地域の農家がぼくらの先生

ビデオシリーズ『農業体験で「総合的な学習の時間」をつくる』(全3巻)より


   
 「総合的な学習の時間」では地域の人の力をいかに引きだすかが決め手といわれている。とりわけ、地域の農家が本気でかかわるとき、「総合」は深まっていく。たんに、栽培や飼育に詳しいというだけではない。栽培を通 して農家の持つ自然観や作物観、生命観にふれることで、子どもたちの心が揺さぶられるのである。ビデオシリーズ『農業体験で「総合的な学習の時間」をつくる』は、そんな農家の「社会人先生」の真骨頂をよく示している。

「田んぼの先生」森田利子さんに農家の作物観を学ぶ
 千葉県の我孫子市立我孫子第二小学校(鶴長文正校長)では毎年五年生がモチ米を育てている。しかも、田植えからではなく、種もみから苗を育てる本格派だ。その指導に当たってきたのが近くの農家森田利子さん。森田さんがとりわけ気を使うのがビニールトンネルで苗を育てるときだ。

 「すぐに外に出したら赤んぼだってやけどしちゃうぞ。(苗箱の苗に)少しずつ光に当てたり、風を入れたりしてあげるんだ。土が乾いたらぜったい水をあげること。赤んぼのミルクのかわりなんだぞ」。種もみを人間の赤ちゃんのように扱う森田さんの言葉に子どもたちの顔もたちまち引きしまる。それから苗が育つまで、子どもたちは、今日の天気は、気温は、風向きは、と毎日注意をはらい、ビニールをはずすか、かけたままにしておくか、を判断する。毎日が緊張の連続である。

 ようやく迎えた田植えの日。森田さんは田んぼの一隅にたくさんの苗がまとまった株を一株だけ植えておく。収穫の日、その稲株を刈り取ってみると、分けつも、もみ数も少ない。子どもたちは苗をたくさん植えれば植えるほど収穫が増えると思いがちだ。しかし、じっさいには日当たりや肥料の関係で大苗にするとかえって収穫は少なくなる。農家が田植えのときから、そこまで見越して作業していることに、子どもたちはそのとき思い至るのである。


 

「豚の先生」網野純昭さんに 家畜と人間の関係を学ぶ
 長野県伊那市立伊那小学校(北村俊郎校長)の3年順組の子どもたちは悩んでいた。二年生のときから育ててきた豚の順子がゴールデンウィークに9匹の子豚を産んだ。それを泊まりこんで見守った子どもたちはその後も乳の出の悪い順子の代わりにミルクを飲ませたりして、一生懸命子豚を育ててきた。そんなある日、何百頭もの豚を飼っている「豚博士」の網野純昭さんから、豚は家畜だということ、雑種のオス豚はタネ豚にはなれず、肉豚として売るためには去勢をしなければならないことを聞いたからだ。この話をきっかけに子どもたちは家畜とは何か、豚の肉とはどのように利用されるのかを調べ始めた。

 順子を飼い始めたときから、子どもたちは網野さんからさまざまなことを学んできた。餌のこと、タネつけのこと、出産のこと。そのたびに、子どもたちは網野さんがいかに豚を大切に育てているかを感じてきた。しかしそれはペットとしてかわいがるというのとは違う。去年の11月の土砂降りの雨の日、子どもたちは涙を流しながら中豚に育った豚を出荷した。この2年のあいだに子どもたちは家畜を育てることの意味を網野さんに教わり、大きく成長したのである。



ビデオシリーズ
「農業体験で『総合的な学習の時間』をつくる」全3巻
第1巻 『学校農園でいきいき農業体験―地域の農家がぼくらの先生』
    千葉県我孫子市立我孫子第二小学校の実践記録
第2巻 『生命を学ぶわくわく飼育体験―いのちを育てる、いのちをいただく』
    長野県伊那市立伊那小学校の実践
第3巻 『学校田でおもしろ稲作体験―アイガモと一緒に米づくり』
    石川県小松市立木場小学校の実践
制 作 全国農村映画協会、発売 農文協、各巻10500円