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新連載 蜜量倍増のミツバチの飼い方

育児には最適な間隔、ビースペースが必要

干場英弘

 ミツバチの自然巣は育児圏と貯蜜圏が分かれていて、育児圏では貯蜜圏よりも巣板すばん同士の間隔が狭い。人工の巣箱でも巣枠間や巣板間を調整することで、ハチミツの質や量をアップできる。その考え方ややり方を、玉川大学農学部元教授の干場英弘さんに紹介していただきます。(編集部)

枠全体が蜂児で満たされた「額面蜂児」

高校教師をしながら養蜂

 僕が養蜂(セイヨウミツバチ)を始めたのは今から52年前、20歳の頃である。養蜂家として当時のエリートの存在であった、むさし蜂園(東京)の鈴木社長とそこで働いていた養蜂家から基礎を教わった。

 社長は「女王バチが産み付けた卵は3日で孵化して幼虫になり、その後成長して3週間で成虫になる。若い成虫はすぐに飛び出さずに、もう3週間巣箱内で働き、結局卵から6週間経ってから、外勤バチとして外に出て花蜜を集め始める。このことを頭に入れて養蜂することが大切なポイントだよ」と、ノートに鉛筆で、生まれてくるハチの数を計算しながら説明してくださった。

 大学を卒業し都内の私立高等学校で理科の教諭として勤務していたときは校舎の屋上でミツバチを飼育し、ハチの染色体の研究を行なった。大学の先輩であり僕にとって大きな存在であった野々垣養蜂園(愛知)の野々垣禎造さんに相談しながらの飼育であった。

                        巣箱

三角ゴマを付けたままでいいのか?

 養蜂で大事なことは、「ハチの密度をいかに高めてやるか」ということ。そのために重要なのが、ミツバチが作り上げる巣板同士の間隔だ。

 現在日本で流通しているほとんどの巣枠には三角ゴマ(12mmのスペーサー)という固定器具が取り付けられている。いつの頃からか、またどこで始まったものなのか、どなたに聞いても「わからない」と返事が来る。ともかく、すべての巣枠にこの三角ゴマを付けたまま飼育することで、巣板間隔が12mmになるように調整して飼育するのが、日本では一般的になった。

貯蜜圏と育児圏で巣板間隔が違う

 僕はこのことに違和感を覚えていた。ハチは自然巣の中で、蜜を貯める領域と育児をする領域を分ける。そしてそれぞれ最適な巣板の間隔は異なる。

               自然巣の構成

上部と両サイドに蜜が貯まり、中央部から下方にかけて育児圏になっている

 人工巣でも、三角ゴマを付けたままの巣板間隔は、貯蜜圏としては適正だ。しかし育児圏としては空きすぎる。よって、ハチが巣板の間をロウで塞ぎ、巣板同士がくっついてしまい、内検の時に巣を取り出しにくくなる。また育児圏の巣枠の上部にも蜜が貯まりやすくなり、その分、産卵領域が狭くなってしまう。

 そこで僕は、育児圏については、三角ゴマを外して、本来の8〜9mmの巣板間隔(ビースペースの範疇)に調節しながら飼育を続けてきた。

 巣板間隔に注目した飼育法は、欧米で構築されてきた技術である。わが国も、セイヨウミツバチによる養蜂が導入された明治時代から昭和の中頃までは育児圏を8〜9mmの巣板間隔で飼育していた。それがいつの間にか12mmになった。理由はそれなりに考えられる。

 養蜂家は南から北まで、長い日本列島を蜜源植物の開花に合わせて移動する。その移動の際に、巣板間隔を12mmに開けて通風がよくなるようにとの工夫からであった。輸送中に巣箱内でハチが暴れ回ると巣箱内の熱が上がり、ロウでできた巣が溶けてしまう。ハチも死ぬ蒸殺というその現象が起こるのを防ぐために、12mmの三角ゴマをスペーサーとして使ったのだ。それがいつの間にか、普段使いとなった。ヨーロッパを中心に築かれ、アメリカで花咲いたセイヨウミツバチの飼育の基本が、重要視されなくなった。

 この連載では、「セイヨウは西洋に学べ」(セイヨウミツバチの飼育は西洋で構築された技術に学ぶべき)との思いを込めて、ミツバチの生態を学びつつ蓄積されてきた養蜂の基礎技術を、「ビースペース」を中心に解説する。ハチ群を育児専用の巣枠(育児圏)と貯蜜専用の巣枠(貯蜜圏)に分けて飼育するための基本でもあり、採蜜量やハチミツの質も向上することが期待できる。

ミツバチの間隔の感覚 「ビースペース」の発見

 まずは自然状況下での巣の構造に目を向けてみたい。ミツバチの仲間は、現在9種が知られているが、彼らの巣を観察すると、いずれの巣も貯蜜領域は上部に、育児領域は下部になっている。この営巣スタイルは人工的に作製した巣箱の中でも変わることなく、巣の上部と両端が貯蜜圏、中央部が育児圏で、その境(中間)領域に花粉を貯蔵する。

 ヨーロッパで構築されてきたこれらの調査を元に、アメリカのラングストロースが1852年に開発した養蜂巣箱が、現在世界中で多く使われているラングストロース式(ラ式)で、彼は「現代養蜂の父」といわれている。

 そのラングストロースが、ハチが活動する空間として用いる「ビースペース」を発見した。プロポリスやロウで固定されることのない間隔である。

                    ミツバチが通路と見なす隙間

ビースペースとは、通路として用いる間隔であり、同時に育児圏にもあてはまる間隔である

ハチの1mmは人の35cm

 彼はこのスペース、つまりミツバチがプロポリスやハチロウで塞がず、通路として用いる1/4〜3/8インチ(6・4〜9・5mm)の間隔をもとに、1852年に特許を申請した。そして、内検が可能な養蜂巣箱を利用する現在のスタイルを完成させた。

 彼は多くの文献を読み、スイスのユーベル(1789年)のリーフ巣箱で飼育したり、イギリスのビーバン(1827年)や、マン(1834年)の巣箱を参考にしてこの間隔を決定した。

 イバート(2009年)なども参考にビースペースの概念をまとめると、「巣箱内において6・4〜9・5mmの間隔。ハチが空間として用い、巣箱の中で働くのに十分なスペースのこと。これより広いと巣を作って埋め、狭いとプロポリスで埋める」となる。

 ビースペースと、巣板間隔を同じとして説明している書物もあるが、巣板間隔はビースペースと必ずしも同義ではない。

 いずれにせよハチはわずか1mmの差を感知する。単純に大きさだけでは比較できないが、ハチにとっての1mmは、人では35cm程度になるという。「1mmくらいたいしたことはない」と考えて飼育することは避けるべきである。

 次号からは飼育の実際について説明していく。

(玉川大学農学部元教授)

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養蜂で大事なのは、巣枠間を「育児圏」と「貯蜜圏」それぞれに適した間隔に調整してハチ密度を上げ、巣枠が蜂児で満たされる状態「額面蜂児」をつくること。こうすることで健康的な、集蜜力の高い蜂群になる。さらに巣箱は、下段を「育児圏」、その上に隔王板(女王蜂を通さない網)を挟んで上段を「貯蜜圏」とし、ハチの生活圏をキッチリ分けることで、ハチミツの質・量ともに飛躍的に向上する。額面蜂児を目指したハチの密度管理や巣枠間の距離など、養蜂の基礎が、ハチの習性・生態とセットでよくわかる。 [本を詳しく見る]

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