主張
もう限界! 大規模経営への農地集積
目次
◆規模縮小を選んだ大規模農家
◆「20ha以上層5割」の内実
◆大規模経営は、規模拡大余力を失っている
◆必要なのは小規模経営への支援
規模縮小を選んだ大規模農家
米をつくる読者のみなさんは、秋の農繁期を終えてほっと一息ついている頃だろうか。しかし昨年と違って、気分は晴れないかもしれない。JAが農家に支払う概算金(前払い金)は1年前と比べて40〜50%減。商系の集荷業者の場合は、それよりさらに安い金額で買い入れていると聞く。また、米価の下落は予想されたので覚悟していたが、9月の長雨の影響で米の品質も低下してがっかりした、という地域も少なくないだろう。
新潟県村上市の本間裕一さんにとって、今年は節目の年になった。就農以来、年々増やしてきた経営面積を初めて減らしたのだ。
1993年に会社勤めをやめ、実家の米づくりを継いで30年余り。2011年に株式会社として法人化し、昨年の作付面積は85haまで増えていた。だが振り返れば、ちょうど法人化した頃、50haを超えたあたりから栽培管理に手が回らなくなり、収量・品質を落としていたそうだ。
作期分散や密苗・湛水直播栽培の導入による省力化を工夫してきたが、田んぼは自宅から5kmの範囲の9集落に分散していたうえ、1区画の平均面積が13aと小さい。直播の田んぼは適切な水管理や除草剤散布ができず、雑草にのまれて2〜5割もの減収になっていた。そこで、長男に経営のバトンを引き継ぎ始めた今年、近くでこれから経営拡大を図ろうとしていた農家に20ha分の借地を引き受けてもらったのだ。
本間さんは、経営規模の縮小に至った経緯と心境を本誌の増刊『季刊地域』26年秋67号に詳細に書いてくれた。農業経営がスケールメリットを追うのは当然としながらも、「気象条件が大きく影響する農業は、人頼み、天気頼みと頼みどころが多い」と、他産業のようには規模の論理が通用しない難しさを訴える。
それに、米の小売価格が2年前に戻るようなら米農家はやっていけないこと、農家が減る一方でイノシシの獣害が増える現状を赤裸々に語っている。地域の農地を守っていきたいと頑張ってきたが、「担い手だけではどうにもならないというところに来ている」というのである。
「20ha以上層5割」の内実
全国を見渡せば数百ha規模の水田経営が増えている。今年3月に確定値が公表された2025年農林業センサスによれば、100ha以上の大規模農業経営体が耕作する面積の割合は、5年前の11・1%から13・6%へと増えている。
では、規模拡大は順調に進んでいるのか? 本間さんのようなケースは例外なのか? とくに中山間地で農地を守ってきた担い手の中には、規模縮小に踏み切った本間さんの心情が痛いほどよくわかるという人が少なくないのではないだろうか。
25年センサスでは、20年からわずか5年で、個人と団体を合わせた農業経営体の数や農業を主な仕事にする基幹的農業従事者数が25%近く減少したことが話題になった。一方で農水省は、20ha以上の規模の農業経営体が担う経営耕地面積が全体の49・7%と、ほぼ半分を占めるまで拡大したことを控えめに誇っている。兼業農家に代表される小規模農家のリタイアが進み、大規模農家が増えた。そこは狙いどおりということなのだろう。
だが、それに異議を唱える記事が、本間さんの寄稿と同じ『季刊地域』67号に載っている。東京大学の安藤光義教授による分析である。
安藤教授はまず、20ha以上の農業経営が全国の耕地面積の半分を担う実態について、耕地面積の母数が減った影響を指摘する。この20年で約2割も減少しているからだ。全体の面積が減れば、大規模農家が担う面積の割合はそれだけ大きくなる。
それに、20ha以上層への農地集積は、北海道では89%にもなるが、都府県では31%。全体で5割なのは北海道の数値によるところが大きい。
ところがその北海道では20年から25年にかけ、小規模層が放出した農地を引き受けるはずの20ha以上層が経営耕地面積を減らしている。その結果、北海道の耕地面積の減少率はこの5年で6・6%と、都府県並みの数値に近づいている。安藤教授は「日本の『食料生産基地』に赤信号が灯りつつある」と指摘している。
大規模層への農地集積は確かに進んだ。しかしそれは、都府県はもとより北海道でも農地を減らしながらの「縮小再編」だというのである。
安藤教授はさらに分析を進め、「20ha以上層の農地カバー率」という指標を考案した。20haを境に経営規模を二分したうえで、経営耕地面積20ha未満の層が放出した農地を20ha以上の大規模層がどれだけ引き継いでいるかをみたのである。
