「21世紀の日本と農業・農村を考えるための行動」機関誌
第40号:特集のねらい
◆楽しみながら地域を元気にする取組みを
いま農村では、全国各地で耕作放棄の防止・解消に向けた取組みが進んでいます。遊休農地を(ひまわり、菜の花等の)お花畑に変身させたり、市民が農業に親しめるよう市民農園や体験農園を設立したり。その地ならではの特産作物をつくり、伝統的な料理で地域の人たちに楽しんでもらったり。逆に、カブトムシ等が棲めるようにと自然林に戻すところもあります。
そのやり方は多様ですが、取り組むなかで地域の非農家や市民との交流が深まり、楽しみながら元気をもらって、高齢者が“生きがい”を感じている様子が、この号で紹介した先行事例の取組みにうかがえます。こうした取組みの特徴は、あまり「多くのお金や労力をかけないでもやれるような工夫をしていること、地域の特性と人材を活かしながら、そして補助金や交付金などを上手に使いながら、あるいは都市の住民をも巻き込みながら、楽しく無理なく活動を進めていること」(吉野提言)です。
耕作放棄地の解消を目的とする活動は、一年や二年で終わってしまっては再び荒れ地に戻ってしまうので、継続させる必要があります。そのための工夫として、景観作物にもなるマメ科のヘアリーベッチは二年目以降、種子代が少なくてすみ、管理に手間がかからないばかりか土地が肥沃化しマルチがわりになるという嬉しい報告も(群馬県渋川市)。また、荒れた棚田を復旧した後、それを継続するためには“実利”が必要と、棚田オーナー制を導入し、かつ「棚田米をブランド化」して販売にこぎつけている例もあります(長野県上田市)。
耕作放棄地の発生原因として「跡継ぎ不在による労働力不足」が多くあげられますが、同時に「農産物価格の低迷」「鳥獣害の拡大」等も大きく影響しています。こうした状況を踏まえ、「少しの努力で、自分たちの集落でも出来る耕作放棄地の有効利用対策」(農水省耕作放棄地対策室)の特集を目指しました。この四月から「耕作放棄地解消緊急対策」(農林水産省)がスタートします。これまで取り組んできた耕作放棄地解消対策を継続するとともに、より広めるための話し合いの素材として、本号をお届けします。
〈主な内容〉
○耕作放棄を防止・解消してまちから人を呼び込もう
――山・里・海のつながりの回復を目指す岩手県下の取組みからの提案
岩手県立大学総合政策学部 吉野英岐 /4
○「耕作放棄地面積全国一」返上の取組みから
――「遊休農地活用対策」に10年前から本腰を入れて取り組む福島県
福島県農林水産部農山村整備グループ 塩澤賢一 /12
○鳥獣害減少など様々な効用 肉用牛放牧20年の実践からの提案
――山口県における耕作放棄地解消の取組みと今後の方向
山口県農林総合技術センター畜産技術部放牧環境研究室・室長 宗綱良治 /20
○「耕作者を求めている農地」と「農作業に生きがいを求める中高年世代」を結び付けて 耕作放棄地を解消する
――神奈川県の「中高年ホームファーマー事業」の取組みからの提案
神奈川県環境農政部農地課農地活用班 池田豊 /28
<コラム>
○農的暮らしを目指す若者たちが遊休茶園を引き継ぐ
――奈良市都祁地区(旧都祁村)、山と町を橋渡しする4人の若者の取組み
大和高原文化の会 近藤直子 /34
○先頭に立つ各地農業委員会の取組みから /36
・「どろんこ農園」に取り組む鹿児島県いちき串木野市
・ヘアリーベッチの作付けを推進する群馬県渋川市
・「菜の花畑」に変えた愛知県田原市
・不在地主の耕作放棄地を解消した北海道せたな町
○荒廃田を復旧して「虫むしランド」と「アフリカ救援米」づくり
――長野市広瀬地区の耕作放棄地解消の取組み
広瀬ふるさと学園・水稲部会長 和田蔵次 /50
○休耕田を利用した「田んぼの学校」 地元の中学生や市民が自然農法の米づくり
――静岡県富士宮市のフードバレー構想での取組み /56
○農業法人「水府愛農会」を設立して地元特産・常陸秋ソバを栽培、遊休農地を再生
――茨城県常陸太田市水府地区の5人の男たちの取組み /62
○地域住民の参加を得て 荒れた農地をひまわり畑に
――群馬県みどり市(旧笠懸町)吹上地区の取組み /68
○都市住民の力も借りて 耕作放棄地を市民農園として活用
――京都府舞鶴市杉山地区の取組み /74
○究極の味を目指して 地元の酒造メーカーが耕作放棄地で酒米づくり
――岡山県浅口市(旧鴨方町)と丸本酒造(株)の取組み /80
○地区の集落&団体が後押し 棚田で多彩な事業・行事を展開
――長野県上田市「稲倉棚田保全委員会」の取組み
稲倉棚田保全委員会会長 柴崎義和 /86
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