主張

今、地力アップで、ジャガイモの国内自給を進めたい

 目次
◆「ポテチショック」――台風被害による不作でポテトチップス販売中止
◆国内需要の3分の1は輸入、でもポテチは国産!?
◆油で揚げるジャガイモで消費は伸びたが……
◆ジャガイモ栽培は農家をワクワクさせる
◆浅植え、深植え、ジャガ芽挿しなど、次々生まれる新技術
◆ジャガイモ多収農家は緑肥で地力アップ
◆土を育てる緑肥の効果

「ポテチショック」――台風被害による不作でポテトチップス販売中止

 農文協ではこの1月に『ジャガイモ大事典』を発行した。ジャガイモの他にナガイモ類も含み、原産・来歴から基礎生理、品種、栽培、病害虫、生産者事例までを網羅した900ページを超える大事典だ。

 発行のきっかけになったのは、2017年の「ポテチショック」だ。2016年、北海道に三つの台風が上陸し、ポテトチップス用の原料イモが不足。翌年3月に湖池屋(コイケヤ)が、4月にはカルビーが、ポテトチップス一部商品の販売中止に追い込まれた。北海道のジャガイモ不作によってスーパーやコンビニの棚からポテトチップスが消えたのだ。

 これを受け、農林水産省は、翌2018年度予算の概算要求に約30億円を計上し、加工原料用ジャガイモ農家の支援を決めた。種イモの増産や作付けの拡大に対し、必要経費の半額を助成。加工メーカーも動き、カルビーは産地分散のため北海道以外の宮城県などにも調達先を広げ、水田地帯での機械化一貫体系による栽培を進める方針を打ち出した。

 一連のニュースを聞いて多くの人は、ポテトチップスの原料の多くが国産でまかなわれてきたことを知った。「ポテチショック」は、それまであまり意識にのぼることのなかったジャガイモの流通や生産状況、そしてそれらが気象変動の強い影響下にあるということを、日本人が思い知る体験でもあったのである。

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国内需要の3分の1は輸入、でもポテチは国産!?

 ジャガイモの国内需給の状況を見てみよう。

 2016年のわが国のジャガイモ消費量(需要)は320万t。そのうち国内生産量が220万tで、残り100万t、3分の1が輸入である。だが、ポテトチップスの原料となる生のジャガイモ輸入量は3〜4万t。

 生ジャガイモの輸入は、これまで防疫の関係から規制されてきた。ジャガイモシストセンチュウなどの重要病害虫を国内に侵入させないためだ。だが、「ポテトチップスの需要の伸びに国内生産量が追い付かない」ということで、国は2006年からポテトチップス用の生ジャガイモの輸入を国内端境期(2〜6月)に限って、しかも米国相手にだけ認めた。ジャガイモシストセンチュウの未発生地域のものであることや、水洗いして土を落とすこと、港内の加熱加工処理施設で加工することなどの条件付きだ。そして17年のポテチショック。ポテチの品切れを背景に、20年には米国産ポテトチップス用生ジャガイモの輸入が、ついに周年で解禁となった。翌21年夏には北海道の干ばつによる不作で国産が品薄となり、年間輸入量がさっそく前年の2万t台から4万t台に増加した。

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油で揚げるジャガイモで消費は伸びたが……

 ジャガイモの国内需給の変遷を、今回の事典の記事などからもう少し詳しく見てみよう。

 カルビーポテト(株)馬鈴薯研究所(元北海道農業研究センター)の森元幸所長によると、日本人のジャガイモの消費の転換点は1970年の大阪万博のころだったという。

「このころまで、全国のジャガイモ消費量は低下を続け、1人当たり年間消費量は1974年に最低の12.9kgとなった。食料として生イモを家庭で調理する生食用消費が減少したためである。ところが消費の現場では質的な変化が生じ、大阪万博EXPO'70のレストランでフライドポテトが人気を博したように、油で揚げる用途が生まれ、加工食品向けが加わったことにより消費量は増加へ転じた」

