日本合鴨水稲同時作技術視察記

沈暁昆 鎮江市合鴨水稲同時作訪日視察団


日本合鴨水稲会と鹿児島大学の招待により、鎮江市日本合鴨水稲同時作訪日視察団一行6名は2002年7月11日から19日まで、日本の合鴨水稲同時作の発祥地であり研究の中心である九州地方の鹿児島大学や福岡県、また岡山県などで視察学習を行いました。そして十分な成果を得て来ました。

一、合鴨水稲同時作訪日視察の概況

日本の合鴨水稲同時作は中国の"稲田養鴨"の技術を学習し手本とする中で発展してきた、水稲−水禽の新しい持続的生産技術です。10年あまりの研究と普及を通じて、日本の南部から全国に発展し、今や1万戸を超える農家が合鴨水稲同時作を行っています。

合鴨水稲同時作と"稲田養鴨"の主な違いは、日中鴨を放し夜収容する方法から、昼夜鴨を放しておく方法に改めたこと、周囲を囲う柵を設置するようにしたこと、普通の鴨から役用鴨を使用するようにしたことです。日本の研究と鎮江市の3年間の実践から、合鴨水稲同時作には病害虫の防除や施肥、中耕と攪拌、生長促進に直接的効果があることがわかりました。最後の2つの効果は合鴨水稲同時作特有のものです。

国内の水稲栽培は単純に多収を追い求める段階から高品質なものを追求する段階に、さらに一歩進めて安全で健康的であることを前提に高品質多収を求める段階に向けて変化して来ています。しかしながら、現行の水稲栽培技術には実行可能な有機的水稲栽培の技術が欠けていました。合鴨水稲同時作技術を採用すれば、化学肥料や農薬、除草剤を使用せずに安全で高品質なコメの多収を実現できます。それゆえに広く人々から注目されているのです。

2000年、鎮江市は全省(江蘇省)にさきがけてこの技術を導入し、試験栽培に成功しました。今年、鎮江市の合鴨水稲同時作栽培面積は133平方キロメートルであり、来年はさらに発展するでしょう。しかし、鎮江市は合鴨水稲同時作技術試験でいくつかの成果をあげているとはいえ、その期間も短く、日本側による視察招待はまさに合鴨水稲同時作技術を全面的に理解する上で絶好の機会となりました。

日本側は今回の視察を非常に重視して下さり、念入りな手配によって日程を立ててくださいました。鎮江市視察団が鹿児島大学に訪問し学習した日には、校舎に中日両国の国旗と校旗が掲げられ、田中弘允校長が代表団全員を出迎えて下さりました。日本合鴨水稲会の副会長である萬田正治教授夫婦は自ら車を運転して駅まで出迎えに来て下さり、飛行場への送迎もして下さいました。また、先生は私たちを連れて鹿児島大学校内と農学部の研究室を案内して下さり、合鴨水稲同時作の講義を自らして下さいました。そして、鹿児島大学が主催した鹿児島市溝辺町竹子宮内のプロジェクト地区視察にも同行して下さったのです。

岡山大学農学部黒田俊郎教授と岸田善朗助教授は、稲−鴨−アゾラ方式などの分野についての研究成果を詳しく紹介して下さるとともに、試験田を見せて下さいました。日本の合鴨水稲同時作の創始者であり、日本合鴨水稲会会長である古野隆雄先生も、合鴨水稲同時作について行っていることについて詳しく説明して下さいました。

視察は3段階に分けて行われました。7月12〜13日が鹿児島大学視察、7月14日〜16日が岡山大学視察、7月17日〜19日が福岡県嘉穂郡桂川町視察です。

鹿児島では鹿児島大学農学部研究室と試験田を視察しました。同大学は合鴨水稲同時作関係の活動をすでに基本的に外部に移管しています。鹿児島溝辺町綱桂川において、私たちは同大学がこの地域で行っている、土地・食料・人間の健康を守る鹿児島環境共同研究プロジェクトを見ることができました。そこでは、水稲栽培において多くの農民が合鴨水稲同時作技術を採用していました。鹿児島大学農学部は学生をこの地域に派遣して関連する研究を行っていました。

【写真】鹿児島大学農学部にて萬田教授より説明を受ける代表団。


 鹿児島合鴨水稲会の橋口孝久グループは会員60名余り、合鴨米の生産は年間90トン、価格は一般のコメより50%高いということです。

創立120年の歴史を持つ鹿児島市立川上小学校では、上野金夫校長が合鴨水稲同時作を取り入れた学校教育について紹介して下さいました。これは、児童に合鴨水稲同時作栽培に参加させ、それを通じて農民の生産労働についての苦労や喜び、稲作や食生活を理解させ、食物の安全性や環境の重要性について理解させるものでした。

岡山大学では、同大学助教授で日本合鴨水稲会事務局長の岸田芳朗先生が、合鴨水稲同時作の試験田を見せて下さいました。鎮江市視察団と、合鴨水稲同時作、特にアゾラを導入してからの合鴨とアゾラの変化と影響について深く話し合うことができました。

岡山県合鴨水稲会の服部勝正会長の水田では、合鴨水稲同時作の稲のすばらしい生育と、アゾラに覆われた水田の様子を見ることができました。

7月17日から19日、私たちは福岡県嘉穂郡桂川町の古野隆雄氏宅に訪問し視察学習をしました。日本の合鴨水稲同時作は古野先生による弛まない努力によって発展してきたのです。私たちの見たところ、古野先生の水稲栽培は2平方キロメートル。水稲の生育は良好で、隣の密植された水田に比べて葉の色は濃く、疎植で、分ゲツ真っ盛りのようでした。古野先生の合鴨水稲同時作は、合鴨と水稲の同時生産以外に稲−鴨−アゾラ方式など多様な方式を取り入れています。ドジョウが人工的に養殖されており、大変うまくいっているようでした。

