「21世紀の日本と農業・農村を考えるための行動」 機関誌
第28号:特集のねらい
◆農業法人の設立で蘇る地域の活力
「就職してしまうと、近くに住んでいても同世代となかなか会う機会がない。集落営農が顔を合わせるいいチャンスになった」(勤めが主体の若手オペレーター)
「(草取りは)世間話をしながらやってますわ。漬物のつくり方、教えてもろうたりしてな。年寄りは、しゃべらんようなったらあかんわ」(85歳以上の高齢者グループ)
いずれも滋賀県の集落型農業法人・酒人ふぁーむでの話。若手も高齢者も、土・日、祭日に行なわれる農作業を楽しみにしているのが目に浮かびます。兼業化が進み、お互いに顔をあわせる機会が少なくなり、地域の人たちのつながりが薄れていたのが、集落営農型の農業法人が設立されたことで、人のつながりが戻ってきているのです。地域の活力が蘇ってきています。
いま、「食料・農業・農村基本計画」の見直しへ向けての議論が大詰めを迎えていますが、その最大の課題の一つは「担い手」をどうするか。農林水産省は、認定農業者だけでなく、「集落営農」も「担い手」として位置付ける方向を打ち出していますが、それには「法人化」が要件とされるでしょう。
「一元的に経理を行い法人化する計画を有する等、経営主体としての実体を有し、将来、効率的かつ安定的な農業経営に発展していくことが見込まれる集落営農については、担い手として位置付けることが適当である。このことを踏まえ、併せて、地域の合意に基づく農地の集団化等を通じ、集落営農の組織化、法人化を促進していく必要がある」(「中間論点整理」より)。
本号では、一人でも多くの人が地域で働けて、高齢者も生きがいを持って農業に取り組め、安心して暮らせる、そんな地域づくりに貢献する農業法人・「地域活性化法人」を提言し、そうした事例を紹介しています。
多くの集落や地域においては、農業生産に直接従事している人々だけではなく、水路や水源林の維持管理等のための労力や経費を負担することを通して、地域全体が農業生産にかかわり、地域の農業を支えています。そうした人たちといっしょに、地域を元気にする農業法人設立へ向けて、本号をお届けします。
〈主な内容〉
○「NPO型地域活性化法人」への期待と取組み
――女性や高齢者もみんなが生きがいをもって働ける地域、都市住民にも農林業に参加する感動を
・・・山形大学農学部教授 楠本 雅弘/4
○集落営農の法人化のカギはリーダーの育成にあり
――広島県における「集落農場型農業生産法人」設立の取組みから
・・・広島県農業会議・業務課長 村竹 義人/10
○「個」と「集団」の連携へ向け、集団の法人化を促進する制度改革とその方向
東京大学名誉教授 JA―IT研究会代表 今村奈良臣/16
○勤めが主体の若手に活躍の場を提供 集落みんなが年齢・体力に応じて参加の集落営農
――典型的な水田兼業地帯・滋賀県甲賀市水口町(農)酒人ふぁ〜む/26
○集落ぐるみの法人化で定年帰農者、女性が担う地域の農業
――秋田県大館市 農事組合法人立花ファーム/34
○「大規模農家連携in長浜」で活気づく、農地活用と担い手育成
――滋賀県 JA出資の農業生産法人(有)グリーンパワー長浜の取組み/42
○「畑から食卓までの『トータル・フードシステム』」を追求
――北海道オホーツク地域、農業者と地元企業が“協働”する(株)イソップアグリシステムの取組み/50
○空き家になった農協支店施設を活用 村の暮らしと農業を守る「地域の百貨店」
――住民が出資・運営する 京都府京丹後市大宮町の農業法人(有)常吉村営百貨店/58
○「普通じゃない」経営とマーケティングが都市近郊農業法人の生きる道
――都市近郊兼業農家から大事にされる請負型農業法人(有)林農産 石川県野々市町 (有)林農産社長 林 浩陽/66
○集落内に「小さな農協」を
――18年も前に農事組合法人をつくった理由 島根県津和野町 農事組合法人「おくがの村」代表理事 糸賀盛人/74
◆規模にとらわれず 日本型の強固な農業経営体を育ててほしい
(北海道美唄市・稲作農家 今橋 道夫)
◆豊かな自然生態系を残す農地や農業用水を 国民の財産として国民全体で保全していく枠組みを
――中間論点整理「5.農業環境・資源保全政策の確立」へのコメント
(岩手大学農学部教授 広田 純一)
◆直接支払いの多様性
――風土、農業のやり方で異なるEUの先例から
(農林水産政策研究所 評価食料政策部・食料消費研究室長 市田 知子)
◆安心を求める消費者の期待には応えたい
――東京で小松菜の周年栽培をつづけている農家として
(東京都江戸川区・農業 真利子伊知郎)
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