ICEBA2010
第1回生物の多様性を育む農業国際会議
第11回 日韓中環境創造型稲作技術会議
第5回 日韓田んぼの生き物調査交流会

 7月2日~4日、「第1回生物の多様性を育む農業国際会議」が兵庫県豊岡市立野町の豊岡市民会館で開催された。水田の生物多様性の保全における役割を検討するもの。日本、韓国、中国など国内外から約400人が参加。盛んに意見を交わし、今年10月に愛知県で開かれる生物多様性条約第10回締約国会議に向けた提言をまとめた。

 本会議は実は歴史のある二つの会議を統合して再スタートしたもの。その二つは今年第11回を迎えた「日韓中環境創造型稲作技術会議」と、第5回を迎えた「日韓田んぼの生きもの調査交流会」である。

 「日韓中環境創造型稲作技術会議」は民間交流から始まり、技術確立運動として毎年持ち回りで日本、中国と韓国で開催されてきた。第7回からは日・韓を中心に環境保護団体や消費者団体が参加して、有機水田での生き物調査が行われるようになった。
 一方、豊岡で有名なコウノトリ野生復帰運動は市政の中核を占め、「環境と経済の両立」という21世紀の時代的要請を先取りする先進的な取り組みとして内外から注目をされてきた。コウノトリが生きる土台としての「環境創造型農業」は当地域で幅広く普及している。こうした背景のなか、今年の会議は豊岡で開催されることとなった。
 また、農文協の紹介で、これまで交流してきた中国江蘇省鎮江市から2人が参加し、地元における有機農業実践を日韓の出席者に紹介した。

 
現地研修会
 大会に先だって、「生物の多様性を育む農業現地研修会」が開かれ、多数の関係者が参加した。研修会は「田んぼの生き物調査」と「有機栽培圃場調査・視察」の二つのグループに分かれて実施されたが、中国側の参加者は「有機栽培圃場調査・視察」グループとともに四つの圃場を回った。
地元農家の説明に耳を傾ける 稲葉先生が参加者の質問に答える 深水除草実施の圃場
中国にあまり見ない生き物を発見 表面のトロトロ層を手で確かめる   コウノトリ農法実施圃場の前に立つ
  趙亜夫先生
    生き物調査の収穫
 
シンポジウム
  会議は、基調講演、各国報告、基調報告の後、3つの分科会に分かれて行われた。
                                      基調講演
中貝 宗治 (豊岡市長)
 「生き物と共に歩む21世紀の農業と地域経済
「コウノトリ育む農法」など放鳥したコウノトリの生活を支える豊岡の農業や環境について映像を交えながら説明し,会場を感動させた。
                                      
各国報告
金 種淑 (韓国有機農業学会長)  趙 亜夫 (元鎮江農業科学研究所長)
「韓国に於ける有機農業と生物多様性」 「中国鎮江市における有機農業の取り組み」
有機栽培の農産物消費のため消費者に生物調査に参加してもらっている韓国の例をあげ、「消費者と農家は農産物の共同生産者ともいえる。コウノトリがヒナを育てるのに感動する感性が大切で、生物多様性を高める農業を進めたい」などと発言した。
経済発展にともない有機農業の生産も広がりつつある背景のもと、農家の所得増をはかりながらも、農薬や化学肥料の害から農家と消費者を守る、江蘇省鎮江市戴荘村での有機稲作取組を紹介した。数年の間、白鷺や蛙の姿がまたたくさん田んぼに見えるようになり、今後は生物多様性を育む農業を目指すことも話した。
  基調報告
   
