主張
農家魂を揺さぶる記事を、本年も――『現代農業』2026年編集方針より
目次
◆『現代農業』2026年編集方針
◆(1) 米価高騰を機に、作物栽培を学び直し、「小農予備軍」をコア読者化する
◆(2) 初心者や若者が作物の生理を理解し、品質のいいものをちゃんとつくれるような記事に力を注ぐ
◆(3) 暑すぎる地球。作物・家畜たちの異変をキャッチし、技術を組み替えていく農家の対応力、修正力に迫る
◆(4) 耕さない農業、炭素貯留力の高い農業への関心の高まりに応える
◆(5) 有機農業の技術こそが農業技術の本流に。『現代農業』が減部すれば離農が増えると肝に銘じて、有機農業の技術を描く
◆(6) 「農村こそ異文化理解、国際交流の最前線」の視点で、世の中の排外主義的な風潮に対抗する
◆(7) 『のらのら』の精神を引き継ぎ、10年後を見据えた後継者育成の道を探る
◆(8) 動画や音声コンテンツも活用し、「雑誌+α」の新しい価値を創造する
読者のみなさま、改めまして新年2026年も、よろしくお願いいたします。
『現代農業』は、今月号から編集長が交代し、新しいメンバーで新しい気持ちで編集に臨んでおります。農家の減少にともない部数が減少しており、そこが最大の悩みではあるのですが、「農家がつくる農家の雑誌」のコンセプトは永久不変なまま、時代に即応し、常に何かにチャレンジする元気な雑誌でありたいと、意気込みは十分です。
新年に当たり、新編集長を中心に「『現代農業』2026年編集方針書」を作成いたしました。農文協内部向けの文書なのですが、なかなか力が入っており、できれば読者のみなさまにもそのまま読んでいただきたく、当「主張」欄に掲載させていただきます。
今月号から「取材まるみえノーカット動画」の配信も始まりますが(175ページに案内あり)、こちらの年方針は、編集部の「決意まるみえノーカット文書」ともいえるものになりました。内部向け文書ゆえ、編集部員への叱咤激励なども含み、読み苦しい部分もありますが、どうかご笑覧ください。
『現代農業』2026年編集方針
もう一度、『現代農業』編集部としてのプロ意識の醸成を
大幅な減部を編集部内で共有し、「何のために?」「誰のために?」この仕事をやっているのか問いかけたい。
YouTubeやAIなど情報発信における強力な「ライバル」が出現するなかで、我々は何においてプロであるか? 〈農家の技術を体に入れて表現することのプロ〉〈農家になりきって読者を動かすプロ〉であり、〈農家よりも農家になる!〉という心意気を胸に刻みたい。
*〈 〉は編集部員各々が考えたキャッチコピー(チームスローガン)より採用
〈情勢と編集の力点〉
(1) 米価高騰を機に、作物栽培を学び直し、「小農予備軍」をコア読者化する
農家が足りない、食べものが足りない時代がやってきた。令和の米騒動の最中、全国民が農村の持続可能性に関心と不安を抱いている。自分につながるたいへんな未来を憂える気持ちをもっている。
政府やマスコミは企業的経営をめざす大規模農家をフォーカスして未来を描く。「山間地の農家は放っておいたらやめていく、未来ある人たちに投資すべき」「平場の優良農地は大規模農家が営農し、中山間地の条件不利地は自給農や趣味の家庭菜園が農的ライフを楽しめるよう、ゾーニングすべし」と主張する。
しかし、日本の国土の4割を占める中山間地の農地を支えてきたのは小農であり、兼業農家だった。経済的にはペイできないから、農業からずっと背を向けてきた農家の後継ぎたちも、地元の消防団や祭り、草刈り、溝さらいなどの「国土保全」ともいえる仕事を支えてきた。そんな「ネイティブ農家」「小農予備軍」が、まだまだ農村にはたくさんいる。
米価高騰、野菜や果物の価格上昇は、消費者の食糧危機の不安を増幅させるとともに、後継ぎ農家にはわが家の田畑の価値、代々続く農家に生まれたことへの誇りを呼び覚ます契機にもなる。
米が高く売れたから、だましだまし使ってきた機械を買い替えようか。今年は1俵多くとって、地元を離れた仲間にもたくさん米を送ってやろう。そんな彼らの心情に刺さる誌面、農家魂〈農魂〉を揺さぶる企画を追求したい。「地元農家」「ネイティブ農家」「小農予備軍」こそが、『現代農業』のコア読者である。キーワードは「学び直し」。合言葉は――、〈「わかる」じゃ足りない。「感じる」まで届けたい〉。
(2) 初心者や若者が作物の生理を理解し、品質のいいものをちゃんとつくれるような記事に力を注ぐ
生産力不足は米だけでない。異常気象もあいまって、トマト、イチゴ、キャベツ、ミカン、リンゴなどの野菜や果樹でも生産基盤が揺らぐ。逆にいえば、ちゃんとつくっていいものを出せば、農業は儲かる時代でもある。
宮城の直売所名人、佐藤民夫さんは74歳になるが「今、農業をやれば絶対に儲かる」と言い切る。中古農機を利用し、農薬や資材を使いこなし、金銭的にも体力的にもできるだけ負担のかからない農業を追究することで、時給1万円以上にもなる利益率の高い経営を実現。研修生もどんどん受け入れながら、農業で儲かる基盤づくりをサポートしている。
