主張

集落営農から地域運営組織へ
――むらの「困りごと」解決が新たな仕事に

 目次
◆「地元に愛される法人」だから米は地元で買ってもらえる
◆人とのつきあいの中に米の販売がある
◆これからは仕事も福祉もエネルギーも
◆どれがいい? むらの仕事のカタチ

 今年2017(平成29)年は、設立から10周年を迎える集落営農組織が多い。国の政策的支援の対象を4ha以上(北海道は10ha以上)の認定農業者、20ha以上の集落営農組織とした2007年の「品目横断的経営安定対策」から10年がたつからだ。農水省の2015年集落営農実態調査によると、全国には1万4853(うち法人は3622)の集落営農があるが、5年ごとの設立年次別にみると、2004年から2008年に設立された組織が6553と半数近くを占める。

 さらに来年には、減反=国による生産調整配分が廃止され、またその生産調整を支えてきた10a当たり7500円の直接支払交付金も廃止される。

 農文協ではこの4月に『現代農業』『季刊地域』に掲載した記事を再構成して『設立から次世代継承まで 事例に学ぶ これからの集落営農』を発行し、7月には『むらの困りごと解決隊 30年後を見すえる地域運営組織』(仮題)を発行する。そのなかから、集落営農組織が世代交代、後継者育成、米の販売戦略などの課題にどう取り組んでいるかをみてみたい。

「地元に愛される法人」だから米は地元で買ってもらえる

 2005年6月に組合員42名で設立された大分県宇佐市の農事組合法人よりものさと。平坦地だが圃場整備率50%、排水不良等の条件不利地域で経営面積4.7haからスタートし(現在は17.5ha)、「県下一の弱小法人」といわれた時期もあったが、その後ムギをつくることで水田利用率200%を達成し、タマネギや黒大豆など新規作物を導入するなどさまざまな取り組みによって4年目ころから経営は少し安定期に入ったように感じられた。ところがこの時期の組合員の平均年齢は68歳。5年目、6年目頃から急に病気や体調不良で作業に出られなくなる人が増え、3人の主力オペレーターのうち2人はやがて70歳に。役員は「そう長くはもたない」と危機感をもち、そこで2012年から翌年にかけて農水省の「農の雇用」などを利用して集落の内外から当時32歳から49歳の若者3人を雇用した。

 リストラされた若者、会社の経営方針や人間関係になじめず辞めて引き込もっていた若者、親の介護のためにUターンしてきた若者たちだが、よりもの郷理事の仲延旨なかのぶよしさんはこう述べている。

「今考えてみると、彼らを採用したおかげで活動不能にならずにすんだのです。2013年は主力オペレーターの1人(66歳)が突然大病を患い、さらに翌年は75歳と57歳のオペレーターが高齢や病気のためにリタイア。3人の主力オペレーターが突如としていなくなったのです。若者にオペレーターを交代できていなければ、組合はどうなっていたかわかりません」

 さらによりもの郷では、担い手の若者は組合の次世代の役員になる人材であり、組合の宝として、2016年から月給制にし、社会保険もかけるようにした。そのための組合の費用負担の年間約90万円の増加は、役員報酬を半分カットして対応することを決めた。

 また、よりもの郷では、米の価格が低下するなかでムギ・大豆・飼料イネの転作を中心とした経営に転換し、水稲の面積は減らしてきたものの集落(140戸、うち農地所有者は65戸)で消費する分については十分確保し(3ha)、その米は集落内で販売するようにシフトしてきた。農協の一等米の仮渡し価格が1俵60kg8700円と、経験したことのない安値だった2014年も、集落のみんなに1俵1万4000円ですべて買ってもらえた。

「米の売り上げは、法人全体の売り上げの約3割を占めます。経営的にも軽視できません。地元での販売は、米を集落内で自給するという意味もありますが、経営的に見ると、大きな価格変動もなく、流通コストのかからない効率的な販売方法ともいえます」

