、合鴨水稲同時作についてともに交流し、研究するという、この真剣な態度、実務を重視する姿勢、熱心さは人々に深い印象を与えました。
日本の合鴨水稲同時作の経験と、日本の専門化の熱心な指導、中国の農業技術者・農民の努力が有れば、合鴨水稲同時作という環境保護農業と持続的農業の新技術は必ず中国において成功を収め、新たな発展を遂げるでしょう。
合鴨水稲同時作はすでに日本全国、アジアの多くの国において重視され、普及されています。水稲栽培大国、水稲栽培の長い歴史を持つ国、稲田養鴨の発祥地として、中国は合鴨水稲同時作において明らかに落伍しています。私たちはそれに気づき、追いつかねばなりません。
鎮江市視察の期間中に、鴨やその生産品、鴨の文化、鴨の鳴き声を聞いただけで、萬田先生も古野先生も俄然やる気を出しました。公園など見向きもせず鴨を見に行こうとしました。この精神は感動的でした。
鎮江市視察期間中、日本お専門家たちはどこへ行っても、いつもノートとペンを持ち、聞いたことを全て記録していました。このような向学心には敬意を感じました。
鴨や合鴨水稲同時作について、中日両国の科学技術者や農民の間で交流すべきことは実にたくさん有ります。私たちはまだはじめたばかりです。日本の専門化による多方面の指導をこれからも希望します。
水田には生産の機能と、養殖の機能、エコロジーの機能があります。それゆえに水田は水稲栽培が可能なだけでなく、飼料や肥料を作ることができ、禽類魚類えお生産することもできます。
"春江水暖鴨先知(春河の水が温かくなると鴨が先ずそれを知る)"、鴨というこの水禽にはもっと知らなければならないことがあります。鴨のように多くの機能を持っている家禽はとても少ないのです。古野先生は"一鳥万宝"と言いました。私は"一鴨万宝"と要ったほうがむしろよいと思います。"合鴨万歳"という誉め言葉は決して言い過ぎではありません。
何事も全て不断に発展していくものです。合鴨水稲同時作とて同様です。古野先生は"稲‐鴨"成功の基礎の上に、"稲‐水草‐鴨‐魚"をすでに実践しています。今回の鎮江市訪問に際して、古野先生は"稲‐水草‐鴨‐魚‐貝"という新しい構想を出しました。
鎮江市農村のいくつかの郷鎮野農民は鴨卵をよく食べるので、各家々で鴨を飼う習慣があります。これは合鴨水稲同時作を進める上でとても有利です。春には鴨の雛を育て、夏には合鴨水稲同時作を行い、秋に鴨は卵を生みます。
"喜看稲菽千重浪(米や豆の豊作を喜ぶ)"、今年の秋、合鴨水稲同時作が成功したら、日本の専門化にもう一度鎮江市に指導に来てもらい、体験交流することを心から望みます。そして、ともに豊作の喜びを分かち合いましょう。
中国の歴史上、南方の水田は水草を緑肥として利用しています。水草は一種の水生シダ植物です。それは窒素固定藻類と共生体を形成しており、とても高い窒素固定能力と繁殖力を持っています。
60年代末から70年代初めまで、南方の水田地域では水田での水草利用が大きく提唱されていました。技術学校でも水草についての研究と普及を少なからず行っていました。しかし、水草の利用と害虫の防除がうまく解決できず、ここ数年、この研究は行われていません。
合鴨水稲同時作では、鴨を主役におくので、状況は完全に変わります。先ず水草が養分を豊富に含みます。鴨は喜んでそれを食べ、水草はえさとなって鴨の腹を通り糞となって田にかえります。これによって肥料の生産が増えると同時に水草利用の難題も解決できます。二つ目は、水草による害虫の発生は鴨によって捕食、制御できます。これによって水草の害虫を防除できるだけでなく、鴨は優れた動物タンパクに恵まれます。三つ目は、鴨による中耕作用、水の撹拌作用が水草繁殖を有利にすることです。
現在中国南方の稲作は多くが単作です。水田の総合的能力が十分に発揮されておらず、資源が十分に活用されていません。わが国の持続的農業発展のために、わが国南方農作物と畜禽を結合させた農業システムを開発することが、次の世紀の重要な研究課題となるでしょう。おそらく合鴨水稲同時作より理想的な農牧結合のかたちは無いでしょう。合鴨水稲同時作はわが国の伝統的な稲田養鴨の基礎の上に発展してきました。しかし、稲田養鴨よりもより科学的、よりシステム的、より合理的なものであり、それゆえに容易に農民に受け入れられるでしょう。
合鴨水稲同時作の考え方はとても優れており、多くの機能を持っています。鴨は害虫駆除、除草、施肥、中耕と水の撹拌、生育の刺激という機能を持っていますが、これらは現代の個別の水稲栽培技術が持っていない機能であり、人間の力ではなし得ないものです。水田は鴨のために仕事、食料、生活、休憩、運動の場所を提供しています。
化学肥料、農薬、除草剤の大量施用は、環境を汚染するだけでなく、その生産には大量の化石燃料を消耗します。しかし、鴨を利用し、鴨に害虫駆除、除草、施肥、中耕をさせれば、エコロジカルなエネルギーの利用となります。両者を比較すると、後者の優越性は言う必要の無いくらい明らかです。エコロジカルなエネルギーの利用は持続的農業の発展にとって大きな潜在能力を持っています。
水田の生態システムは人口湿地の生態システムに属しています。専門化の中にはこう指摘する人もいます。「社会経済の刺激と制約によって、水田生態システムの養分バランスが崩されている。しかも、養分の流失は加速している。」「現代農業において、養分はシステム内において再循環の比率を下げており、システム外からの投入への依存を高めている。このような現象は水田生態システムにおいてより顕著である。」
合鴨水稲同時作は、水田生態システムの機能を回復、増強させるために重要な役割を果すでしょう。