食農教育 No.46 2006年3月号より
テーマ別 農高の取組みガイド
備長炭より効果あり!ダンボール炭で水質浄化
神奈川県立相原高校
青木博久
ダンボールの「表面積」に着目
みなさん「炭」の効果をよく耳にしますよね。とくに、「備長炭」の効果は飲料水をおいしくしたり、消臭や除湿などよく知られています。しかし、ここではびっくりするような材料を使って、汚れた水(栄養分の多い水)をキレイにする方法を説明します。
まず、炭の材料は「木材」ではなく、身のまわりにある「ダンボール」。キーワードは「表面積」です。炭一gの表面積は二〇〇〜一〇〇〇m2にもなるといわれ、炭は固まりよりも粉や粉砕したもののほうが表面積が多く、効果を高められます。
そこで、安価で表面積の大きいダンボールに着目。強度補強とさらなる表面積の増加を考え、ロール状にすることを思いつきました。
炭焼き缶を焚き火にくべるだけ
ダンボールの材質は「紙」です。それを炭にするには「炭化」させなければなりません。炭焼き窯や炭焼き装置を使わなくても炭化させる方法を検討しました。
まず、「清涼飲料水」のスチール缶(アルミ缶ではダメ)を二本用意し、飲み口の部分を切り取り、互いに差し込めるようにします。次に、ダンボールをスチール缶に入る大きさに切り、たこ糸で結びます。
廃材で焚き火を行ない、その中に缶を入れます。缶の隙間からガスが出たあと、火がついて(小さな炎)、その火が止まるころに炭が完成です。
そのさい、缶の使いはじめには、塗料が燃えてガスが出る可能性があるので、離れて火の具合を見ること。また、炭化直後は缶が高温なので「やけど」しないよう注意が必要です。缶は繰り返し利用できます。
ペットボトルの併用で強度と水質浄化力がアップ
このダンボール炭は、前任校の神奈川県立中央農業高校時の取組みです。農業クラブ活動で「環境科学部」に所属する生徒が、近くを流れる川の汚れをキレイにしたいと考えこの研究が行なわれました。はじめは備長炭などを材料にしていましたが、安価で効果の高い浄化材の検討を行なった結果、ダンボールにたどり着きました。
ダンボール炭は炭にある無数の穴に加え、多くの表面積から汚れを吸着する働きが高いと考えたのです。
しかし、実際に河川などに使用するさい、水以外の物理的な衝撃を受ける可能性があると生徒から意見が出ました。そこで、炭の強度補強をするために、五〇〇mlのペットボトルの底を切り落とし、その中にダンボール炭を入れる方法で行なうこととなりました。
ペットボトルによりダンボール炭の強度を保ちつつ、水中のチッソやリン酸を吸着することが可能です。さらに水の中でペットボトルに生物膜(富栄養化したヌルヌル物質)ができ、微生物のエサとして利用されることで、汚れの吸着効果がさらに高まると期待できます。この装置を「ハイブリッド浄化装置」と命名しました。
水質浄化の効果を確かめるために、ペットボトルにダンボール炭と備長炭をそれぞれ同じ重さにし、人工的につくった排水を通して汚れを比較してみると、アンモニア態チッソもリン酸も備長炭よりよく吸着していることがわかりました(下表)。
みなさんも、簡単で安価な水質浄化資材づくりに取り組んでみませんか。
(電話 〇四二七―七二―〇三三一)
コーヒーや紅茶のスチール缶を使用。飲み口部分にドライバーで穴をあけ、金切りバサミでフタをとって、炭焼き缶とする ペットボトルに差し込んだ「ハイブリット浄化装置」
人口排水を回数を変えてかけ流したあとの水質浄化結果(分光高度計による)
(単位:mg/l)浄化資材 浄化対象 人口排水濃度 10回かけ流し 50回かけ流し 100回かけ流し ダンボール炭 NH4-N 0.8 測定範囲以下 測定範囲以下 測定範囲以下 PO4 0.982 0.355 測定範囲以下 測定範囲以下 備長炭 NH4-N 0.8 0.552 0.44 0.345 PO4 0.982 0.842 0.769 0.997 データ蓄積中! シマミミズの生ゴミ処理能力
北海道立大野農業高等学校
シマミミズを活用した生ゴミ処理で、循環型の学校づくりをめざすのは、北海道立大野農業高校。北海道でシマミミズは越冬できず、ミミズ堆肥の試みも比較的少ないようだが、そこは農業高校、ハウス利用で継代飼育を行なう。