 肉ジャガなどの煮物中心の食生活からの転換が、ジャガイモ需要を押し上げたといえそうだ。そして、

「ポテトチップス原料用の消費は、1975年の4万tから1985年の32万tと急増。国産原料によるチップスが米国産乾燥原料を用いた成型チップスとの競合を抑えて市場を占有。2017年には年間約40万tの国産原料が使用されている」

 なるほど、庶民の愛するポテトチップスには大きく分けて2種類ある。ガサガサした袋入りのポテトチップスと、筒の容器に入った成型ポテトチップスだ。袋入りチップスは国産の生イモをスライスして揚げるので形がバラバラになってしまうが、成型チップスは乾燥状の輸入ポテトフレーク(粉)から作るので、同じ形にできるのだ。そして日本人の多くは、筒入りの輸入イモチップスより袋詰めの国産イモチップスの味を選んだ、というわけだ。

 ところが現在、先述のように、その国産チップスの原料が徐々に輸入に食われてきている。さらにポテトチップスではなく、もう一つの大きな需要・フライドポテトのほうは、じつは完全に輸入品が主流となっている。マクドナルドやコンビニでもおなじみのあのスティック状のフライドポテトは、ほとんどが「あとは揚げるだけ」の状態に加工された冷凍品で輸入されているのである。

「冷凍品の輸入は、2018年には生いも換算で約80万t前後となっている。(中略)フライドポテト原料用の生ジャガイモは米国アイダホ産冷凍品との競合に敗れ、国産原料は年間1万t強の使用に留まっている」

 国内のフライドポテトの需要は80万t強といわれているので、じつにフライドポテトの99%が輸入の冷凍ポテトなのだ。森所長の実感では、「冷凍ポテトの輸入が始まったのは、1971年にマクドナルド1号店が東京銀座に出店した頃から」とのこと。

 このほか、マッシュポテトの形で輸入されてくるのが約18万t。したがって、ジャガイモの輸入約100万tの内訳は、80万t前後がフライドポテト、18万tがマッシュポテト(いずれも冷凍品)、そしてポテトチップス用の生ジャガイモが3〜4万tということになる。

 100万tの需要分を国産で取り戻すのは容易ではないが、物流費の高騰などから加工メーカーの輸入ジャガイモの利益率は低下しているという。2022年4月には原料原産地表示が義務付けられたこともあって、ポテトチップス加工メーカーは近年、国産原料志向を高めている。

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ジャガイモ栽培は農家をワクワクさせる

 前号の『現代農業』2月号では「心ときめくイモ品種 ジャガイモ&サツマイモ」という特集を組んだ。登場する農家の記事を読むと、ジャガイモ栽培は農家をワクワクした気持ちにさせると感じる。読んだ方も多いと思うが、今一度、いくつか記事を見てみよう。

 千葉の大熊玲子さんはもう約10年前の『現代農業』で、長崎県の育種農家・俵正彦さんの「ヤセ地でも転作田でもオッケー タワラさんの生命力極強のジャガイモ品種」(2012年2月号)という記事を読んで以来、ジャガイモのとりこになってしまったという。

 それまでジャガイモといえば茶色い品種しか知らなかったが、俵さんの記事を読んで、いろいろな品種が突然変異や自家育種でつくられてこの世に存在し、食感も食べ方も多種多様なことに気付いた。

 3年ほど前、ついに俵さんの育成品種「グラウンドペチカ」の種イモを入手。別名デストロイヤーともいわれる赤と赤紫のまだら模様が特徴で、粘り気のあるしっとり食感とほどよい甘み・旨みを持つ。マッシュポテトやフォカッチャ、スープ用として、野菜ボックスやパン屋さんの食材に提供したところ「おいしい」と好評。今では直売所でも売り切れ続出の人気品種に育ってきた。

「ジャガイモは、まだまだ奥が深い作物です。来年からは面積も増えるので、もっと本格的に農業に向き合い、新しい品種を育てていきます。ジャガイモ・農業への興味を持たせてくれた俵さんに、心より感謝いたします」と意気込みを述べている。

