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「21世紀の日本と農業・農村を考えるための行動」
呼びかけ人会議メッセージ


1 はじめに

 人類は今、21世紀を迎えて、いろいろな面で転換点にあります。人類の生存を支える基盤である資源、環境、食料といった問題が地球的規模で危惧される中で、成長一辺倒の経済社会のあり方が問い直され、個人の価値観やライフスタイルまでもが変貌しつつあります。また、経済や人間生活のグローバル化が急速に進む中で、各々の地域や社会の文化や伝統のあり方も問われています。そして、その中で農業と農村の行く末も案じられています。
 私達日本人は、この大きな転換点に直面して、また21世紀の日本のあり方を考えていく中で、農業と農村の役割、そして都市と農村とのかかわりをどのように捉えていくべきなのか、自然科学や経済の視点ばかりではなく、歴史・文明論的な視点や日本人の精神構造・文化の視点まで掘り下げて国民全体で問い直していくことが必要ではないでしょうか。また、そのような取組を通じて、国際社会の中でわれわれ日本人が、21世紀の文明や個人の倫理観・価値観のあり方について先駆的な問いかけをしていくことが重要ではないでしょうか。
 21世紀を見据えて、農業・農村に何を求め、そのために国民が何に取り組み、どのような役割を担うべきなのか等について、国民総参加の議論を展開するため、私達は、「21世紀の日本と農業・農村を考えるための行動」を呼びかけます。

 

2 21世紀の農業・農村を考える論点(問題提起に代えて)

 私達は、21世紀の農業・農村を考えるに当たって、少なくとも次のような論点があるのではないかと考えており、議論の素材として提示します。もちろん、異論もあるでしょうし、これら以外の論点もあると思います。今後、この行動に参加される方々から、自由な立場で、21世紀の農業・農村のあり方、そしてそれらと都市・一般国民とのかかわりについて問題提起をいただき、意見を述べていただきたいと考えており、関係者と協力し、このような議論の場をできるだけ多く設けていきます。
 

(1)食生活とのかかわり(健康で安心な食生活のために、どうあるべきか)

 現在の食は、簡便化、個食化、外部化が急速に進展し、また、今後も、所得の向上、女性の家事からの解放や社会進出、さらに調理そのものへの価値観の変化から、その流れはとどまりそうもありません。
 また、次第に家庭食のウエイトが低下すること、風土に根付いた食文化が廃れていくことが、私達の健康や寿命、生活力に及ぼす影響についての不安感が強まっています。さらに、国内産農産物が益々減少し、輸入農産物が益々増加していくことにも、不安感が広がっています。
 このような中にあって、多少割高であっても国内産農産物を安定供給してほしい、健康的で安心できる食生活を営みたいという期待は高まっているものの、このような期待と農産物の国内生産や食品産業とのミスマッチは益々拡大しています。
 21世紀に向けて、健康的で安心かつ意義ある食生活を維持・向上させていこうとするとき、農業・農村が積極的な役割を担っていけるよう、私達は、食生活と農業・農村とのかかわりをどのように考えていくべきなのでしょうか。

 

(2)地域社会とのかかわり(ゆとりある地域社会の再構築のために、どうあるべきか)

 21世紀に向けて、都市化や産業の移動が一層進むと同時に地域の過疎化が進行していく中で、人間が生きていく基本的な場として地域社会をどのように再構築していくのか、またそのために限られた国土をどのように保全・利用していくのかが大きな課題になっています。一方、国民の価値観が物質的な豊かさから精神的な豊かさへとシフトしている中で、人間疎外や社会問題をもたらしやすい過密な都市の無制限な拡大を回避し、健全な精神生活を育み、隣人同士のコミュニケーションを重視するような地域社会が、我が国の国土構造の中の不可欠な空間として、重要度を増しています。
 このような中で、自然豊かでゆとりある生活空間を提供し、多様で特色ある文化・社会や歴史・伝統を育んできた農業・農村については、過疎化や地域活力の低下が強く懸念されると同時に、今後も地域社会のアイデンティティーを形づくる重要な要素として期待されています。
 21世紀に向けて地域社会が変貌していこうとするとき、農業・農村が積極的な役割を担っていけるよう、私達は、地域社会において農業・農村をいかに位置づけていくべきなのでしょうか。

 

(3)環境とのかかわり(豊かな自然と国土の環境保全のために、どうあるべきか)

 21世紀に向けて、私達は、環境の視点から自らの生活を見直すとともに、周囲の活動に対しても一層厳しい条件を課すようになっています。
 このような中で、一方的な都市化への反省から、農業・農村は、身近な自然豊かな環境として、環境と人間とのかかわり方を学ぶ場として、国土の維持・保全や災害防止などの公益的な機能を担うものとして、さらに過密な国土構造の中で物質循環系を形成する鍵となるものとして、期待を集めるようになり、またそれに積極的に対応していくことが求められています。
 一方、農業・農村が環境に及ぼす負の影響や食品を通じた健康への影響についても厳しい目が向けられるようになり、その対応を怠れば国内農産物への期待も危ういものになりかねません。
 農業・農村が、環境負荷を極力減らし、有機物等のリサイクルを通じ本来の物質循環を回復しながら、国民のニーズに合致した環境を保全・共有し、さらに国民が納得できる食材を提供していけるよう、私達は、環境と農業・農村のかかわりをどのように考えていくべきなのでしょうか。

 

