●橋本裕之氏

 ずっと、民族芸能を調査・研究しています。福井県の美浜町で20年近くフィールドワークをやっていますが、美浜町に残る中世前期の王の舞、田楽は非常に美しいものです。普通の若者達が代々やっているのですが、何ヶ月も激しい練習を重ねなくてはなりませんし、受験などもあって次の後継者を見つけるのが難しくなってきています。地元の人達は「こんなものはどこにでもあるんだろう」と考えているからです。ところが、NHKの番組「ふるさとの伝承」で取り上げられてから、伝承への意欲が出てきました。つまり、外からの眼差しが伝承の新しいエンジンになるということです。よその人から見ると、魅力的・素晴らしいということを当事者にぶつけていくことが大切だと思います。そうすることで、伝承者達の自分の土地に対するアイデンティティ、プライドが得られます。
 祭や郷土芸能は、これまではそれを文化財としてどう保全するかという消極的視点でみられてきましたが、それを21世紀へ向かう地域の共感と連携のシンボルとして位置づけ直す動きが広がっています。改めて地元文化の深さ・豊かさを確認し、自然と人間を結ぶ「癒しの空間」を共有することの誇りを育てたいと思います。