現代農業1998年11月増刊
田園就職 これからは田舎の仕事がおもしろい

【編集後記から】


 新聞やテレビで当たり前の言葉のように使われるようになった「定年帰農」は農文協の造語だが、 「帰農」という言葉の歴史を調べようと、インターネットで検索していたら、札幌の古本屋さんの ホームページで『帰農時代』という本があることを知った。柴田義勝著、昭和21年6月、瑞穂社刊とある。電子メールで注文したら、2日後には書籍小包で届いた。札幌からというより、昭和 21年から時空を飛び超えて送られてきたような気がした。著者柴田氏は、新聞記者の職を捨て 、昭和十年代に愛知県大高町文久山に帰農した人のようである。敗戦直後、新憲法も、農地改革も 実現していないころの本。バブル敗戦後の現代とかさねて読むと味わい深い、その言葉を引用したい。

 「商工日本の発展は、その後、満州事変を、支那事変を、更に今次戦争を経験せざるを得なかった。 そして、敗戦の結果、それが終りを遂げたのである。我が国は農業国として再出発する以外に別の方 途はないことになった。新日本の国是は『農業立国』でなければならぬ」「大正の末期から昭和のは じめにかけての思想的大混乱期において、日本をして動揺なからしめたのものは、実に、我が国農村 の重厚性であった。今度の敗戦に直面しても、何等の不安動揺を起させていないのも、我が国農村の 不動性のお蔭である。農村の厚み、とその奥行とは大きな力である。帰農者は、その農村の厚みと、 奥行とに学ぶところがなければならぬ」「帰農といふことは、職業の転換であると同時に、思想の転 換でなければならぬ。思想の転換が行はれ、従って生活の転換を行ふ決意が出来て、はじめて帰農と いふことが出来るのである」

 画一的大量生産・生活・労働の時代は終った。帰農三部作「定年帰農」は個性的自己実現生産の、 「田園住宅」は個性的自己実現生活の、「田園就職」は個性的自己実現労働の書としてお読みいた だけたらと思う。仕事で稼いだお金で余暇に自己実現するのでなく、生産・生活・労働そのもので 自己実現する時代の始まりである。職業の転換、思想の転換、生活の転換である。

(現代農業増刊号編集部 甲斐)

 


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