収穫包丁にも形や重さの違うものがさまざまある。どんな刃物を選べばいいか、その答えは一つじゃない(田中康弘撮影)
収穫、調製、せん定……農作業は
刃物なしではこなせない。
自分にも作物にもぴったりの1 本が見つかれば、
作業が変わる。気分もあがる。
収穫をラクに
刃物大好き一家の推し包丁
埼玉県北本市・内田泰宏さん
ブロッコリーの枝(葉柄)を切る内田さん。畑20ha以上、従業員10人ほどで、年間100種類もの野菜をつくる。産直の開拓が評価され、2020年に埼玉農業大賞を受賞(写真はすべて田中康弘撮影)
収穫包丁は身体の一部
「刃物には、興味がなかったんですよ」
じつをいうと、内田泰宏さん(55歳)は若かりし頃、キャベツとレタスの市場出荷に専念していたので、収穫包丁も1種類で間に合わせていた。それが、今から28年ほど前、自ら販路を探し、量販店などと直接つながるようになると、栽培品目が徐々に増加。刃物にも、さまざまなタイプがあることを知り、野菜ごとに使い分けるようになったという。
「やっぱり、包丁ひとつでぜんぜん違うんですよ、作業効率が。それから、疲労も。包丁がその野菜に適していないと、余計な力がいるんで、手首が痛くなったり、肩が凝ったりします。精神的にも疲れますしね」
なにせ、現在の内田さんの経営は「少量多品目栽培」ならぬ「多品目大量生産」。ピーク時はキャベツやレタス、ハクサイ、ブロッコリーなどを1日に1000個も2000個も収穫するので、スピード感が必要なのだ。できれば、身体への負担も軽くしたい。
そういう意味でも、刃物選びは大事。今や、内田さんにとって、収穫包丁は「最も身近な農具」だが、たんに切れ味だけを求めているわけではない。野菜との相性はもちろん、いかに自分の手に馴染むかも重視している。
「慣れてくると、包丁が身体の一部になるんです。手のひらか指先で野菜を収穫しているような感覚ですかね」
内田さんが最も気に入っている収穫包丁。ステンレス製で軽い。レタスをはじめ、さまざまな野菜で使う
家族で切り方が違う
10種類以上の刃物をずらりと広げ、内田さんに「キャベツは軸がかたいから、厚みのある包丁」「レタスは切るのに力がいらないから、軽い包丁」といった具合に解説してもらっていると、通りかかった奥さんの
「この四角い包丁ですね。ほら、鉄を何回も打っているから、刃がなみなみになっているじゃない。本当にもう、すっごい切れるんです。ブロッコリーやカリフラワーの調製作業のとき、力いらずで、枝(葉柄)をきれいに落とせます。でも、なにかの拍子に、刃がちょこっとぶつかっただけでも切れちゃうから、危なくて、人には貸せません。この包丁は確か、おじいちゃんが旅先で買ったんじゃないかな。刃物が好きでね、よく北陸とかの産地からもお取り寄せしているみたいですよ」
「俺はそれ、使わないなあ。あんまり切れ味が鋭いのは、好きじゃないんだよね。あと、重たいから振り回せない。もっと軽いほうがいいな。俺はブロッコリーの枝を落とすとき、スピードがはえーじゃん。パンパンパンッて」
「収穫や調製のやり方は人それぞれで、収穫包丁にも好みがあるからね。わたしはブロッコリーを逆さまに持ち、ちょんちょんちょんって枝を落としていくけど、おばあちゃんはまた違う。ブロッコリーを上向きにして、出刃包丁を使うもんね」
この記事には続きがあります。本誌34〜43ページをぜひご覧ください!
取材時に撮影した動画がルーラル電子図書館でご覧になれます。
https://lib.ruralnet.or.jp/video/
この記事の掲載号
『現代農業 2021年9月号』
特集:キレッキレ 農家の刃物 選ぶ・研ぐ |
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『DVDブック 農の仕事は刃が命』農文協 編
田畑や山で用いる刃物の使い方と手入れの仕方を動画付きで解説。疲れの少ない収穫包丁、立ったまま使える鎌、肘の痛くならないせん定バサミ、軽く切れるノコギリ、作業効率のいい草刈り機等々、現場で使いやすいさまざまな刃物や農具を集めてカタログ的に紹介する。切れ味をよくする鋼の性質、使い道に合わせて種類もいろいろある砥石の選び方など、刃物をめぐる奥深い世界についても案内する。 [本を詳しく見る] |