たとえば都府県では、10年センサス時点の20ha未満層の経営耕地面積は223万6000haだった。05年時点では247万haだったので、5年間に23万4000ha減少している。一方、20ha以上層は同じ5年間に17万7000ha経営耕地面積を増やしている。したがって農地カバー率は17万7000÷23万4000haで約75%。4分の3がカバーされていた。ところが、同様に計算していくと15年以降の3回のセンサスでは3分の1しかカバーされていないことがわかった。つまり残り3分の2は耕作者がいなくなり、それが耕地面積の縮小につながっているのである。
北海道は10年センサスでは92%とほぼカバーされていたが、回を追うごとに数値は低下。25年センサスでは前述のように20ha以上層も耕作面積を減らし、カバーできなくなった。都府県でも北海道でも、大規模経営は小規模経営が放出する農地を引き受けられなくなっているのが実態なのである。『季刊地域』の記事では、この農地カバー率を47都道府県ごとにみた結果も図示しているのでぜひご覧いただきたい。北陸ブロック各県の数字は高いが、西日本を中心に都府県の4割以上がカバー率2割未満となっている。
25年4月に政府・農水省が策定した「食料・農業・農村基本計画」では、担い手への農地集積率の目標を30年までに7割とした。北海道の集積率は目標をすでに上まわっているが、都府県の平均で7割は難しそうだ。それに、いくら集積が進んだとしても、それは農地を減らし地域差を拡大させながらの「縮小再編」。日本の農業の実態は、新潟の本間さんが言うとおり「担い手だけではどうにもならないというところに来ている」のだ。
結論として安藤教授は、大規模層への農地集積を促進するよりも農地の受け手への支援が必要だと述べる。それは、将来の担い手となる若手農家への手厚い支援に加え、農水省が「地域計画」で「農業を担う者」と位置づけた兼業農家や高齢者、半農半Xに対する支援であることも示唆している。
必要なのは小規模経営への支援
今から20年前の07年、農水省は、意欲と能力のある担い手に補助金による支援を集中させる「品目横断的経営安定対策」を打ち出し、経営規模による選別政策を始めた。当時の農家戸数は現在の2倍。小規模農家を中心に強い批判が巻き起こり、同年の参議院選で与党が大敗して対策はわずか1年で見直しとなった。
それから5年後の12年、今度は「人・農地プラン」という地域農業のマスタープランをつくることを求め、「離農奨励金」と批判された「農地集積協力金」で担い手への農地集積を進めようとした。むらは集落営農で対抗したが、小規模農家の離農促進政策はじわじわと浸透していった。
こうして至った現在、農水省の思惑通り経営規模の大きい担い手への農地集積は進んだ。しかし、農地の維持が担い手だけではままならない現状は、農水省より農家に近い自治体の政策担当者には伝わっている。
『季刊地域』67号には、香川県農政水産部が県独自の「多様な農業人材計画認定制度」を解説した記事もある。香川県内の農業の7割を支えるのは兼業農家や定年帰農であるという認識のもと、小規模農家を農業機械の更新や生産技術・経営力向上といったハード・ソフト両面で支援する制度だ。認定者は今年7月時点で326人。当初目標の3倍近いスピードで増えているという。他にも、小規模農家の機械購入費用などを支援する自治体が各地で増えている。
では、政府・農水省に小規模農家支援の動きはないのだろうか。元農水省官房長の荒川隆さん(一般財団法人・食品産業センター理事長)は、27年に予定される水田政策の見直しに関連して、5ha未満の小規模経営に対する直接支払いを提案している(農政ジャーナリストの会、9月30日講演)。5ha以上層は、水稲作付面積の59%を担っているが、経営体数でみると9%でしかない。この層には「産業政策」を活用してコストを下げ、自律的に営農を継続してもらう一方で、5ha未満層にはコストと実際の米価の差を埋める直接支払いを実施する。この20年で大幅に減ったとはいえ、いまだ9割を占めるのが中小規模の家族経営だ。その多くが担う中山間地の営農なくして農業・農村は成り立たないと語っている。農水省の現役官僚のみなさんには、先輩からの政策提案にぜひ耳を傾けてほしい。
◆
ところで『季刊地域』67号の特集は「地図で見える化 やる気になる!」だ。農地保全や獣害対策、防災など、厄介な課題に向き合うとき、地図は共有・継承のツールとして住民の気持ちを一つにしてくれる、というのがテーマ。
この特集には、高齢農家が耕作できなくなった農地を引き継ぐために地図を役立てている話が出てくる。大規模農家の事例もあるが非農家も活躍している。リタイアする高齢農家の棚田を未来へ引き継ごうと米づくりを始めた市民グループも登場する。田植えの前には代かきが必要なことも知らないところから始まった彼らが、いまや田んぼを守るために水路地図までつくってしまう行動力。一緒に米づくりをする一員として、田んぼのことがもう他人事ではなくなっている。
こうした市民の力も借りて、大きい経営も小さい経営も一緒に農地を守る。農水省にもそろそろ大規模化信仰を改めてもらいたい。
(農文協論説委員会)


