● 福浦の伝統芸能を村の内外で楽しむ

―福浦芸能保存会会長・田中徳助さん

 「歌舞伎の館」ができて定期上演や特別上演の回数がふえてきましたが、会員はほとんどが漁師で仕事があり、それがまた福浦歌舞伎の特徴でもあるので、上演活動と仕事の両立をどのようにはかっていくかが福浦の人びとの新たな課題です。これまでは、漁が休みになる日を上演日に設定してきましたが、お客からは「来やすい土日曜日に」という希望も多く、それも検討されています。生活・生産から生まれた伝統文化が、情報化社会・農漁村都市交流という新しい時代の生活スタイルの中に根をおろすときともいえるでしょう。
 さらに、歌舞伎を通じての外との交流が、地域産業の活性化や、生活の生きがいにもつながり、相乗的に効果が高まっていく道が模索されています。それには、伝統文化が、まずは地域の人びとの楽しみ、生活の一環として生きつづけることが第一です。
 佐井村には、長い歴史のなかで培われた伝統芸能が、各地区で継承されています。平成12年11月5日の佐井村郷土芸能発表大会では、村の九つの地区がそれぞれ神楽・祭囃子・歌舞伎・南部もちつき踊り(手踊り)・追分(手踊り)などを競演し、村内の老若男女みんなが楽しみました。矢越地区ではいったん途絶えた歌舞伎の保存会をつくって上演再開に動き出しています。
 「以前は、お盆に返ってきた人が『歌舞伎をやって見せてくれ』といったものだが、これからは『みんなでやってみよう』となれば、最高だ」。福浦ならではのまるごとの地域文化を、ここに生きる人も、外からやってくる人も、みんなで楽しむ。福浦歌舞伎の伝承に日夜尽力している福浦芸能保存会の田中徳助会長は、こんなことを夢見ています。