(4)ライフスタイルとのかかわり(創造的で、心豊かなライフスタイルのために、どうあるべきか)

 21世紀に向けて、私達の生き方は経済成長一辺倒から個々人の求める多様な価値観を重んじるようになっています。また、持続的成長の原動力となるような独創性のある企業活動や若い人が意欲と充実感を持てるような生活・就業環境の創出も強く求められています。
 こうしたなかで、大量生産に適した過密な都市社会は必ずしも産業活動の最適地ではなくなり、国民自身のライフスタイルについても、例えば庭で土いじりができる住まいや、身近な自然に親しめる環境、よりゆとりのある、精神的にも豊かな生活空間が求められるようになります。そして、モータリゼーションや情報化の進展が一層都市と地方の垣根を低くし、地方が新たな価値を持つようになり、産業活動や人間生活のグローバリゼーションが一層このことを促進するようになります。
 21世紀に向けて、より多様で創造的なライフスタイルが重視されていくとき、農業・農村が積極的な役割を担っていけるよう、私達は、ライフスタイルと農業・農村とのかかわりをどのように考えていくべきなのでしょうか。

(5)高齢社会とのかかわり(成熟世代の生き甲斐、自己実現の場として、どうあるべきか)

 人生80年から100年にも迫る時代を迎えている今日、我々の社会システムは必ずしもそれに相応しいものとなっておらず、また、第二の人生を支える年金制度、社会福祉制度等も今大きく揺らいでいます。
 一方、このような「成熟世代」に入っていく当事者自身も、静かな老後といった固定的・画一的なライフスタイルから抜け出し、第二の人生の生き甲斐を追求しようという動きも強まっています。
 このような中にあって、農業・農村は、自然豊かな環境と相俟って、「成熟世代」の健康的で心豊かな活動や生活の場として大きな役割が期待されます。これは、単に定年後の就労の場としてだけでなく、農外者にとっても関心の高い自分自身の健康の維持・創造を通じた新たな自己実現の場として、大きく位置づけられるのではないでしょうか。
 21世紀の農業・農村が、成熟世代にとって自己実現の場として積極的な役割を担っていけるよう、私達は、成熟世代と農業・農村とのかかわりをどのように考えていくべきなのでしょうか。

(6)人づくりとのかかわり(21世紀を担う人づくりの場として、どうあるべきか)

 現在、一連の公教育の改革の中で、多様な価値観や「生きる力」を育み、自主自立の精神が旺盛な人材を育成する21世紀の教育への大転換が叫ばれています。それは、画一的な教育によってライフプランを持てない大量の青少年が生み出され、多くの社会問題を発生させていることへの反省でもあり、また、公教育への過度の依存を是正し、家庭や地域も含め多様な学習の場を生涯にわたって創出していこうとするものでもあります。
 このような中にあって、農業・農村は、元来、「生きる力」を育み、自主自立の精神を育み、忍耐力ある人材を輩出する場であることから、そこで自然と人間とのかかわり方や生きていく技(わざ)を学ぶこと等の意義を再評価し、農業・農村を多様な人づくりの場として大きく位置づけることができるのではないでしょうか。
 21世紀を担う人材の教育や生活者自らの学習の場を考えていくとき、農業・農村が積極的な役割を担っていけるよう、私達は、人づくりと農業・農村とのかかわりをどのように考えていくべきなのでしょうか。

 

3 行動の内容

(1)多様な行動の展開

 私達は、21世紀の日本と農業・農村のあり方を考えるため、例えば、次のような多様な行動が各地で活発に展開されることを期待します。

1. シンポジウム、勉強会、研究会等の開催

2. 関連団体等が行うシンポジウム等への参加、協力

3. 新聞、雑誌、テレビ等による特集

4. インターネット等の媒体を用いた情報・意見交換

 

(2) 呼びかけ人の行動

私達は、「呼びかけ人」として、行動が各地へ拡大し、相互に連携し、また内容が深まっていくことを支援するため、次のような取組を行っていきます。

1. シンポジウム等の議論の場づくり

2. 賛同いただいた団体等が企画する行動への協力

3. 各地の行動への参加呼びかけや結果の紹介

4. 機関誌の発行・頒布やインターネットの活用による広報、情報交換・意見交換の場の提供

5. 呼びかけ人会議としての提言の取りまとめ

 

(3)行動に際しての留意点

 各地で21世紀の我が国の農業・農村のあるべき姿とその果たす役割について議論を進めるに当たっては、次のような点を踏まえることが重要であると考えられます。

ア.今後の農業・農村の問題が、単に特定部門の問題ではなく、日本全体の問題、あるいは日本人のあり方そのものにかかわる問題であり、したがって、あらゆる分野・階層の人々による国民総参加の議論が不可欠であること、

イ.自然科学や経済の視点ばかりではなく、稲作を中心として2000年以上にわたり持続的に営まれてきた日本の農業・農村の意義・意味等の歴史・文明論的視点、あるいは日本人の精神構造や文化の視点まで掘り下げた根元的な考察から始めていくこと、

ウ.このような中から、我が国の農業・農村のあるべき姿とその果たす役割について、21世紀に相応しい価値観を創出していくこと、

エ.さらに、21世紀に向けた社会経済構造の変化を踏まえ、我が国の農業・農村に求められる多面的な役割について、客観的、科学的なデータに基づいて適切な評価がなされ、その維持・発展に向けて国民的コンセンサスを形成していくこと。
 


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