現代農業1999年2月増刊
『帰農時代』
 むらの元気で「不況」を超える〈生き方革命〉

【編集後記から】


 日本が空前の「大不況」に直面した1998年、ノーベル経済学賞を、インド出身の英ケンブリッジ大学アマルティア・セン教授が受賞した。彼の経済学の特徴は、「経済成長」を至上命題とする従来の経済学を批判し、国民総生産(GNP)だけでは測れない人間の暮らしとしての豊かさを「人間開発指標」として表したものである。その受賞の意義については、新聞でもさまざまな解説記事が掲載されたが、いずれも途上国開発という視点のみでの解説で、彼の言う人間開発を、「先進国」日本や、それが直面している「大不況」との関連でとらえたものはなかった。
 しかし、川勝平太早稲田大学教授(当時)は、1991年、早くもセンの経済学について次のように述べていた。
「イギリスが工業社会の生成、発展、爛熟のいずれの段階においてもどの国よりも先んじたという事実はイギリスの栄光であり悲劇である。工業社会の衰退も一番最初に訪れている感があるからである。しかし各段階の節目にあって、イギリス社会の中から、必ずしもイギリス人ばかりによってではないが、時代を先取りする経済学が生み出されてきた」
「イギリスの実力を経済成長率の鈍化で測ったり、まして「英国病」の一言で片づけるのは危うい。まさにそうした評価の基準なり仕方なリこそが、センによってすでに徹底的に批判されているのである」(『日本文明と近代西洋』NHKブックス)
 そのイギリスでは、すさまじいばかりの八〇年代行政改革に対して「市民サービスの低下に市民が失望すると思いきや、これぞ自己改革のチャンスととばかり、ボランティア活動を中心に俄然元気を出し始めた」(本誌184頁)。田園復興にせよ高齢者福祉にせよ「カネの力」ではなく「人間の力」がはっきり把握され始めたのである。これこそ「先進国」の「人間開発」ではないか。
 今、日本では「将来の景気回復による税収増」を見越して数十兆円規模の景気刺激策が繰り返されているが、本誌登場の方々のような「人間開発」にこそ目を向けるべき時ではないか。

(現代農業増刊号編集部 甲斐)

 


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