 仲さんは、「集落の多くの人が米を買ってくれるのは、『地元に愛される法人』をめざして、さまざまな活動をしてきた成果の表れかもしれません」と述べている。「地元に愛される活動」とは、たとえば少し傷がついて出荷できないタマネギの無料配布。一輪車に山ほど持って帰る人もいて、とても喜ばれるという。またムギ刈り後のムギワラを「家庭菜園用にどうぞ」と圃場開放したり、家族ふれあいエダマメ刈り大会(無料)なども。これに最近は米の精米宅配(1袋30kgの米が重たくて近くのコイン精米に持って行けなくなった高齢者のために、組合が精米して保存性の高い5kgの真空パックで宅配)、通学路や散歩道の草刈り、用水路の管理(泥上げ)、14戸ある空き家の管理などの「困りごと支援」が加わって、ますます地元に親しまれるようになったという。

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人とのつきあいの中に米の販売がある

 広島県世羅町の農事組合法人くろがわ上谷かみたにでは、水稲20haで3000袋(1袋30kg)の米のうち、500袋を農協へ出荷し、2500袋を24人の組合員一人ひとりが営業して地元や近隣のお客さんに売っている。大口でも小口でも値段は変えず、基本的には大口のお客はあまりつくらないようにした。「不特定多数の相手ではなく、自分のかかわれる範囲で販路開拓したほうがつながりが強くなる」と考えたからだ。

 初めて自分たちで米を売った2006年は、その年にできた約2800袋の米のうち、およそ1500袋を直販。現在直販率は8割を超え、お客は250人ほどになった。米の直販を提案した重津征二さんの場合、お客は38人ほど。かつて勤めていた職場の仲間やその知り合いが多く、ほとんど福山市や尾道市などの近隣市町村に住んでいる。注文数は350袋ほど。

 米の市場価格が激しく下がった2014年、地域の農協の買い取り価格は30kg1袋が前年より1300円も安い5700円。一方、法人の販売価格はそれまでとほとんど変わらず1袋8500円。地元スーパーでも安い米が出回り始めたので、重津さんはお客が減るのではと心配していたが、「減ることはなく、増えているんです。主食って、わりあい浮気しないんだなあって実感しました」。

 お客が心移りしないのは、毎年秋に開催している収穫感謝祭の存在も大きいという。総勢250人が小さな集落に集まり、料理やピオーネをふるまい、もちつきや収穫体験でおおいにもてなす。この日、お客は予約していた新米を買って行く。その日ばかりではない。自分が予約した法人メンバーの家に定期的に米を買いに来てくれるようになる。お客はだいたい車で1時間以内の地元に住んでいるので、年に3~5回は足を運んでくれ、ついでに自然豊かな世羅高原で遊ぶことを楽しみにしている。

「最初は米を売ることが目的だったけど、今は人とのつきあいの中に米の販売があるっていう感じかな」と重津さん。メンバーそれぞれがこのような関係を築いているからか、代金回収ができないというトラブルが起きたことは一度もなく、米の値段が安くなった今、地元を基盤としたこの米販売は、法人としてもたいへん助かっているという。

 愛媛県西予市の俵津農地ヘルパー組合株式会社の主力は耕作できない人の園地を借り受けてつくっているミカンだが、草刈りや摘果などの部分受託作業を含めると10ha以上、20戸以上の農地を守っている。その他にも地域を守る活動として、都会に出てなかなか帰省できない家の春秋の彼岸と盆正月の年4回の墓掃除を代行、1軒当たり年2万円の料金を得ているほか、1回1500円程度で各家庭の庭先果樹や小学校の桜の病害虫防除を引き受けている。ふだん住んでいない家の草刈りや空気の入れ替え、お年寄りから買い物の車を出してくれと頼まれることもある。面白いのはそうした地域活動でミカンやジュースの売り上げが伸びたこと。法人化する2008年度までは年間700万円だったが、2013年度は1000万円。それまでの農協出荷一本から、全量直販に変え、墓掃除を依頼する集落出身者や庭先果樹の防除を依頼する集落の人にお土産やお歳暮に使ってもらえないかと呼びかけたのだ。首都圏に住む集落出身者の集まりである「関東俵津会」の人も利用してくれるようになり、全国に1400人くらいのお客がいる。また組合から2人の新規就農者も巣立っていった。