【写真】福岡県の古野隆雄先生の水田を視察する代表団


7月14日から16日、岡山大学農学部附属農場を視察しました。ここは今回の合鴨水稲同時作において最もすばらしい収穫を得たところと言えます。一つは稲−鴨−アゾラ方式の研究成果についての岸田先生の詳しい説明。もう一つは稲、鴨、アゾラのいっそうの普及意義を認識したことです。岸田先生の合鴨水稲同時作の基本的特徴は、無農薬、無化学肥料、無有機質肥料でした。

2002年の具体的方法は以下の通りでした。


ポット育苗、6葉齢で機械植え、品種はヒノヒカリ。
6月20日移植、株間30cm、行間28cm
6月27日アゾラの投入(100kg/1ムー)、20日で前面に広がる
6月27日1日齢の家鴨を放す(桜桃谷鴨、新大阪鴨、体重50g前後、1ムー当たり30羽、昼夜放しておく)。水管理は移植後から9月19日の鴨収容まで、始終水深5〜15cmに維持し、間歇潅水はしない。
プラスチックの波板と細い金網で囲いを設置し、電気柵は使用しない。鴨には最低限の餌をやる。鴨を水田から収容する時期は収穫の1ヶ月前(水田に放す時間は2.7ヶ月、80日前後である)で、収容後すぐに処理する。この時の体重は2.8kg前後。
水稲の生産量は、アゾラをいれないものが420kg前後(0.1平方キロメートル当たりの玄米生産量)なのに対して、アゾラをいれたものは520kgになる。
鴨が1日に食べるアゾラの量は最高で800gに達する。これは乾燥重量にして40gに相当する。水田に放されている3ヶ月の期間中、1羽の鴨の糞量はアゾラ無しの時の10kgから30kgに増加する。
稲−鴨−アゾラ方式の効果は以下の図のようになる。



古野先生は現在、稲−鴨−アゾラ−魚方式を研究しています。合鴨水稲同時作の基礎の上に、飼料、肥料、被覆作物としてのアゾラを加え、さらに合鴨水稲同時作に最も適した養殖魚類――ドジョウの人口養殖にも成功しているのです。古野先生の見方によると、水田はただ単に穀物――コメを生産するだけでなく、禽肉――鴨肉や、飼料や肥料――アゾラ、魚――ドジョウも生産できるのであり、稲−鴨−アゾラ−魚方式は水田の生産力を向上させることができるのです。水田を水稲の生産にとどめることは視野の狭い見方である、ということでした。


二、日本の合鴨水稲同時作の経験

1、合鴨水稲同時作を重視する大学 日本の合鴨水稲同時作は先ず農家によって始められたものでした。その後、鹿児島大学や宮城大学、山口大学、岡山大学など多くの大学が合鴨水稲同時作の研究を展開し、合鴨水稲同時作の効果や適した鴨品種、稲−鴨−アゾラ方式などの分野で深い研究が行われてきました。これらは合鴨水稲同時作の理論的基礎となり、その発展を促したのです。合鴨水稲同時作は、一見するとさほど難しいものには見えません。しかし、実際には水田への合鴨の導入に多くの研究に値する課題が存在しているのです。たとえば、植物(水稲)と植物(アゾラ)や植物(水稲)と動物(鴨)、動物(魚)と動物(害虫)の間の食物連鎖や相互連関、機能の面などです。

2、農家による持続的な合鴨水稲同時作の実践 古野先生は10年余りの間、弛まず合鴨水稲同時作の実践を続けてこられました。その中で、中耕や攪拌、生長促進などの効果を発見し、まとめ、実践を通じて合鴨水稲同時作の難題を一つ一つ解決してこられたのです。また、何度もアジア諸国に足を運んで学習と普及に努め、実践をまとめあげて3冊の合鴨水稲同時作の著作を執筆されています。実際に古野先生宅を訪問、視察し、先生の一途な研究姿勢に深い印象をもちました。


三、視察の主な成果

1、日本の合鴨水稲同時作に関する今回の視察の重点的任務は、視察を通じて合鴨水稲同時作の最新の展開を学習することでした。特に稲−鴨−アゾラ方式には普及の可能性が最もあり、予定していた視察の任務を全うすることができました。日本の優れた水稲品種とアゾラ品種を導入することで、我が市の合鴨水稲同時作の新しい研究課題を見つけることができたのです。鴨の品種資源と養殖技術、鴨の病気予防という分野においては、中国には日本に真似のできないほど優れたものがあり、よりうまくできるでしょう。

2、日本側は我が方の鴨飼育や病気予防の技術を必要としており、これは相互交流にとって有利な条件となりました。私たちは鴨飼育の経験や技術を紹介しました。これらは中国では一般的な常識で鴨に関する出版物におしなべて紹介されているものですが、これによって日本側は私たちに日本の水稲やアゾラ、野菜の優秀品種を贈って下さったのです。また、私たちが鎮江市の役用鴨耐水性試験の方法と結果を紹介したところ、日本側は、方法も正確であり役鴨の優秀性である、認めていました。

3、今回、萬田正治教授と岸田芳朗助教授を正式に鎮江市水禽研究所に招聘しました。お二人とも喜んで同研究所の顧問を担当してくださることになりました。これによって水禽研究所は今後の発展を保障するレベルの高い人材を得ることになりました。


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