稲葉 光國 (NPO法人民間稲作研究所理事長) 岩渕 成紀 (NPO法人田んぼ理事長)
「生物多様性農法の発展と新たな課題」 「生物多様性農法と生きもの調査結果」
育苗、抑草、病虫害防除等に関する技術課題を中心に、日中韓稲作技術会議のこれまでの交流成果をまとめたとともに、イネ・麦・大豆等を生物の多様性を育む農業(有機栽培・自然栽培など)で育てることは、単に食の安全だけでなく、病虫害の防除や環境の回復にとって重要な意味を持っていることを強調した。
「生物多様性農業とは、農業が生命産業であることを確認した生きものの力を最大限に活かした農業である。田んぼの生き物調査はすべての生物が営農にどのように関わっているか、文化とどのようにつながっているかなどの総合的データ蓄積を目指しており、それを農家自身の手で、体系的、計画的に実施することが重要である」と述べた。
保田 茂 (兵庫農漁村社会研究所代表)
「環境創造型農業による地域の再生」
兵庫県における環境創造型農業推進の歩みを紹介するとともに、環境が汚れたら食べ物が汚れる 食べ物が汚れたら 体が汚れる そして・・・ 一番被害を受けるのは未来を担う子供である」と指摘した。
分科会
          第Ⅰ分科会 「有機農業と生物多様性に関する技術問題」  コーディネーター:稲葉光國、姫野祐子
報告者
(1) 成田 市雄(兵庫県豊岡市農業者)
(2) 清水 澄(BM技術協会)
(3) 館野 廣幸(NPO法人民間稲作研究所)
(4) 川俣 文人(NPO法人民間稲作研究所)
(5) ジュ ジョンサン(プルム生協生産者・韓国洪城郡農業者)
(6) 金 吉沫(吉林省図們市農業改良普及所長)
(7) 徐 虹(吉林省農業技術センター研究員)
第Ⅱ分科会 「生物多様性農業と生きもの調査」  コーディネーター:岩渕 成紀、金 亨美
報告者
(1)斉藤 肇(宮城県大崎市農業者)
(2)古谷 愛子(NPO法人オリザ・ネット)
(3)河越 祐介(兵庫県豊岡農業改良普及センター)
(4)李 昭映(洪城たんぼの生きもの調査チーム)
(5)梁 桐祐(亞州大学校生命科学科)
(6)Dr.Pavlos Georgiadis(雲南省天籽生物多様性研究開発センター)
第Ⅲ分科会 「生物多様性農業を支える むら・ひと・仕事の再生」      コーディネーター:保田 茂、金 種淑
報告者
(1)斉藤 真一郎(新潟県佐渡市農業者)
(2)根岸 謙次(兵庫県豊岡市農業者)
(3)堀田 和則(たじま農業協同組合)
(4)李 漢寅(慶尚南道峰下村田の世上代表)
(5)毛 忠良(鎮江市農業科学研究研究員)
    第三分科会「むら・ひと・仕事の再生」     戴荘村の取組を紹介する毛忠良氏
有機農業への取組みによって、農家と地域の再生を戴荘村の事例で具体的に説明、よみがえった自然も写真で見せた。
     交流会の様子
中貝市長が熱心に豊岡を紹介 右から中貝市長、趙亜夫、佐藤喜作(有機農業研究会
長)、毛忠良
地元テレビ局の取材に応じて大会参加の感想を述べる               総合討論
 大会最後は総合討論。水田農業を核としたアジアの農業が生物の多様性を育んでいることに鑑み、農薬・化学肥料を使わない自然の循環機能を活かした生物多様性農業に転換するとの内容を主旨とする「第1回生物の多様性を育む農業国際会議の共同宣言」が提出された。また、10月名古屋で開催されるCBD/COP10に向けて「生物多様性条約第10回締約国会議への提言」が参加者らによって採択された。
 共同宣言では、水田は少なくとも世界114か国にあり、水鳥、両生類、魚類などの生息にとって重要と指摘。農薬、化学肥料を使わない農業への転換を訴えている。
 生物多様性条約締約国会議(COP10)に対しては、自然の循環機能を無視した農薬や河川改修などで破壊された生物多様性を回復し、食料自給率を向上させるため、各国が自然資源や循環機能を生かした農業を推進するよう求めている。
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