現代農業2000年11月増刊
『日本的グリーンツーリズムのすすめ』 
 農のある余暇

【編集後記から】

 夏は毎年、宮崎の山中にある実家に帰省する。高所も閉所もだめで、仕事でどうしても仕方がない場合以外は飛行機を利用しない私は、博多まで新幹線で行き、それから高速バスに乗り換える。そのバスは九州縦貫道を熊本まで南下して高速を降り、そこから九州を横断するノンストップの便。10年以上前にこの便ができて、毎年のように利用しているのだが、熊本から農村部に入ってからの車窓の風景は、さながら定点観測のようで、飽きることがない。「肥後の石工」の手になる苔むした石橋のように毎年変わらない風景もあるが、合鴨の小屋のある田んぼや、ブルーベリーを売る直売所が年々増えているのを見ると、自分の仕事と風景の間につながりを感じるようで、何だか嬉しくなってくる。 帰省を終えて東京にまた戻るのにも、いつもはこのノンストップ便で博多まで出るのだが、この夏は所用があって、違うルートのバスで熊本に出ることにした。阿蘇の外輪山の中を通 るそのルートは観光ルートでもあり、10数年前まではドライブ・インばかりが立ち並んでいたのに、今回は「蔓工房・野木瓜(あけび)」の看板のあるギャラリー、庭先に大きな石窯のある天然酵母パンの店(この増刊のあちこちにも石窯が登場)、「家巣か農家」(イエスかノーか!)という威勢のいい名前の直売所、「世界のクワガタ、カブトムシ展」を開催中の養蜂園……「元気のいい農家の店」ばかりが次々に視界に飛び込んで来てあまりにも嬉しくなり、普通 の路線バスなのに、ついバックからカメラを取り出してシャッターを押し始めた。

 10年前、「現代農業」増刊「手づくりリゾートふるさとづくり」を発行したころは、大規模リゾート開発花盛りのころだった。今はあとかたもなく消えてしまった開発構想ばかりだが、その根底には「都市の経済的繁栄をいかに地方・農村に還流させるか」という発想があったような気がする。今はむしろ「地方・農村の元気をいかに都市に還流させるか」という時代ではないだろうか。帰省中訪れた農家の直売所、その名も「孫とばあちゃんの店」で、私もたくさんの元気とヒントをもらって帰ってきた

(現代農業増刊号編集部 甲斐)


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