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バケツイネ選手権2017

バケツイネ選手権過去最高の1万9799粒で3連覇
イネの気持ちを考えて育てています

山形・佐藤優子

優子ちゃんの登熟期のコシヒカリ

優子ちゃんの登熟期のコシヒカリ

春からは農林大学校で果樹を専攻します!

佐藤優子ちゃん(17歳)。家は果樹と稲作の農家

1粒の種モミを何粒に増やせるかを競うバケツイネ選手権。

山形の高校3年生、佐藤優子ちゃんが過去最高記録で3連覇した!

 農業が大好きな「JK(女子高生)農業ガール」佐藤優子です。今は家の農作業を手伝いながら、いつか父や祖父を超える農家になりたいと、日々頑張っています。

 選手権へは第1回(2012年)から参加しました。でも、私は内心「農業の中で一番面倒で手間がかかるのは稲作。きっと難しいし大変だ」と思っていました。

 最初、1万粒なんてずっと上のレベルでした。でも、栽培の面白さや難しさを知るうちに、「絶対優勝するぞ」と、試行錯誤するようになりました。

人もイネも一緒

 私は、バケツイネの栽培で「イネにとって最高の土を与えること」「たまにはいいおかず(肥料)を与えること」「毎日イネが過ごしやすい環境づくり」の三つを心掛けています。

 人は、自分に合った環境をつくろうと頑張ります。ベッドや枕、そして洋服。自分に合わないベッドだと次の日体が痛くなるし、洋服だってサイズが合わなかったら着ません。ご飯も毎日同じものばかりではなく、外で少し豪華なものも食べます。暑かったらエアコンや扇風機をつけて涼しくし、寒ければ暖房をつけて暖かくします。

 作物は、水分を飲みたくても雨が降らなければ十分に吸収できません。肥料がなければ、生育がよくなかったりします。「イネの気持ちを考えて育てること」。人間とイネはほぼ一緒です。

●栽培記録

品種:コシヒカリ

播種:4月19日 田植え:5月29日

出穂:8月19日 収穫:10月9日

基礎の土:田んぼの土と豚糞+牛糞完熟堆肥

追肥:上根が張ったらMリンPK1握り。以後、開花まで約1カ月ごと1握り

実った茎数:190本

モミ数:1万9799粒

ブチョー

ブチョー(選手権審判)
イラスト:小川剛

イネのおかずはMリンPK

 まず、丈夫で元気な苗を育てるために、温度管理にしっかりと取り組んでいます。平均温度は毎年違うので、その年の状況を見極めて育てます。

 田植えは、根張りを向上させるために浅植えです。土台が安定していないと途中で根腐れしたり、病気にかかりやすいイネになったりします。

 基礎の土は、堆肥を半分、田んぼの土をもう半分としています。田んぼの土と堆肥は肥料としても考えています。そして、私の栽培に欠かせないのがMリンPKです。様子を見て、葉が垂れてきたり、葉の色があまりよくなかったら与えます。

 その他にも、バケツ内の温度管理や風通しをよくするために、台車を使ってバケツを移動したりしています。

試行錯誤した分だけいいものができる

 バケツイネを続けてきて、父や祖父に相談することはたくさんありました。でも結局、毎回言われる言葉は、「自身で試行錯誤した分だけいいものができる。自分で頑張りなさい」。

 バケツイネを始めた当初から数年は思い通りにはいきませんでした。でも今は、自分の知恵や思いを存分に発揮できていて、とても嬉しいです。

 バケツイネをするきっかけをくれた選手権、そして祖父と父にはとても感謝しています。私にとってバケツイネは毎年毎年が思い出で、宝物です。

(山形県天童市)

1粒を1万9000粒以上に
優子ちゃんの栽培記録

5葉のしっかりした苗に

最初に播種したモミを全部スズメに食べられた。「もう無理かも……」と思ったが、播種し直したら、低温でガッチリ苗に。前年より5日長い、約40日苗。「田んぼで使う3〜4葉だと根が弱いので、5葉くらいのほうがバケツに向くと思った」

育苗にはモミガラくん炭を利用

育苗にはモミガラくん炭を利用。防鳥ネットをくぐってスズメが侵入した

浅〜く田植え

20リットルバケツに浅植え。土と肥料は少なめに入れる。元肥はなしで豚糞+牛糞の完熟堆肥のみ。田植え後、根が表面に張りめぐらされたら、田んぼの土を3握り「追肥として」土寄せ。同時にMリンPKを1握り与えた。

田植え直後

田植え直後。「親指の第1関節くらいの深さ」で浅植え

毎日2回の水やり

水が切れたら大変!なので毎日朝夕2回かん水。イネが欲しいときに給水できるように、中干しもなし。以前中干しのタイミングを間違え、イネがばててしまったことがあるそうだ。収穫2週間前に落水。

前回は水やりしすぎで蚊が大量発生

前回は水やりしすぎで蚊が大量発生。今回はなぜか発生が少なく、「お父さんに怒られずに済んだ」

MリンPKで光合成能力アップ

リン酸が豊富なMリンPKを活着後の1回目からイネの開花まで、約1カ月ごとに1握り分与える。1週間で垂れていた葉がピーンと立つ。開花前、最後の1回をちゃんと振って、モミ数を増やすことが大事。

MリンPKが効いたイネ

MリンPKが効いたイネ。出穂後も葉がピーンと直立を保ち、受光態勢がいい

光を求めて台車で移動

田植え後2カ月は動かさず活着を促すが、7月初めに日当たりのいい畑脇へと台車で移動。活発に光合成させた。開花後、風が吹き抜ける沿道に移動。「花を揺らして受粉させるイメージ」で、日中と夜の温度差も利用。登熟期には、再び日のあたる場所に置き、実の詰まりを高めた。

台車でイネを運ぶ

台車でイネを運ぶ。「田んぼのイネは環境を変えられないけど、バケツなら選べます」(写真は2016年のもの)

キューコン

キューコン(雑用係)

おじいちゃんも試行錯誤

おじいちゃんの正一さんもバケツイネに挑戦。「面倒だ」とイネの移動をしなかったら根腐れが発生した。しかし、そこはベテラン。中干しで根に酸素を与え、MリンPK追肥を施して対処。見事持ち直した。

「田舎の本屋さん」のおすすめ本

現代農業 2018年3月号
この記事の掲載号
現代農業 2018年3月号

特集:耕耘新時代 ロータリ&スピード作業機
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バケツで実践 超豪快イネつくり 1粒のタネが1万粒に! バケツで実践 超豪快イネつくり 1粒のタネが1万粒に!』薄井勝利 監修 農文協 編

1粒の種モミを、何粒に増やせるか? 生育時期ごとの肥料のやり方、葉っぱの姿でメタボイネと健康イネの診断など、イナ作名人が、小学生にもわかるイネのとらえ方や施肥法を解説する。バケツイネ栽培の決定版。 [本を詳しく見る]

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