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巻頭特集

レタスが倍の大きさ、スイカが糖度13に

鉄ミネラル液なら手軽に野菜が変わってしまう

兵庫・由良 大

 飲食関係の企業で、野菜をはじめとした食材を購入する側の仕事を18年ほどしていましたが、7年前に農地所有適格法人「(株)Teams」の代表に誘われて入社。現在は数十種類の野菜を露地で約4ha、ビニールハウス16棟で栽培し、地元の豊岡市内や京阪神の飲食店、小売店や代理店に出荷する他、ネットでの販売もしています。

 実家は農家なので個人所有する農地もあり、趣味も兼ねてですが、さまざまな希少野菜や西洋野菜を試験栽培し、採種までしています。

レタスに散布、明らかな手応えがあった

『現代農業』2019年10月号でも紹介された「鉄ミネラル液」(お茶のタンニンで釘などの鉄を溶かし出した液)を活用し始めたのは2年前。知人の紹介で、京都大学の野中鉄也先生(48ページ)と出会ったことが始まりでした。

 野菜の栽培でチッソ・リン酸・カリの他に微量要素の果たす役割が大切だということは以前から意識しており、ホウ素や木酢液の散布などを試していました。鉄について強く意識したことはありませんでしたが、野中先生による鉄ミネラル液のお話は大変具体的で興味深い内容だったため、さっそく試してみることにしました。

 一番初めは、自分の畑で育てる結球レタスで試してみました。生育過程で一部のウネだけ葉面散布したところ、未使用のウネのレタスと比較して倍以上の大きさになりました。葉も肉厚ですが、軟らかくて食味もよくなりました。

鉄ミネラル液を散布したレタス(右)と散布していないレタス。品種は同じ「グレートレーク」で、栽培管理も鉄ミネラル液以外は同じ。どちらも外葉を2枚ほどむいた状態

 明らかな手応えがあったために面白くなり、次は会社で育てる葉ネギ(赤ネギ)の定植後に、ウネ間へとジョウロで散布してみました。しかし、こちらは散布したウネ間だけ雑草が異常に生育してしまい、野中先生にも「株元に散布すればよかった」と、ご意見をいただきました。その後、収穫前に葉面散布してみたところ、散布しないものよりもコクがあり、まろやかな食味のネギになりました。

2018年、赤ネギのウネ間に鉄ミネラル液を散布したところ、雑草が旺盛に生えてきてしまった。鉄は植物全般の生育をよくするので、注意が必要

 道の駅に出荷するスイカでは、先生の助言どおり収穫の1週間前に噴霧器で葉面散布しました。平均糖度が12度前後の中、2018年に鉄ミネラル液を散布したスイカの糖度は12・7度と出荷者中でダントツ。嬉しいことに購入していただいたお客様からの評価も高く、「あの時の甘いスイカはないのか」と、再購入の問い合わせが入るほどでした(2019年の糖度は13・4度)。

筆者の鉄ミネラルの作り方

材料は緑茶パック3つと長めの釘10本ほど

鉄ミネラル液は20lのポリタンクで作製。仕込んで5日もすれば黒色の液に変化する。常時5つのタンクで液を作り、ストックしている

完成した鉄ミネラル液

ネギ畑で鉄ミネラル液を散布する筆者(46歳)。ジョウロや噴霧器で散布する。20lポリタンク1個で1〜2aに散布できる

オクラの生育がみるみる回復

 2019年は、ハウスで促成栽培するオクラに使用。施肥体系の同じハウスが2棟あるのですが、そのうちの1棟が初期に害虫にやられて生育が大きく遅れてしまったため、その1棟だけ株元に原液を一度、散布しました。初めはあまり変化がなかったのですが、散布後半月を過ぎた頃から、鉄ミネラル液を散布した棟のオクラの樹勢が明らかに増してきて、ひと月もするともう1棟の生育を追い越しました。

 品種は兵庫県豊岡市の在来種「八代やしろオクラ」です。一般的なオクラの3倍もある大型のオクラで、通常は10本に1本ほど、筋張って食べられない莢が発生します。しかし、鉄ミネラル液を散布した棟ではそれがほとんどなく、もう1棟と比べて廃棄がとても少なくすみました。また、さまざまな要因で発生する莢のイボもほとんどなく、見た目のいいものを出荷できました。

上はイボが出てしまった八代オクラ。鉄ミネラルを散布したオクラ(下)ではほとんどイボの発生はなかった

土中の鉄を植物が使える形に

 野中先生には何度か畑までお越しいただき、鉄ミネラル液の働きについてお話をうかがいました。

 私が野菜を栽培している圃場の半分以上が、神鍋火山の火山灰土壌、いわゆる黒ボク土で、もともと鉄をはじめとしたミネラル分が多く含まれると考えられます。しかし、それらの多くは野菜が吸収できない酸化鉄の状態だそうです。一方、鉄ミネラル液中の鉄は、お茶のタンニンとくっついた状態で水に溶け、植物が吸収しやすくなっています。吸収された鉄は葉緑素の材料となり、光合成を活発化させ、その結果、野菜の養分が増して食味も増す……なるほど、わかりやすい。

 そんなお話を聞きながら、その場で鉄ミネラル液を散布したネギを抜いて生で食べると、控えめな辛みとそれに増す旨みが実感できました。

他の野菜と差別化できる

 これまでも栽培方法にはこだわりを持っていましたが、鉄ミネラル液の活用は手軽で取り組みやすく、栽培方法の一つとして取り入れれば、さらに作物栽培の可能性が広がると思います。

 たとえば、安全安心が当たり前になった現在、食材の「機能性」に注目が集まってきています。健康志向や健康意識の高い消費者の方、そして現在お取り引きしているお客様に「鉄ミネラル野菜」を提案すれば、他の野菜と差別化できると考えています。

自慢のネギをガブリとかじる。鉄ミネラル液が効いた野菜は生で食べてもイヤな辛みがない

 鉄ミネラル液を使用した野菜が持つのは、新たに作り出された旨みではなく、健全な野菜が本来持つ食味や食感が出てきたものだと解釈しています。おいしいと感じることで幸福感を得られる、体にも心にも優しい野菜。そうした、自然で本物の野菜に近づくのだと思います。

 現在は、売り出し中の新品種のネギに株元散布し、変化を確認しているところです。また、赤ネギやカラフルニンジンなど、発色のよさが必要とされる野菜も栽培していますので、それらの栽培にも試していきたいと考えています。

(兵庫県豊岡市)

(株)Teamsで育てる赤ネギ(一番左)などのカラフル野菜。鉄ミネラル液で発色がよくなるか検討したい

「田舎の本屋さん」のおすすめ本

現代農業 2020年1月号
この記事の掲載号
現代農業 2020年1月号

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もう、預かった田んぼを間違えない!ための圃場管理術/高設ベッドでラクラク栽培のコツ/カンキツの大胆チェンソーせん定/ワンランクアップのシイタケづくり/酸っぱくならない ペットボトル甘酒/農家ユーチューバーになる ほか。 [本を詳しく見る]

現代農業 2019年10月号

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