学校が引きだす 〈地域の人と環境〉の教育力


『食農教育』で紹介した実践が各種コンクールに入賞

 季刊『食農教育』では毎号、食と農を核に地域の教育力を引きだす生きのいい実践を紹介しています。本誌の特徴のひとつは、文部省や県の指定を受けて「総合的な学習の時間」や「特色ある学校づくり」に取り組んでいる研究開発学校や指定校、大学の附属小中学校ばかりでなく、毎日、学校や農家を回って書籍やビデオ、CD―ROMをおすすめしててる農文協の第一線の職員の独自の情報にもとづいて、地道な活動をつづけている学校や先生をキャッチしてしていること。平成11年度はこうした学校のなかから、各種の教育賞を受賞した学校が続出しました。


地域の名人が続々登場
新潟県羽茂町立大滝小学校
第1回朝日のびのび教育賞


「コメ作り名人」に教わって脱穀
   

 佐渡の山懐に抱かれた全校児童22名の小さな学校。この学校では地域の人を「〇〇名人」として招き、全校あげてコメ、柿、そばづくりなどの体験活動に取り組んで今年で7年になる。コメ作りではアイガモを育てて、田んぼに放す無農薬農法に挑戦、特産の柿は剪定から、摘果、干し柿つくりまで、そばは栽培をタネまきからはじめてそば打ちまでを全員が経験する。それぞれの活動は地域の人が「コメ作り名人」「柿作り名人」「そばまき、そば打ち名人」などになって直接指導している。この他にも「川遊び名人」「俳句名人」等々地域には名人がいっぱいいる。

 地元の大崎地区では地元のよいものを身直そうとそばの栽培を復活させ、年3、4回開かれる「そばの会」には評判を聞きつけた何百人もの人が全国から集まるようになった。このようなむらおこしの機運は大滝小学校の体験活動を支える力になるとともに、逆に、小学校の「小さな農家」(岩野雄次校長談)の活躍がむらおこしの刺激にもなっている。とくに小学校が初めて取り入れたアイガモ農法は注目のまと。

 収穫したコメはもちつき大会や卒業式で配られるほか、大福もちにして地元の特別養護老人ホームに贈られる。ソバは1年間の締めくくりにお世話になった地域の人たちを招いてふるまわれる。こうした場は地域と学校が一体となった反省会の場であり、翌年に向けてのアイデア会議の場でもある。

 柿は焼酎に漬けて渋を抜いた特産の「おけさ柿」となって転任した先生などにも送られる。インターネットでの情報発信もはじまった。学校が大崎地区を全国に発信する基地にもなってきた。

URL http://www.sado.co.jp/ ootaki/default.htm 『食農教育』創刊号で紹介


木がつなぐ、むらのお年寄りと子どもたちの心
岡山県久米南町立誕生寺小学校
第6回マイタウンマップコンクール 環境庁長官賞

ぼくの木の持ち主は
となりのおばあちゃん

 

 校庭の植栽のなかから子どもに「自分の木」を決めさせ、継続して観察させるということは全国の学校で行われている。しかし誕生寺小学校の三年日野学級のユニークなところは、その「自分の木」をむらのなかからみつけたこと。

 「自分の家や学校以外にある木を一本だけ選びましょう。なぜ、その木を選んだか理由もちゃんと言えるようにね」。「〇〇さんちのおばあちゃんのイチジクの木」というように「自分の木」を決めたら、自分の手紙や校長・担任連名の文書を持って、子どもそれぞれが木の持ち主にお願いにいく。子どもたちはどきどきだ。木を介して、地域のお年寄りと子ども・保護者とのつながりが生まれ、一本一本の木にまつわる物語が伝えられていった。「このナツメの木は息子が何度も切りたがるんじゃけど、おじいさんがどうしても残すとゆうて聞かん。となりのけんちゃんの勉強に役立つなんか思うてもみなんだ。切らんで本当にえかったわぁ」

 木に関心を持った子どもたちはさらに、「バイオリンの先生」から木と音のつながりを学び、「森の先生」と一緒にバウムクーヘンを焼いた。さらにひとりの子の自由研究をきっかけに、全国に手紙と電子メールを発信して「都道府県の木」の調べ学習に展開していった。

URL http://paoprj.lucksnet.or.jp/ member/hino /98hhp/
平成10年度日野学級(三年生)の実践は『食農教育』5号で紹介。平成11年度日野学級六年生のケナフの実践は『食農教育』6号〜9号に連載。


