農と食に根ざした地域独自の総合的な学習の取り組み

地域に飛び出し、最先端の米問題を考えた 新潟県頸城村3校合同「米米サミット」


「米米サミット」のようす(右)と
子どもたちの「アイガモ稲作」(左)
アイガモ稲作の実践が深める学びの自信
「君たちが1年間勉強してきて、今日話しあったことは、お米の最先端のことだ」
 新潟県頸城村で、農業法人「久比岐の里 農産センター」を営み、村会議員でもある峰村正文さんは、村の小学校五年生145人に、こう語りかけた。
 頸城村の南川小学校・明治小学校・大滝小学校の3校合同で、五年生の「米米サミット」が、今年2月23日に開かれ、「考えよう!これからの頸城村の米作り」のテーマで3つの分科会に分かれて、報告と活発な討論が行われた。この日、各学校の「地域の先生」が、アドバイザーとして招かれたが、その一人が峰村さんで、全体会での感想として述べたことだ。

 「久比岐もち」の加工など先進的な取組みで知られる峰村さんが、「最先端」として例にあげたのは、五年生が挑戦してきて、稲作りの楽しさとご飯のおいしさ・安全性に大いに自信を持って報告した「アイガモ農法」、さらには、いま全国の農家が注目し実践が広がっている米ヌカの除草作用と土壌活性化効果を生かす「米ヌカ農法」などである。

 「政府は『環境にやさしい農業』という方向に変えていこうといているし、頸城村役場も同様だ」「アイガモや米ヌカを使って農薬を減らすとクモや川の魚が少しずつ戻ってくる」「米ヌカを使うのは微生物の発酵を生かすことで、発酵の技術は味噌や酒作りなど、日本人の大切な知恵・文化なんだ」。峰村さんは、こんな風に、励ましたのだった。

 頸城村の3つの小学校はいずれも、五年生で米学習を重視している。1年間、栽培学習、食の学習を行ない、日本の食料・米事情、地域の稲作の実情と課題などを追求する。3校とも、生徒は積極的に地域の人々と交流して、学習をふくらませていく。専業農家、アイガモ農法など有機栽培をめざす農家、昔のことに詳しいお年寄り、役場産業課、農協、農業試験場、農機具会社など「地域の先生」から直かに、例えば「アイガモ農法」の意味や技術、発生した病気の名前と対策、地域の米料理などを学びながら、栽培法や食体験の学習を組み立てていく。だから、子どもたちの稲作りと米に対する愛着や自信は、学習をすすめるほどに高まっていく。

農薬、高齢化、米食文化… 地域の現実が学習を深める
 ところが地域に出ることは、農業のさまざまな厳しい現実に触れることでもある。地域アンケートでは「子どもに米づくりをつがせたくない」という人が60%もいる。逆に「アイガモ農法をやってみたい」という人はきわめて少なく、普通 には農薬・化学肥料による農業が行われてる。農協の取材では「10年前の米が余っている」という話を聞いた。「こんなに楽しい米つくりがなぜ?どうしたらいいの」。そんな思いをもちながら一人一人が米を探究している3学期に開かれたのが、村内3校合同の「米米サミット」である。

 分科会では、「農薬は使うべきか、使っては悪いのか」など現代的問題を真剣に議論し、また、農家が高齢化し人手が少なくなった中での農法として、南川小学校からは雑草を食べてエネルギー源にするロボットのアイディアが出された。大瀁小学校からは、すばらしいアイガモ農法が手間がかかって大変なら村で共同でやったらいいのではないかという提案がなされた。
 何とかして米の消費をふやしたいと考えた大瀁小学校のあるグループは、アイスクリーム・せんべい・パンの加工に挑戦して、この日分科会の全員にアイスクリームとせんべいを試食してもらった。そして、明治小学校の生徒が「地域の先生」からアメリカの農業を学んで、「アメリカでは米をビールに使ったりミールにしている」という報告をしたが、これを聞いて大瀁小学校の米加工グループは大いに自信を深めたのだった。

 何人かのアドバイザーから「大人の考えが及ばないところまでよく考えていて感心した」「皆さんの言葉に力づけられた」との声があがったように、頸城村の子どもたちが地域とつながって米を学ぶことは、単なる農業体験を超えている。頸城村の自然の力を活かした農業、頸城村の米の多面的活用による米食文化など、今日の地域づくりの課題そのものに触れることで、生き生きとした学習が成り立たち、頸城村ならではの教育が生まれる。

 教育改革に向けて、地域と連携した「総合的な学習の時間」づくりが求められているいま、「地域による食農教育支援」が全国市町村に広がることが期待される。