(1998年6月号 No.551記事より)
1.物づくりの楽しさを
2.ロボコンの特徴
3.個性が生きる
4.総合学習としてのロボット製作
5.4年間のロボコンの歴史
6.生徒を支援するための参考模型
7.ロボットの材料と工具
8.生徒も教師も熱中
*ロボコンリンク集;農文協電子編集部編
年々、家庭で物を作った経験のない生徒が増えている。したがって、作業をするための道具も知らないし、作業の中で工夫することも知らない。釘やねじの種類と用途も知らない等々。授業でファミコンを持っている者を尋ねると全員が持っていた。ファミコンで育った子どもたちが中学校に入ってきたのである。
しかし、これは中学校だけの問題ではない。工業高校や大学の工学部でさえ、コンピューター中心の学習になっていると聞く。また、教師にも物作りができない人が増えているという。工業立国として生きてきた日本が音をたてて崩壊している。
このような現状のなかで、技術科教師は生徒に物作りの楽しさを知ってもらい、物作りが好きでたまらないという生徒を育てなければならない。
生徒の個性に満ちた発想を生かして、目的をもった動きをし、操縦どおりに動く機械を作らせ、その機械でゲームをすれば生徒は熱中するのではないかと考え、機械領域で4年間アイデアロボットコンテスト(以下ロボコンと略す)を行なってきたので報告する。
ロボコン(ロボットコンテスト)は独創性、機構、加工法、材料の性質、組立、協力を学習させるのに最適である。
また、様々な動力伝達のしくみやメカニズム、機械材料の中から最適なものを選択するという場面も必然的に多くなるため、生徒の考察の場面が多くなりグループでの話し合いを避けて通れない。そこでは、討論が要求されるし、多くの情報を収集しておかなければならない。ゲームに勝つためには、グループの英知を結集しなければならない。また、設計どおりには動かず、点検し、改良を加えなければならないから、試行錯誤の連続である。
素材から動くものを作った経験のない生徒がほとんどという現在、生徒にとってもロボット作りは新鮮であろう。
個性を生かす授業として、教師による画一的な題材の押しつけではなく、生徒一人ひとりの適性を生かすことができる題材で進めるほうがよいであろう。ロボコンは生徒の興味・関心が高く、選択の機会も多い。さらに、課題を解決する方法を追究しなければならないという点を内包している。
また、班の中で役割を分担することにより、自分に合った役を担い、班に協力することができる。
以上の観点から、ロボコンは個性を生かす授業に最適であると考える。本校のロボコンではロボットの完成まで、生徒は次のような選択の機会がある。
(1)アイデアの選択 (2)材料の選択 (3)動力伝達機構の選択 (4)メカニズムの選択 |
(5)シャーシのデザインの選択 (6)ギアボックスのギア比の選択 (7)加工法の選択 (8)役割の選択 |
私は、木工、金工、電気で習得した技術を実践的・総合的に発揮させるために、ロボットを素材から製作させた。
材料は、木材(アガチス材、合板)、金属(アルミ板、亜鉛メッキ鋼板)、アクリル板、ゴムバンドなどの材料から選択した。
生徒はシャーシとして、アガチス材を選んだり、シナ合板を選んだり、アルミ板や亜鉛鋼板を選び、メカニズムにはアガチス材やアルミ板を使用した。
接合は、木材には釘、木ねじ、タッピングビスから選び、金属には、ビス・ナット・リベット・ハンドリベット・はんだづけ・接着材から最適なものを選択して行なった。
また、モーターを正逆転させるための電気回路など電気の知識と技術も活用しなければならない。まさに、ロボット製作は総合学習である。
(1)第1回 ピンポンバトル(1994年)
(2)第2回 ハイゴール(1995年)
(3)第3回 Selfish Green Keeper(1996年)
(4)第4回 みかん狩り−Out on a limb(1997年)
(注1)
生徒はロボット作りは初めてである。機構についても知識は皆無に等しい。教科書には基本的な機構の図はあるが、実用的ではない。そこで、市販の模型を私が製作して用意した。また、ラダーチェーンとホイールの使い方がわかったり、異なった軸径をマッチングさせるためのジョイントがわかる模型を製作し、用意した。
- (a)アルミニウム板
- t1.0、t0.8、t0.5
- (b)亜鉛メッキ鋼板
- t0.3、t0.5
- (c)板材(アガチス)
- 幅200 t12
- (d)合板
- t2.7 t5.4 t12
- (e)アクリル板
- t2.0
- (f)紙筒(布の紙芯)
- t3.0 直径50〜80 各種
- (g)ゴムバンド
- 幅15mm 3t
- (h)ビス・ナット
- M3×5 M3×10 M3×20
- (i)粘着テープ
- ガム・テープ 両面テープ
- (j)接着剤
- ゴム系ボンド 瞬間接着剤
- (k)黄銅丸棒
- 直径3 直径4 直径6 直径10
- (l)段ボール
- (a)ギア・セット
- タミヤ(注2) ハイパワーギア・セット
タミヤ ウォームギア・セット
タミヤ 3速ギア・セット
タミヤ 4速ギア・セット- (b)6Pはねかえり・スイッチ
- (c)ラダーチェーン
(d)ラダーホイール- 歯数11
- (e)ラックとピニオン
- (f)単1マンガン乾電池
- 4個
- (g)単1用電池ボックス
- 2個
- (h)ビス
- M3×8 M3×10 M3×15 M3×20 M3×40 M3×50
- (i)タッピング・ビス
- 3×6 3×10 3×15
- (j)木ねじ
- 各種
- その他
- 各種ばね、厚紙、ビニル・コード
- 金工の工具が主なものであるが、作業の能率を上げるため、次の機械や工具も用意した。
- (a)帯のこ盤 _(b)ハンドニブラ _(c)ナット回し
(d)ワイヤクリッパ _(e)6角レンチ _(f)ハンドリベッタ
ロボコンの費用として約10万円を組んだ。これは技術科の年間予算の3分の1である。1班あたり、5000〜6000円になる。
ギアセットやはねかえりスイッチに予算の多くを使う。木材は木工の授業の、アルミなどの金属は金工の授業の残った材料を使用した。
ロボコンは本校では大変に盛り上がる。ロボコン後の感想文を読むと、毎年共通に書かれているのは、「協力の大切さがわかった」「苦しかったが最高に楽しかった」「これまでで最高の思い出になる」「自分が変わった」ということ。
生徒がこれほど熱中する(最初から全員熱中するわけではなく、切羽つまったり、だんだん楽しくなってきたり)授業を私は経験したことがなかった。それほど、ロボコンはいい。ロボコンは生徒を成長させるだけでなく教師も成長させるものだと4回目にしてわかった。
これほどすばらしい題材をぜひ全国でも取り組んで欲しいと願う。全国ではすでに300〜400校が取り組んでいるそうだ。(注)
技術科でロボコンに取り組み、マスコミを通じて社会に技術科を訴える。私のライフワークになりそうだ(実践報告の続編も準備中)。
(広島・呉市立広中央中学校)
(了)