生ゴミ処理のやり方は、農場や寮からでた廃棄物や食物残渣を、一旦コンポストに入れて水分を抜きつつ、EM菌で一時発酵させる。そのあと、シマミミズの入った三〇cm角の木箱に入れて食べさせる。当初二kgのシマミミズを一箱に入れてはじめたが、いまでは増殖・分派して四箱に増えたとか。
実践者の生活科学科園芸班七名は、さまざまな実験や科学的分析を行ない、そのデータを函館のNPO団体に提供。農高生の基礎研究をもとに、市内のとあるホテルからでる食品残渣をNPOがミミズ処理し、それを土壌改良剤として投入した土で育った野菜を、もう一度ホテルの食材として使う。そんなプロジェクトも行なわれているとか。
同校の基礎研究では、キャベツを加熱処理したり、刻んだり、発酵させたりして、ミミズの処理能力にどれほど差がでるかを調べたり、ミミズ糞尿の科学的分析とそれを用いた野菜の栽培実験など、毎年データを積み重ねている。生徒たちの基礎研究とNPOによる実践データで、循環型の学校づくり、町づくりが一歩ずつ現実に。「興味ある方には、よろこんでデータをお送りします」とのことだ。
担当 梅田英一
電話 〇一三八―七七―八一三三絶滅危惧のサギソウを無菌播種で増殖・商品化
愛知県立作手高等学校
夏に白い翼を広げるがごとく、可憐でみごとな花を咲かせるサギソウ。ラン科の野生ランで、全国各地の湿地に自生していたが、現在は絶滅危惧種。かつて村の中央に大きな中層湿原があり、サギソウが群生していたという愛知県は作手村(現新城市)の作手高校では、毎年植物バイオテクノロジーなどの実習を利用して、無菌播種によるサギソウの増殖を行なっている。
ところで、ラン科植物のタネは極めて小さく、胚乳をもたない。つまり、養分を貯蔵しておらず、自力で発芽しにくいのだ。自然界では、低い確率でラン菌と共生し、生育する。
そこで、同校では旧作手村のシンボルであったサギソウを、寒天培地に無菌播種し、一〇年ほど前からは商品化にも成功させた。
三学期、寒天培地に播種。発芽し、葉っぱがでる。一年ほどはフラスコ内で移植したり寒さに当てたりしながら球根を育て、翌春、ようやくミズゴケに植え出し(順化)する。その過程で腐ってしまう球根も多く、花を咲かせるまでには二年もかかるのだ。
こうして咲いたサギソウは、、七月下旬〜八月上旬に道の駅で販売。興味をもった村の農家も多く、いまでは作手高校発のサギソウ愛好家がずいぶん増えたそうだ。ただ、昨年は一帯でウイルス性の病気が発生し、ほとんど販売できず。生き物相手の取組みを継続することの難しさを実感している。
担当 荻野崇義
電話 〇五三六―三七―二一一九環境問題化する竹林の拡大を竹パウダー活用でくいとめろ!
石川県立七尾・七尾東雲農業高校
農村の高齢化で手入れされず、隣接する杉林や農地につぎつぎと侵入。里山の環境を破壊するとして、「孟宗竹」が全国で問題となっている。しかし、その生命力に着目し、竹を粉砕、繊維(パウダー)化したものを利用し、キノコの培養や稲作、畑作に有効利用する研究をはじめている農業高校がある。七尾農業・七尾東雲高校(四月より七尾東雲高校)だ。
キノコの培養はふつう広葉樹を中心としたオガクズなどが使われるのだが、ここでは、演習林の竹を切り出し、鋸でギコギコ挽いた竹オガクズを利用。これでも子実体発生率が十分あることを確かめ、「平竹一号」として商品化することに成功した。できばえは、ブナ林で栽培したキノコの味に匹敵するとか。
また、田畑への利用では、竹パウダーを四〇l七〇〇〜八〇〇円で購入(今年度は業者からの無償提供)。実践農家の協力も受け、代かき前の田んぼに散布したり、畑の畝にマルチするように撒いたりして作物を育てている。
田んぼには一・五aに四〇〇lほどの竹パウダーを使った。それ以外は、硫安(チッソ肥料)を手のひらに軽く一杯ほど追肥しただけで、玄米のタンパク含有率が五・〇%と超低タンパク。中能登農林総合事務所の品質評価値も八一点と、すばらしい成績を記録したそう。
このお米、名を「活地気米」と呼び、全国の高校生が食材の調達からメニューづくりと調理まで、すべてを自らの手で行なう料理コンテスト「ごはんカップ二〇〇五(全国農協中央会主催)でもこだわりの米として使われ、みごと二位を獲得したという。
担当 松井元雄
電話 〇七六七―五七―一四一一
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