 国・農水省は減反および直接支払交付金廃止とセットの「攻めの農林水産業」政策で、2020年度の農林水産物の輸出目標額を1兆円(うち米・米加工品は600億円)としているが、これからの米販売戦略は、「困りごと解決」などの地元を支える活動を通してつながった地元、地元出身者、交流でつながった準地元の人を重視するほうが展望が開けるのではないかと思えてくる。

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これからは仕事も福祉もエネルギーも

 2014年9月5日の地方創生本部の正式立ち上げに始まる「地方創生」は3年目から4年目に入る。明治大学教授の小田切徳美氏は、昨年、こう述べていた。

「1年目は国レベルでの取り組みが中心であった。地方創生法が制定され、それに基づき総合戦略や長期ビジョンも作成された。2年目は、地方自治体の活動期となった。努力義務とされた地方版総合戦略を早々に策定した団体もあったが、多くは2015年の夏以降に本格的な検討が行われ、今年3月までにほとんどの自治体で作成された。そうなると、3年目は市町村内の地域コミュニティの活動が注目される。本来は、それらの計画と実践が先行し、ボトム・アップで市町村段階の総合戦略が作られるのが理想である。しかし、現実にはそれができたのは一部の自治体に限られており、これからの3年目には、コミュニティ・レベルでの計画作りや活動の本格化が課題となっている。そのために期待されるのが地域運営組織である」(『町村週報』2016年8月29日)

 地域運営組織とは、「地域の生活や暮らしを守るため、地域で暮らす人々が中心となって形成され、地域課題の解決に向けた取り組みを持続的に実践する組織」(総務省)。

 高知県は、集落の高齢化や人口減少による地域活動の担い手不足、買い物や移動手段といった生活面での不安、農林水産業を担う人材不足など、さまざまな課題に直面するなかで、集落に愛着や誇りを感じながら「今後もここに住み続けたい」という思いをもつ住民のために「集落活動センター」を核とした集落維持の仕組みづくり、地域運営組織づくりを全県下で推進している。

 人口400人。離島以外では「日本最小の村」の同県大川村では、昨年4月、それまで利用していた近隣地域の給食センターから離脱、小中合わせて30人の大川小中学校、保育園児数人のための村独自の給食がスタートした。調理施設を運営しているのは、大川村集落活動センター「結いの里」。

 大川村が給食事業を始めた理由は三つ。一つ目は、温かい給食を届けるため。以前利用していた村外の給食センターは、運搬に30分以上かかっていた。二つ目は、非常時にも安定して給食を届けるため。村と隣町をつなぐ県道は、大雨などの際に頻繁に土砂が流れ込む。迂回路がないため、学校に給食が届かない恐れがある。三つ目は、過疎高齢化という村の課題を解決するため。地産地消給食がスタートしたことで調理スタッフの雇用が生まれ、UIターンの家族が2組移住、農家の意欲も高まり、作付面積を増やした高齢農家もいる。

 集落を回って農家から情報を集め、必要な野菜を買い取り、調理場に届ける役割を担うのは和田将之さん。群馬県前橋市に1990年に生まれ、大学卒業後に地元企業に就職するも「自分がやりたい仕事ではない」ことに気づき半年で退職、2014年に「緑のふるさと協力隊」に参加、大川村で1年間活動した後、引き続き「地域おこし協力隊」に。昨年には村の農家の次女と結婚。

「移住者から村民の一員になり、公私ともに充実した日々を送っている。地域、学校、若者、移住者。さまざまな立場の人々をつなぎ、人口400人の力を結集していくことが私の使命だと感じる。日本一人口の少ない大川村、そして私の挑戦は始まったばかりだ」(和田さん)

