主張
いつまでもあると思うな米と田んぼ
目次
◆農家の数は5年で4分の3に激減
◆米は足りても食料自給率は?
◆兼業農家攻撃にもの申す
◆小さい農家が小さい田んぼを守る意味
◆農家と農村を伝えたくて本をつくった
農家の数は5年で4分の3に激減
新しい年が始まった。この雑誌がみなさんのお手元に届く頃、店頭のお米の値段はどうなっているだろうか。2025年産米の栽培面積が増え、豊作も伝えられているのに、5kg4000円を上まわる米価が続いたことを不満に思う人は多いだろう。農家の中にも高すぎると思う人は少なくない。このまま高値が続いては消費者の米離れが心配だ。実際、新米の販売不振が伝えられている。
なにより農家にとっては26年産米の生産者価格の下落が気がかりだ。もし仮に、米騒動以前の米価に戻るようなことがあれば米づくりからのリタイアに拍車をかけるだろう。新年に明るい話題をお届けできず恐縮だが、昨年11月28日に農水省が公表した「2025年農林業センサス結果の概要(概数値)」は、この5年間で農家が急減したことを伝えている。
ところが農水省の資料のリード文には次のようにある。
「農業経営体の減少が続く中、法人経営体は5年前に比べ7.9%の増加。1経営体当たりの経営耕地面積は3.7haとなり、0.6haの増加。また、経営耕地面積20ha以上の農業経営体の面積シェアが、初めて5割を超えるなど、規模拡大が進展」
農業経営体(農家)は減っているものの、規模拡大が順調に進んでいることを誇る内容だ。ここでは「農業経営体の減少が続く中」とさらっと一言ですませているが、その減少度合いを知れば、安心していられる状況ではないだろう。5年前の20年時点と比べると23.9%の減少。自営農業を主な仕事にしている基幹的農業従事者数で比較すれば25.1%減。わずか5年で4分の3に減ったことになる。
| 年産 | 主食用米 | 備蓄米 | 加工用米 | 新市場開拓 | 米粉用米 | 飼料用米 | WCS用イネ | 麦 | 大豆 | ソバ・ナタネ等 | 合計 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 2018 | 138.6 | 2.2 | 5.1 | 0.4 | 0.5 | 8.0 | 4.3 | 9.7 | 8.8 | 10.2 | 187.8 |
| 2019 | 137.9 | 3.3 | 4.7 | 0.4 | 0.5 | 7.3 | 4.2 | 9.7 | 8.6 | 10.2 | 186.8 |
| 2020 | 136.6 | 3.7 | 4.5 | 0.6 | 0.6 | 7.1 | 4.3 | 9.8 | 8.5 | 10.2 | 185.9 |
| 2021 | 130.3 | 3.6 | 4.8 | 0.7 | 0.8 | 11.6 | 4.4 | 10.2 | 8.5 | 10.2 | 185.1 |
| 2022 | 125.1 | 3.6 | 5.0 | 0.7 | 0.8 | 14.2 | 4.8 | 10.6 | 8.9 | 9.9 | 183.6 |
| 2023 | 124.2 | 3.5 | 4.9 | 0.9 | 0.8 | 13.4 | 5.3 | 10.5 | 8.8 | 8.5 | 180.8 |
| 2024 | 125.9 | 3.0 | 5.0 | 1.1 | 0.6 | 9.9 | 5.6 | 10.3 | 8.4 | 7.4 | 177.2 |
| 2025 | 136.7 | 0.0 | 4.4 | 0.9 | 0.4 | 4.6 | 4.9 | 9.5 | 7.5 | 6.7 | 175.6 |
| 25年対前年差 | 10.8 | ▲3.0 | ▲0.6 | ▲0.2 | ▲0.3 | ▲5.3 | ▲0.8 | ▲0.8 | ▲1.0 | ▲0.8 | ▲1.6 |
米は足りても食料自給率は?
