「21世紀の日本と農業・農村を考えるための行動」 機関誌
第33号:特集のねらい
◆地域に誇りを持てる夢ある地域づくり
いま新潟県の佐渡では、「トキの野生復帰計画」が着々と進んでいて、トキのエサとなるドジョウがすめる田んぼが増えてきています。琵琶湖周辺の田んぼには、昭和40年代以降激減した在来の魚が、繁殖の場を求めて大量にやってくるようになった。ホタルが乱舞する姿が見られる地域や、アジサイ等花を植えることで用水路等農村景観が地元住民の目を楽しませてくれるところも。いずれも地域(集落)ぐるみ、あるいは消費者の協力を得た取組み。多様な生物と共生し、自然と健全な関係を保つ農村空間は、まさに国の“宝”です。
たぶん、平成19年度から始まる「農地・水・環境保全向上対策」(仮称)は、こうした光景を念頭に置いたものでしょう。農林水産省は、(1)「地域において農地・水・環境の良好な保全と質的向上を図ること」(共同活動)、(2)「農業生産全体の在り方を環境保全を重視したものに転換していくこと」(営農活動)、(3)「活動の質をさらにステップアップさせる取組」(現在、詳細を検討中)を、支援することにしています。この4月、「農地・水・環境保全向上活動支援実験事業」がスタートしました。
ホタルやドジョウ、そしてトキがたくさん生息する農山村は、昭和30〜40年代までは“当たり前”の光景でしたが、いまでは珍しく懐かしい存在。新しい支援事業では、地域の資源と環境を守るため「農業者だけでなく、地域住民、自治会、関係団体、などが幅広く参加する」取組みにすることを、強く打ち出しています。
この特集では、多様な生物と共生し、自然と健全な関係を保つ地域づくりに向けた<提言>と<先行事例>を紹介しました。先行的に取り組んでいる地域では、集落に活気が蘇り、地域における人のつながりが強くなっているように見えます。
「農業の生産基盤と農村環境を再構築する夢のある計画が策定され、また、その上で先進的な営農活動に取り組み新たな地域農業が展開されることを期待」(農水省「農地・水・環境保全向上対策室」)し、この特集をお届けします。
〈主な内容〉
○農地・水・環境保全向上対策(仮称)について
――夢のある新たな地域農業が展開されることを期待して
農林水産省農村振興局 農地・水・環境保全向上対策室 /4
○非経済の世界への「まなざし」
――福岡型環境支払いが目指すもの
NPO法人 農と自然の研究所・代表理事 宇根 豊 /12
○「環境こだわり農業」を直接支払いで支援する滋賀県の取組みから
滋賀県農政水産部環境こだわり農業課・主査 森野真 /20
○環境保全型農業の考え方と実現への道筋
元農業環境技術研究所長 西尾道徳 /28
○農家を中心に集落みんなでホタルが生息できる農村環境づくり
青森市・細越ホタルの里の会 佐藤 鐵雄 /34
○集落ぐるみで水路を保全、竹炭で水質の浄化も
――原風景を呼び戻す資源の保全・再生への取組み
鹿児島県姶良町住吉池行苦楽分(すみよしいけいけくらぶ) 代表 吉村 宏 /40
○アジサイの植栽をきっかけに 暮らしに役立つ「地域用水」を復活
水土里ネット立梅用水事務局長 高橋 幸照 /44
○都市の消費者等の協力も得て 活気ある集落の姿を取り戻す
――栃木県茂木町竹原集落の「かぐや姫の郷」づくり /50
○オーナー制度による 棚田を活かした地域づくり
――島根県吉賀町柿木村・大井谷地区「助はんどうの会」の取組み
吉賀町役場産業課 上田 祐子 /56
○田んぼの生きもの調査を通して 農への“新しいまなざし”を育む
――福岡県「県民と育む『農の恵み』モデル事業」を遠賀町高家地区に見る /62
○マリーゴールドを取り入れて 減農薬・クリーン農業を実現してきた町
――北海道七飯町と野菜生産出荷組合、四Hクラブの取組み /68
○リサイクルセンターを活動の基盤に 集落ぐるみで低農薬・低化学肥料農業を実現
――宮城県大崎市田尻通木集落・生産組合「HI−SOFT21通木」 /74
○琵琶湖にすむ魚の産卵・繁殖の場を復活させる
――滋賀県の「魚のゆりかご水田事業」、米原市天の川沿岸地区の取組み /82
○農薬や化学肥料を使わない田んぼがトキを呼ぶ
――新潟県佐渡市「トキの田んぼを守る会」等の取組み
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