 同じく高知県四万十町の集落営農組織・株式会社サンビレッジ四万十は組合員25人、経営面積20haの小さな集落営農ながら、1集落1農場方式で米とショウガ、ハウスピーマンなどの園芸品目の複合経営によって30代から40代のUターンの若者3人を常時雇用。2001年の設立時に「こんなところにしたいね」と、ビオトープや観光果樹園、梅並木などの夢を出し合った集落の将来ビジョンを次々に実現、昨年には畑にスノコ状の太陽光パネルを設置して発電、その下でサトイモ、レタス、アシタバなどの日陰でも育つ作物を育てるソーラーシェアリングを実現した(年間発電量102万kWhで売電収入年間3600万円を見込む)。今後の展開として代表取締役の浜田好清さんは、「県が支援している集落活動センターを設置して、地域ぐるみで福祉活動なども含めた生活面で助け合える仕組みをつくる」と述べている。

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どれがいい? むらの仕事のカタチ

 先祖から受け継いだ集落と農地を次世代に引き継ぐための集落営農、集落の困りごと(課題)を掘り起こし、みんなで解決しながら事業(経済活動)も行なう地域運営組織。いずれにしても、人を雇用したり、行政との間で拠点となる廃校や公民館などの指定管理や委託、あるいは助成金を受けるためにはなんらかの法人格が必要となる。農水省の調べでは、全国1万4853の集落営農のうち、農事組合法人などの法人格を持つのは3622。総務省の調べでは、全国1680の地域運営組織のうち約7割が法人格を持たない任意団体で、残り約3割の大半がNPO法人だが、地域コミュニティがその生活を包括的に守っていくために適した法人制度を開発する政策的研究が、内閣府、総務省、国交省などで近年さかんに行なわれ、「小規模多機能自治ネットワーク」に参加する自治体、団体も増えている(2017年4月現在252会員)。

 農事組合法人、NPO、認可地縁団体、一般社団法人、株式会社、合同会社……さまざまにある法人格のうち、わが集落や、集落を超えた(おおむね小学校区や昭和の合併前の町村単位)地域運営組織にとって、資本金や法人税の問題も含めて、どれが一番やりやすいのか? それに応えたのが『季刊地域』29号の大特集「どれがいい? むらの仕事のカタチ」である。そこには今全国に続々と誕生しつつある地域運営組織の現場の声が寄せられている。

「バス路線が少なく、交通不便な地域です。自治協議会で車を走らせるためにNPO法人(特定非営利活動法人)をつくりました」(岩手県北上市・NPO法人くちない事務局長 今野信男さん)

「地域おこし協力隊として赴任した対馬で、協力隊仲間と一般社団法人を立ち上げました。グリーンツーリズムなどを仕事にしていますが、非営利法人で事業色が強すぎないところが気に入っています」(長崎県対馬市・一般社団法人MIT専務理事 川口幹子さん)

「集落営農で、農業以外のこともやりたかったので株式会社にしました。田んぼを守るほか、地元の志高湖を起終点とするハイキングコースの整備・点検・ツアーガイドもやる、東山地区のみんなが株主の会社です」(大分県別府市・株式会社東山パレット社長 大野泰徳さん)

「閉店するJAのガソリンスタンドと商店を引き継ぐために、合同会社(LLC)を立ち上げました。出資者174人全員が経営者! 合同会社はむらの『全員野球』にぴったりです」(岡山県津山市・合同会社あば村役員 田辺高士さん)

 法人格を選んだ理由はそれぞれだが、同特集で法政大学法学部教授の名和田是彦氏は、「各地域の実情、とくに地域で不足しているサービスの種類とその程度によって、それに適した法人を各地域が自主的に選択していくことになる」と述べている。

 農家や集落営農組織が「小さな困りごと」を発掘し、寄り添い解決していくことが新たな「仕事」にもなり、地域運営組織の多様な活動を生んで、集落と農地を次世代に引き継ぐことにつながっていくのではないだろうか。

(農文協論説委員会)

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