米だけでなく、野菜や果樹でも、ちゃんとつくればそこそこ儲かる。初心者や若手が作物の生理を理解し、品質のいいものをちゃんとつくれるようにする記事に力を入れる。ベテラン農家にとっては「学び直し」。『現代農業』をしっかり読んで、真面目に農業をすれば儲かる世界をつくらなければならない。
(3) 暑すぎる地球。作物・家畜たちの異変をキャッチし、技術を組み替えていく農家の対応力、修正力に迫る
2025年は6~8月の気温が平年より+2・36°Cとなり、3年連続で「史上もっとも暑い夏」になった。猛暑と渇水の影響で、「山の上の田んぼは水がこなくてイネが枯れてる」「夏野菜がまったく収穫できない」「ミョウガの花芽が全然上がってこない」といった声が各地から聞こえる。
地球沸騰化時代に生きる農家が日々田畑、自然と向き合うなかで、どう技術を組み替えていっているか。イネの元肥一発肥料の早効き、イチゴの花芽未分化問題、サツマイモの空洞症、野菜の播き時・作型のズレ、シャインマスカットの未開花症、ミカンの生理落果、ニワトリの産卵率低下......。作物・家畜の異変に対する現場の農家の対応力、修正力をしっかりと描く。〈答えは農家の中にある〉。
(4) 耕さない農業、炭素貯留力の高い農業への関心の高まりに応える
「耕さない農業」に関わる特集、単行本が売れている。乾燥によるダストストーム、豪雨による土壌流亡など、農業は温暖化の「被害者」である一方で、土中の炭素を放出してきた「加害者」でもあるという認識も広まってきている。だからこそ、産業革命以降に30~50%も減ってしまった炭素を再び地下に貯留できれば、大地の再生は一気に進む。「炭素貯留力の高い農業」への転換である。
欧米発のリジェネラティブ農業と、日本の先人が切り開いてきた不耕起栽培の技術を組み合わせながら、今の時代における「耕さない農業」の形をつくる。北海道の大規模畑作農家によるミックス緑肥の活用や不耕起栽培への果敢な挑戦は、東北や関東の畑作・水田転作、関西や九州の施設園芸にも波及してきた。引き続き、最前線の取り組みを紹介していく。
(5) 有機農業の技術こそが農業技術の本流に。『現代農業』が減部すれば離農が増えると肝に銘じて、有機農業の技術を描く
『みんなの有機農業技術大事典』という農家の実践に満ち満ちた分厚い書籍の発刊は、有機農業界隈での軋轢やわだかまり、有機と減農薬、慣行栽培との分断がいかにちっぽけなことであるかを知らしめた。農薬や化学肥料使用の有無は枝葉末節。「生きものと一緒に農業をする幸せ」を感じ、「生きものの循環の輪の中に入ってやる農業」であれば、「みんなの有機農業」である。マインドセット(考え方)を変えれば、ちょこっとの技術の組み替えや味付けで、誰もが実践できる農業となる。
登録農薬がどんどん減っていくなか、今後は有機農業の技術こそが農業技術の本流となっていく。慣行農業でやってきた農家にとっても、否が応でも学ばねばならない技術となる。〈『現代農業』は農家の道しるべ〉。有機農業をリードする〈『現代農業』が減部すれば、離農が増える〉と心得て、編集・普及に挑みたい。
(6) 「農村こそ異文化理解、国際交流の最前線」の視点で、世の中の排外主義的な風潮に対抗する
先の参院選では「日本人ファースト」を掲げる参政党が躍進した。長引く経済不況と不安定な国際情勢のなか、排外的な思想、外国人排斥の風潮が強まっている。
一方、農村では、外国人労働者なしでは産地が維持できない現実があり、都会に先んじて外国人労働者との付き合い方を学んできた。農の根源的なフトコロの深さ、異種のものとうまく付き合う能力、分断を超える力が発揮されるときである。地域文化の拠点であり、生物多様性に富む農村こそが、異文化理解、国際交流の最前線であり、農家の実践を通して排外的な思想に対抗していく。
(7) 『のらのら』の精神を引き継ぎ、10年後を見据えた後継者育成の道を探る
こども農業雑誌『のらのら』発刊から15年(現在は休刊)。あの頃小学生だった彼ら、彼女らが立派に成人している。
山形の佐藤優子ちゃんは、果樹農家の後を継ぎ「若ママ農ギャル」でネット販売に力を注ぐ。秋田の機械大好き少年だった長沢健太くんは、クボタのセールスマンをしながら、父とリンゴやブドウを栽培する子育て中の兼業農家。東京の小林宙くんは、タネ好きが高じて、伝統野菜のタネを売るネット通販会社を起業。
農家は後継者不足を嘆くより、子や孫と一緒にトラクタに乗り、畑で遊ばせ、小遣い稼ぎさせるべし。十年一日が如し。農村の後継者不足解消に向けて、遠回りなように見えるが、「こども」と農業をつなげるのが一番の近道である。
(8) 動画や音声コンテンツも活用し、「雑誌+α」の新しい価値を創造する
ネット環境、SNS、AIの進化によって、誰もが全世界に向けて情報を編集して発信することも、受け取ることもできるようになった。『現代農業』も取材動画、WEB、VOICEと新しい表現方法を工夫してきた。これを継続・発展させる。雑誌編集者が現地で取材している様子、ライブ情報を「ノーカット動画」として価値化できないか? 成果物である誌面とセットで販売する試みにも挑戦したい。
(農文協論説委員会)
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【主張】能登は未来社会への分岐点 「在所の力」を生かす復興とは【現代農業VOICE】