 需要の多いフライドポテトの専門店までオープンしてしまったというのは高松利彰さんだ。北海道せたな町で、50品種超を25haで栽培。道内ではマイナー産地となるゆえに、カラフルな品種を特徴に勝負しているという。

「フライドポテトはシンプルな分、イモの色や食感のバランスを考えた。見た目がはっきり違う紫の『シャドークイーン』、赤の『ノーザンルビー』、果肉が黄色の『インカのめざめ』、皮は紫で果肉は黄色の『グラウンドペチカ(デストロイヤー)』などを中心に、現在は10品種以上のイモを使っている」。

 フレンチやイタリアンのレストランに「サッシー」という品種を直接販売し、高値販売につながっているというのが千葉の武井敏信さん。サッシーは、ポテトチップス用に開発されたフランス原産の品種で、油との相性がよく、フライドポテトにも適しているという。

 前述のようにフライドポテトはほぼ輸入だ。ほぼ国産のポテトチップスに比べると国産に置き換えていく道は果てしなく遠そうだ。だがいっぽうで、大きな需要の一部でも国産に取り返すことができれば、伸びしろも果てしなく大きい。輸入フライドポテトを上回る味や個性で勝負できる国産品種はありそうだ。探し出して多収したい。

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浅植え、深植え、ジャガ芽挿しなど、次々生まれる新技術

 栽培法の可能性でも、ジャガイモは農家をワクワクさせてきた。

 福井県の三上貞子さんが考案したのが「超浅植え」だ。80歳を超える三上さんの畑は不耕起で、植えるときもほとんど掘らない。土は種イモがやっと隠れる程度にしかかけない代わりに黒マルチを張る。あとは途中の土寄せもなしで、収穫まで何もしない。だが時期が来ると、マルチをめくるだけで、きれいなイモが地面にズラリと並ぶ。これまでの常識では、ジャガイモに土寄せは必須かと思われていたが、黒マルチで暗くしてしまえばイモは地表面でもゴロゴロつくということだ。三上さんのこの「超浅植え」は、トラクタも管理機もなしで高齢者でも誰でもできるラクラク小力施術として、『現代農業』やDVD「直売所名人が教える 野菜づくりのコツと裏ワザ2」で全国に広まった。

 岡山県の坂本堅志さんが考案した「ジャガ芽挿し」もすごかった。これも、誌面やDVDで大評判。坂本さんはトマトでわき芽挿しができるなら、同じナス科のジャガイモでも挿し芽ができるのではないかと考え、種イモから出た芽を1本ずつ根付きで移植。見事活着して普通のジャガイモとして育つことを発見したのだ。ジャガ芽は種イモを土中に埋めておけば繰り返しとれる。その数、1個の種イモから20本以上で、当然、種イモ代は激減。ジャガ芽は1本ずつ植えるので、芽かきも必要ない。春先から11月までジャガ芽挿しを続ければ、通年でジャガイモがとれる。とんでもなく痛快なイモ栽培だ。

 この他にも、「超浅植え」とは真逆に、40cmの土寄せをして超多収をねらう「超高ウネ栽培」を考えた農家や、種イモから芽のまわりだけをくりぬいて植える「ジャガ芽だけ植え」を考えた農家などが次々出てきて、ジャガイモという植物の奥の深さにも魅了される。

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ジャガイモ多収農家は緑肥で地力アップ

 さてそんなジャガイモを、気象変動時代にも安定多収し、日本の食を日本の農産物で支えていくために、地力=土壌の総合的な力を高めたい。『ジャガイモ大事典』では全国のジャガイモ農家の事例も載せているのだが、それらの記事を読むと、「輪作」と「緑肥」で地力アップ(維持)をねらう例が目につく。