農家の減少は、消費者にとってはどんな意味があるだろうか。農家の数が減っても農地の面積が変わらないなら農業生産に影響はない。よく言われる農地の「集積」「集約」には、規模拡大する経営体がリタイアする農家の農地を全部引き受けるような響きがある。しかし現実にはすべての農地が引き継がれるわけではない。
上の表は、主食用米のほか、備蓄米や飼料用米、麦、大豆などの転作作物も含めた水田の作付状況を18年から比較したものだ。各年の合計面積を比べると、18年から25年までの7年間に12.2万haも減っている。これは米の収穫量日本一の新潟県の主食用米作付面積10.9万ha(25年)を上まわる。
「令和の米騒動」では24年夏からスーパーの米が品薄になり、米不足が顕在化した。そこで25年は主食用米の作付けが10.8万ha増えた。政府が米の増産に舵を切れば、すぐに作付けが増えるようにも思える。だが、表を見るとわかるように、その10.8万haは、備蓄米をはじめ、飼料用米や大豆などの転作を減らした代わりに増えただけのことだ。休耕田や遊休田が復活したわけではない。前年と比べると水田の作付全体の面積は1.6万ha減っている。
この先、日本の人口は徐々に減っていく。農家が減り、水田の作付けが減っても、転作を減らして主食用米へ振り向ければ米の需要はまかなえるかもしれない。しかし飼料用米や大豆の作付けが減れば、カロリーベースの食料自給率は下がってしまうだろう。
農水省は、24年に改正した食料・農業・農村基本法で食料安全保障の強化をうたった。その後に定めた基本計画では、24年時点で38%の食料自給率を30年までに45%へ引き上げる目標を掲げている。鈴木憲和農水相のいう米の需要に応じた生産には対応できても、食料自給率の目標は達成できるだろうか。
同じく基本計画では、担い手への農地集積率を現在の6割から7割へ高めることもうたっている。だが、この10年を振り返ると、担い手への集積率を高めながら水田の作付面積も耕地面積も低下を続けてきた。大規模経営のシェアが増えたからといって、それを誇っていればすむ状況とは思えない。
兼業農家攻撃にもの申す
もう一つ気がかりなのは、このところメディアで兼業農家攻撃が散見されることだ。25年産米の収穫量が増えたにもかかわらず、店頭の米価が下がらない不満のはけ口にしようとしているかのようである。海外と比べて高い日本の米価が兼業農家を温存した、それが規模拡大の障害になっている、というのである。
15年前、政府がTPP(環太平洋連携協定)参加を言い出したときも「強い農業」論がよく聞かれた。アメリカやオーストラリアに負けない、輸出もできる農業志向。それは今も続いているが、大きい農業の優位性を主張するあまり、立場の弱い農家に矛先を向けるのはいかがなものか。食品メーカーなどが生産原価の価格転嫁を進めることには口を挟まないのに、それが米づくりだと冷や水を浴びせる。
米農家はこの30年、低米価を強いられてきた。5kg4000円超の小売価格が続くのは高いとしても、30年前はスーパー店頭で3000円台の米はふつうだった。5kg3500円の米はご飯茶碗1杯にすれば44円。海外の米価と比べる前に、これが高いと言えるだろうか。
それが20円前後のまま据え置かれてきたのが米騒動前の30年だ。その間、兼業米農家を中心に農家は減り続け、直近の5年では4分の3に激減した。温存などしてもらってはいない。
小さい農家が小さい田んぼを守る意味
兼業農家などが小面積の米づくりを続ける田んぼの多くは中山間地域にある。条件不利地の生産効率が低い田んぼは、効率重視の大規模経営には手が出せないものだ。25年3月までに市町村が「地域計画」をまとめたが、10年後の耕作者が特定できない農地が全国で3割を超えたことが間接的にそれを表わしている。小さい経営は規模拡大の障害どころか、農地を維持するのに欠かせない存在なのだ。
米づくりには大きい経営も小さい経営も必要だ。小さい経営は大きい経営に、機械作業の委託などで助けてもらう場面がある。大きい経営だけでは畦畔の草刈りや水路掃除に手がまわらないことはよくいわれるが、中山間では田んぼそのものを維持することも難しい。
小さい農家が守る小さい田んぼは、乾田化が十分でないため早春にカエルの繁殖場所になるなど、田んぼの生きものを育む場にもなっている。田んぼ1枚の区画が小さい棚田は、消費者がオーナー制などで米づくりを体験するのにちょうどいいという声もある。中山間に人が暮らし米をつくり続けることは、大雨のときに保水して下流の洪水を防ぎ、獣害が町に及ぶのも防ぐ。小さい農家が守る小さい田んぼは、農業の多面的機能に大いに貢献している。
25年センサスの概要によると、大規模経営体の面積シェアが増えたとはいえ、米づくり全体の23.7%を2ha未満の経営が担っている。規模拡大ばかりを優遇し、担い手への農地集積をこれ以上進めることは、小さい経営が守ってきた田んぼのつくり手を減らすだろう。食料自給率の向上を危うくするし、米の国内需要をまかなえない事態さえ招きかねないのではないか。
農家と農村を伝えたくて本をつくった
農文協では1月に『いま知りたい お米と農家の話』という単行本を発行した。「令和の米騒動」で世間の関心がにわかに米に集まるなか、何かせねばもったいない。農業を知らない人に、消費者に、いまこそ届けたい、と思ってつくったお米の本だ(p256も参照)。
ニュースが伝えるのは「米が高いか安いか」の話ばかりで、農家の本当の姿はなかなか報道されない。値段ばかり語られる「モノ」としての米の向こうには、農家がいて農村があるのだと、なんとなくわかってもらえるような本がつくりたいと考えた。
核になっているのは、本誌25年8月号の特集「農家がリアルに考えた 米の適正価格」に登場したような農家のリアルな米づくりの姿。「令和の米騒動とは何だったのか」「なんで米が足りなくなったのか」「日本人にとって米とは何なのか」を知りたい・語りたい人向けに資料編とデータ編も充実させた。農家にとっても消費者にとっても必要な米価の安定のため、農家への直接支払いによる所得補償が有効だという政策提案もある。そこには、需要に応じた生産調整よりも、備蓄や海外援助用の買い上げと放出による出口調整で需給のバランスをとる仕組みが不可欠、と書かれている。
目指すのは、米騒動のさなか居酒屋の米談議で盛り上がっていたサラリーマンが、休日には米づくり体験もするような世の中。そんな農型社会をつくるきっかけにしたい。読者のみなさんにも、友人、知人、親戚など、農家以外の多くの人たちに薦めてもらいたい。
(農文協論説委員会)
