- 特集キーワード 佐々木昭弘
- インタビュー 岩田雅光氏に聞く/魚とのかかわりを通して
- どう活用するかを明確にした深化課題の開発 角屋重樹
- 理解深化課題の作り方 鏑木良夫
- 学んだことを活用する力が育つ理科学習 塚田敏弘
- 主題研究を読んで 矢野英明
- 未知の現象を思考する─地層のできかたを考えよう─ 金澤一秀
- 主題研究を読んで 高岡正種
- 「深化課題」を支える逆思考の展開
─「発展学習型」と「リソース活用型」─ 佐々木昭弘
- 主題研究を読んで 中村大地
メディアが発達した今,さまざまな場所,さまざまな方法によって,さまざまな知識(情報)を得ることができるようになりました。科学館などの施設からはもちろん,本・雑誌,通信教育,塾,インターネット,テレビ,ビデオ……などによって,子どもたちは,かつてのわたしたちとは比べものにならないほど膨大な知識を,授業前に得ています。地域差や個人差はあるが,文字情報を中心としたさまざまな知識(情報)から学習をスタートさせている子が増えていることは,わたしたちが実感しているところです。
しかし,この手の知識は,いわゆる「わかったつもり」というレベルにとどまった理解です。実際に観察・実験によって事実と照合した知識,さらには,日常生活への適用・応用が可能となる生きてはたらく知識とはなっていません。まして,科学的な見方や考え方を伴った理解には,到底至りません。
このような環境の変化に伴う子どもたちの学びの変化を,わたしたち教師は「今日的課題」として問題視してきました。子どもが授業前に学ぶことを良しとしない風潮が,学校教育の世界には少なからずあったからです。授業に先行した知識は,事象と子どもが出会ったときの感動を妨げ,問題解決を形骸化させるという誤解は,「教科書を使わない授業」「何も教えないで自力解決する授業」を流布させ,学習のための身近なリソースを,子どもたちから奪う結果となったことは否めません。
前述した子どもの学びの変化の実態,さらに,子どもの学びを,学校教育という限られた範囲ではなく,社会教育,そして家庭教育も含めた広い視点で考えようとする昨今の教育事情を考えたとき,子どもが知らないことを前提にした授業は,成立しにくくなっていると言えるでしょう。
これからの理科教育に求められることは,既有の知識(情報)はもちろん,メディアをはじめとした有益なリソースを自分の問題解決に活用させ,前述した多様な子どもの実態にフレキシブルに対応した問題解決学習を,いかに組織できるかです。そのためにも,子どもにより深く考えさせ,より深い理解を促す「深化課題」の開発は,これからの理科教育を考えていくうえで,重要な教材研究のポイントになるに違いありません。
本号が,「深化課題」開発の一助となることを願っています。(担当/佐々木 昭弘)
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