現代農業1998年2月増刊
定年帰農 仙台市議会に登場!

(農文協東北支部事務所より)

仙台市議で当時最も若かった田中(世之介)芳久議員から『定年帰農』の注文があり、これをもとに予算委員会(平成10年第1回定例予算審査特別委員会)で質疑応答をするということでした。
その質疑を受ける側の農政課から「これから、予算委員会の質疑応答だから、聞きに来ますか?」とのお誘いがあり、議会の傍聴は初めての農文協東北支部職員が行って参りました。

*詳しくは仙台市議会田中(世之介)芳久議員公式ページから
平成10年/予算審査特別委員会田中芳久委員/農林費/議事録をご覧ください。


議長
「では、仙台民主フォーラムから田中君」
田中(世之介)芳久委員

「仙台市の農林費について伺います。私は大規模農業だけがもてはやされる農業の”二次産業化”には前より疑問をもっているものです。21世紀の農業問題は、環境問題であり、食糧のことを考えれば、外交問題、国際問題でもあると思われます。その姿勢で質問いたします。(中略)仙台市の担い手育成事業費は、今年度150万円、ところが、来年度には1400万が計上されています。これはなぜでしょうか?」

経済局長
「その件については農政課長がお答えします」
庄子農政課長

「新規就農者の育成を図るための予算で、研修費などのほかに、今年は『都市農業者サミット』を仙台で開催することになっており、その予算を含んでいるため、前年度にくらべて増えている。
ちなみに、『都市農業者サミット』は他の政令市の農業後継者と都市部における農業の問題点、課題について検討討議や情報交換を行うことを目的として平成6年度の横浜市を皮切りに、平成十年度は本市が開催市となっております。サミットの内容は全体会議のほか『水稲部会』や『野菜部会』などにおいて専門的な討議が行われ参加者から大変好評をいただいております。本市の開催にあたりまして新たに『女性農業者部会』の創設を計画していまして女性農業者による熱い議論を期待しています。」

世之介

「グリーンツーリズムについて伺います。仙台市ではどのような取り組みをしているのか?」

課長

「都市住民が農村などに宿泊をし農林漁業を経験したり、その地域の文化や歴史に親しむ余暇活動の一つの形態であり、農山漁村における長期滞在型保養とされている。また広い意味としては都市住民が滞在日帰りを問わず農林業とふれあうこともグリーンツーリズムであると考えています。日帰り型の市民農園など、企画していますが滞在型(宿泊を伴う)については、今後都市住民のニーズも調査の上、取り組んでいきたいと考えています。」

世之介

「標高が200mくらいの高さのところを中山間地というらしいですが、イギリスでは定年後は中山間地に住むという人がふえているらしい。そこで農家生活を送るというのが彼らの老後の生活設計で、牛を飼ったり、マキを割ったりという暮らしをしている。イギリス政府はそういう人たちに農地や家を確保するということも行なわれているようだが…ところで最近、日本でも『定年帰農』という言葉があるみたいだが、知っておられますか?」

課長

「定年帰農と言う言葉は造語だが、その意味は定年を迎えたサラリーマンが自らを解き放ち、生きがいのために土を耕すという、いわば『人生二毛作』とでも言えるものです。(得意そうに答える課長。他議員人生二毛作でワーッとうける)」

世之介

「すばらしいお答えですね、わたしは返す言葉がなくなりました…ところで仙台市でも『定年帰農』に対し支援策を講じながら積極的にこの『定年帰農』を進めるべきと考えますがいかがでしょうか?」

課長

「定年退職者に特別に就農情報を提供したりはしていないが、今後は情報収集、提供をしていきたい」

伊藤経済局長

「定年退職者の方々が農業に従事し新たな担い手になるというのはおおいに歓迎したい。政府も平成10年度からの施策を考えているようです。また、農業が持っている外部的な経済効果を知っている人達といえる。仙台市として支援していきたい。農業委員会や農協とも協力、情報収集して積極的な施策をする。」

世之介

「私も『定年帰農』には期待しています。高齢化社会が到来するのは誰の目にも明らかです。だから介護保険だと、お金を集めてばらまく事しか考えていません。高齢化社会において60歳は老人ではありません。
(年長の議員から、そうだ、そうだ、70でもまだ若い!とヤジ)
まだ元気な高齢者が退職後に生きがいを失ってポックリ逝ってしまうという話もよく聞きます。生きがいを見いだし、健康に長生きができ、よそ様に迷惑をかけないで暮らしていけるという意味では、農業は大きな可能性を秘めているといえます。いまや新規就農者は若い人ばかりではありません。自分の力で自分たちの仲間とともにできる。年金があるから産業としての(金を稼ぐ)農業でなく、生きがいを作る農業をやれる。たとえば有機農業など、新しい視点を持っている人たちだからできることもあるわけです。
会社勤めの時は自分の仕事が見えない。でも作物を作り四季と共に生きる農業は違います。やったことが目に見えるからうれしい。森林が酸素を作り環境を保全しているように、田んぼや畑も酸素を供給し、水や土を守る。なにより微生物や昆虫を育て、そして鳥や獣、人間を養い守っていくものです。これからは農林業ももっと環境行政の一部としても考えていかなければならないと思います。
仙台市民は森林から毎年700億円を無償提供していただいています。自然の寛大さと寛容に感謝するのは当然として、彼らに甘え続けるということが、いつまで許されるのでしょうか?この地球に共に生きる人類としてその存在を問われているのだという認識が必要なのではないかと思います。市長のご見解をお聞きして私の質問を終わりたいと思います。」

藤井市長

「農林業は我が国の主要な産業として維持され継承されてきましたけれど、戦後の技術革新、さらには経済の高度成長を一つの転機といたしまして構造的にもまたその規模においても大きな変換を迫られてしまいました。加えて後継者不足、自由化、規制緩和等々、転機にあります。
仙台市としては伝統的な生産機能を放棄するわけにはいかないと思います。都市近郊という特性を活用して都市的なニーズに即応した新しい農林業のあり方、グリーンツーリズム、市民農園、朝市など様々な都市近郊としての特性を生かした開発や展開の努力をしていかなければならない。
2番目には環境や自然という多面的な機能・価値を充分に尊重した活用のあり方を考えていく必要があろうと考えております。
第3には人生との関わりにおいて生命と向き合い自己実現を目指すという意味もこれは体験的に活用していく必要がある。そのことによって命というものを市民全体が感じうるような学習の場にもなると思います。以上3つの点において農業というものを推進していく使命があろうと考えております。」


というところでした。約30分の質問時間、最若手議員ということもあってヤジも大分飛びましたが、他の議員も好意的に聞いていたようです。今日はこれで散会でした。

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