休耕田を水生生物と 子どもたちの楽園に
和歌山県熊野川町立熊野川小学校
第1回学校ビオトープコンクール
優秀賞(学習部門・計画部門・協力部門)


作業はやがて泥あそびに
   

 かつて水田はメダカ、ドジョウ、ヤンマなどの水生生物と、子どもたちの遊びのパラダイスだった。この「もっとも身近な湿地」はいま、減反によって陸地化して野草が繁茂し、メダカも子どもたちの遊ぶ声も絶えてしまいそうだ。熊野川小学校では子どもたちが力を合わせて休耕田の草をぬき泥をすくって、田んぼと池を作った。池にはメダカが棲むようになり、それを食べるタイコウチやミズカマキリなどの水生生物も棲むようになった。立派な建物や水槽はないが、しゃがめばそこが水族館になる。

 熊野川小学校はこの「たんぼ水族館」を子どもたちの遊びと食と環境教育の場として活用している。草抜き・泥ぬきの作業はそのままどろんこ遊びになる。環境教育の基本は五感を使う原体験。「たんぼ水族館」を使った野草の生け花や詩の創作、インターネットを使った横浜の本町小学校との稲作や五感地図の交流などユニークな実践がつぎつぎと生まれている。

 町では教育委員会を事務局とする「たんぼ水族館保全会」を作って保全・管理をバックアップ、「たんぼ水族館」を使った環境教育は町全体の事業になりつつある。

URL http://www. rifnet.or.jp/~kumasho/
『自然と人間を結ぶ』1997年10・11月合併号、ビデオ『21世紀を拓く食農教育』第11巻(紀伊國屋書店発行、農文協発売)で紹介。


カジカガエルから見えてきた山と川のつながり
徳島県穴吹町立初草小学校
第3回 図書館を使った 調べる♀w習コンクール優秀賞



「カジカガエルすごろく」もできた
 

 初草小の学区内を流れる穴吹川は建設省の水質ランキングで4年連続四国第1位になっている清流。ところが、最近、カジカガエルの声を聞かなくなったという話を耳にした。六年生5人はインターネットで調べたり両生類の研究者に手紙を送ったりしながら、教室でカジカガエルを飼っていたが、地域の人から聞き取り調査を行なうことにした。地図上のカジカの鳴き声を聞いた地点にシールを貼って「鳴き声マップ」をつくっていく。村の物知りの中山さんからは「いっとき減って、また最近カジカガエルの声が聞こえだした。山と関係があるかもしれない」との話を聞いた。

カジカガエルが産卵するためには川底に「浮石」がなければならない。山が荒れて保水力が落ちたために鉄砲水で石が流されたり、土砂で埋められて浮石がなくなったのではないか。子どもたちの探究はそこから川と山のつながりにひろがり、人工林が増えた理由や樹種の変化、過疎化との関係、昔の木の利用法や山とのつきあいまで発展していく。

 初草小では受賞の対象となった「カジカが見てきた穴吹川」だけでなく、「はっさく物語」や「初草の田」などの探究をつづけてきた。そのすべてが地域の自然をベースにした、祖父母世代から孫世代への文化の継承であり、そのから親世代を変えていく地域活動になっている。

『食農教育』創刊号、5号、6号、7号、8号、『農村文化運動』155号に関連記事を掲載。


絵本も参考に、バケツ稲でダイナミックな実験
 第11回全国バケツ稲づくりコンテスト(JA全中主催)の個人の部で食糧庁長官賞を受賞した国枝弓郁さん(岐阜県池田町立温地小学校三年)がバケツ稲を育てるのは今年で3年目。一年生のときは日向と日陰の成長の違いを比較し、二年生では土の違い(鹿沼土、川の砂、田んぼの土)や植え込み本数(1、3、5、8本)によって生育を比較した。そして、3年目。これらに短日処理、無肥料栽培、種もみ(塩水選で浮いたもみと沈んだもみ)を加えて合計バケツ13個で壮大な実験をおこなった。コメぬ かを使った漬物つくりや五平餅や玄米茶つくりも。実験や食べものづくりには、図書館から借りた『イネの絵本』が参考になったという。

 学校の部で全中会長賞を受賞した千葉県野田市立福田第二小学校(鈴木勇校長、指導室屋由美子先生)は三年生のクラスでバケツ稲栽培に取り組み、切り株から育った二番穂も収穫した。栽培の過程で学区内にある知的障害者厚生施設の人々との交流もおこなった。

『イネの絵本』は農文協刊1890円。福田第二小の室屋由美子氏の実践は『食農教育』8号に掲載。