 北海道幕別町の折笠農場(折笠健さん)は、農薬と肥料をまったく使わない自然栽培と半減使用の特別栽培を組み合わせた95haの経営。父親の秀勝さんが「肥料や農薬の量を増やし続けても、同じ分だけ収穫量が増えていかず、その原因は地力の低下にある」「入植時は十分な肥料も農薬もなかったが、それでも農作物がとれていたのは土地自体に養分に富む力があったからだ」と気づき、土地そのものを見直し、農薬や化学肥料に頼らない栽培に切り替えた。1970年代のことである。肥料を大量に必要とするテンサイをやめ、当時では珍しい緑肥やデントコーンを経営の半分の面積に導入するなどして近所に怪訝な顔をされたという。

 近年の折笠農場の無肥料畑の輪作は、マメ科のダイズを基幹とし、緑肥を組み込む。1年目ジャガイモ、2年目と3年目ダイズ、4年目春まき小麦(クローバ混播)・後作緑肥(エンバク+クズダイズ+クズ小麦の混播)、という輪作体系が基本パターン。マメ科のチッソ固定のせいか、無肥料栽培にもかかわらず地域の基準収量に比べ、ジャガイモで6割弱、ダイズで6〜7割、春まき小麦で5割弱の収量が得られている。

 北海道帯広市の中藪農園(中藪俊秀さん)では、ダイズ・アズキ→ジャガイモ→ナタネ・エゴマ(どちらも搾油して販売)・カボチャ・ニンジンなど→緑肥(エンバク)の4年輪作を行なっている。また、北海道では珍しく地域の乳牛の生糞5t/10aを秋のナタネ収穫後に土壌表面散布し、雪の下でゆっくり発酵させる「土ごと発酵」も取り入れ、有機物の還元量を増やしている。その結果、ジャガイモは「はるか」「こがね丸」「ピルカ」で4t/10a、「とうや」「十勝こがね」で3t/10aの安定多収。

 いっぽう暖地の産地では春作+秋作と1年中ジャガイモを作付けるので連作障害が出やすいが、長崎県のJAながさき県央ばれいしょ部会の山口正さんは、主力の5月の春作ジャガイモの収穫時にソルゴーやスーダングラスなどの緑肥を播く。産地では、試験場とメーカーが共同開発したジャガイモ収穫同時播種機が10年ほど前から使われていて、省力的に緑肥の播種ができる。山口さんの春作ジャガイモの収量は、13年、20年が10a3.7t、21年は4.7t。多収実績を誇る。

土を育てる緑肥の効果

「緑肥で地力アップ」といえば、昨年発行になった『地力アップ大事典』のほうも見ておきたい。北海道のジャガイモ農家をはじめ多くの農家に読まれており、発行後1年たつが途切れることなく注文が続き、増刷も決まった好評な事典である。

 中に「緑肥作物の土つくり・減肥効果」という記事があり、農研機構中日本農業研究センター・唐澤敏彦さんが、ソルガム、エンバク、マメ科のヘアリーベッチなどの地力アップ効果がかなり大きいことを実証している。

 たとえば、育ったソルガムをすき込み1年後に調べた結果では、牛糞堆肥反当1.4tと同程度の炭素蓄積効果が期待できた。

 土壌団粒の促進効果も高い。緑肥は新鮮な有機物であるため、すき込んだ圃場では土壌微生物の活性が高まり、2mm以上の大きな耐水性団粒の割合が多くなった。

 根が深く張る緑肥は、堆肥や機械では難しい下層土の改良効果も高い。エンバクの緑肥では、耕盤と呼ばれる深さ15〜30cmの硬い層の緻密度が低くなり、その下の層も隙間が増えた。そこに育てたコマツナの根は耕盤層を越えて深くまで伸びていた。

 そして緑肥の減肥効果だ。根が深く張る緑肥は、雨で下層に流亡したチッソやカリ、リン酸などを吸い上げる。同時に緑肥は土中の微生物を殖やし、作物が吸収できないとされる有機態チッソを分解して地力チッソ(可給態チッソ)を増やすことにもつながる。

 肥料高騰の折り、長効きチッソが増えて施肥チッソが減らせる。地力アップに向けて、緑肥を大いに活用したい。そしてジャガイモも安定生産し、国内自給を進めたい。食料安全保障へ向けて、農家ができることの一つである。

(農文協論説委員会)

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