「21世紀の日本と農業・農村を考えるための行動」 機関誌
第38号:特集のねらい
◆厳しい今こそ法人化への前進を!
「女性や高齢者が重労働から解放され、余剰労働力で加工や野菜・花卉の栽培に意欲的に取り組み、楽しくしかも軽労働でできる農業が実現」(広島県の例)
集落営農に先進的に取り組んで、しかも法人化を進めてきた地域では、集落のみんながそれぞれの役割を果たし、農業に“楽しさ”“生きがい”を見出すなど、集落に活気が戻ってきている様子がうかがえます。こんな集落法人では、例えば「高齢者が農作業への出役意欲を維持するために、地代配当の一部を賃金に振り替えたり」「女性たちが野菜つくりやその加工、販売に自由に取り組めるようにしたり」「オペレーターに過重な負担がかからないよう配慮したり」などと、気配りの行き届いた運営を行なうことが必要です(安藤提言)。つまり、「むらの論理」と「経営の論理」とのバランスがとれた運営をすることです。
ここ数年、米をはじめ農産物価格が軒並み低迷気味、このままでは農業に展望が見出せない厳しい状況ですが、だからこそ集落法人を立ち上げるチャンスと吉弘提言。「平成の大合併」で小学校・保育所・診療所などがなくなる危機感をバネに地域住民が「自治区」をつくり、その核として集落法人を設立して集落に元気を呼び戻したり、オペレーターが中心となって集落法人を設立して多彩な大豆加工や売れる米つくりに活路を見出そうとするなど、本号でも紹介したように各地で懸命な取り組みが行なわれています。
法人化の推進で課題になるのが、現状で採算がとれる農業ができるのかどうかということ。そんな場合、農事組合法人という形態をとれば「従事分量配当制という形で事後的に労働の提供に対して分配ができるという仕組み」も生かせます(森提言)。また、ここへきて注目され始めたのが株式会社。意思決定が素早くできる機動性や農業外の事業(雪下ろし、消費者との交流など)が可能なのが魅力です。
五年で法人化すればいいとのんびり構えないで、すぐにでも法人化に踏み切りたい。今回はそのための実践特集としました。「担い手や二種兼業農家、女性や高齢者など、集落の人々が安心して末永く暮らしていくことのできる農業、農村の仕組みを築き上げていく」(森本提言)ための素材として、お届けします。
〈主な内容〉
○「担い手枯渇地域」か「担い手展開地域」か 集落営農それぞれの運営のあり方
――法人化は、「むらの論理」と「経営の論理」との調整をどうとるかが鍵
東京大学大学院農学生命科学研究科准教授 安藤光義 /4
○地域における多数の農家の参加により 地域資源を活かすことが可能な組織化を
――兼業化の進んだ富山県の事例から、法人化とその運営への提案
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 中央農業総合研究センター 高橋明広 /12
○「法人化集落営農」にみる 組織運営の課題を克服する改善方策
――課題を克服するごとに集落営農は成長する
元秋田県北秋田地域振興局農林部普及指導課 三浦 扶 /18
○持続可能な集落型経営体は「収益性」「社会性」「継続性」の実現で
――経営記帳に基づく経営管理を確実に実施することが法人化への出発点
兵庫県立農林水産技術総合センター普及部 専門技術員 森本秀樹 /24
○多様な労働力が活きる集落法人化が急務
――地域づくりと集落法人化で地域農業の活性化を進める広島県から
農事組合法人ファーム・おだ 組合長理事 吉弘 昌昭 /30
○法人立ち上げと、会計・税務等の実務のすすめ方
――「人格のない社団」をどう考えるか、法人立ち上げを視野に法人税・消費税等で損しないために
森税務会計事務所 税理士・行政書士 森 剛一 /40
<法人サポート情報>
集落営農・農業生産法人への参加と農業者年金&農地等の納税猶予制度との関係 /50
(品目横断的経営安定対策のポイント<Ver.11>より)
○二種兼業農家も定年帰農者も含めた 農業集落立て直しで一挙に三〇法人設立
――福井県あわら市の地域を維持・元気づける取組み /54
○生産から加工、販売まで役割を分担 生産組合、加工所、作業受託法人が連携
――岩手県雫石町のオペレーター組織、農業生産法人(農事組合法人)ユニティファーム七区の取組み /62
○冬期間の収入源確保も考え 山間地域に株式会社を立ち上げる
――中山間地域直接支払いの集落協定をベースに
(株)和農日向 代表取締役社長 阿曽千一 /70
○設立しやすく機動性が高い株式会社で農地と農村を守る
――農業生産法人(株)味歩里を設立した京都府福知山市・下川口地区の取組み /78
○若い世代への法人継承に明るい兆し 60歳代の“青年”も第一線で活動
――大分県杵築市の農事組合法人「新庄農地利用組合」の取組み/84
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