季刊「食育活動」

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食育活動
No.3 2006

9

学童期の食育−5つの視点と3つの手法――地域に根ざした食育の最前線から――

 

■巻頭言 栄養教諭への高まる期待女子栄養大学学長・医学博士 香川芳子
特 集 「学童期の食育−5つの視点と3つの手法 地域に根ざした食育の最前線から」 
■子どもたちへの食育をどのようにすすめていくのか――学校・家庭・地域の連携による食育の推進
文部科学省スポーツ・青少年局 学校健康教育課健康教育企画室長宮内健二
■視点@ 栄養教諭と農家の連携
 農家から学んだ! 栄養教諭・学校栄養職員による教材開発と学校への提案
 京都市教育委員会 体育健康教育室・京都市総合教育センター指導主事 伴 季子
■視点A 「出前型」食育活動
 支援がもっとも必要な"若い母親"への「出前型」食育活動が大当たり
甲州市市民生活部健康増進課 新井孝子
■視点B 学校での6年間の全体計画
 食育は、さまざまの応援団員との連携があってこそ充実する
埼玉県・伊奈町立小室小学校校長 渡辺俊行
■視点C 生活リズムと学力
 早寝・早起き・朝ごはんで子どもの「学力」が伸びる 
 立命館大学 大学教育開発支援センター教授 陰山英男
■視点D リアルな生活体験学習
 「食」による総合的な学習――学校内での「ままごと」でなく、社会に開かれた「本物」の学習を 上智大学総合人間科学部教授 奈須正裕
【食育の情報コーナー】
 郷土料理で「食事バランスガイド」を地域型に――地域版「食事バランスガイド」のすすめ
 農林水産省消費・安全局 消費者情報官補佐 勝野美江
連 載
■実践から学ぶここが決め手! 食育最前線の取組みから
 ◆学校栄養士との協同でつくった「至高の朝食」の授業実践 
 徳島県阿波市立市場小学校教諭 藤本勇二
 ◆教育改革の根底に「食の改革」を!――長野県真田町・完全米飯給食の取組み 
 長野県上田市教育委員会教育委員長 大塚 貢
■食育の仕掛け人!
 「弁当の日」で子どもがかわる家族が、地域がかわる――6県16校まで広がった「弁当の日」
香川県高松市立国分寺中学校校長 竹下和男
■シリーズ:世界の食から
 近代化がもたらしたモンゴルの崩れゆく食の原像
 酪農学園大学酪農学部食品科学科助教授 石井智美
■食育の使えるツール箱
 動物のウンチ標本からヒトの食性にせまる
近畿農政局 消費・安全部消費生活課食育推進係長 山田忠男
■地域に根ざした食文化ルネサンス
 次代に伝えたい故郷に残る食の心と知恵と技――「岩手に残したい食材30選」の取組み
前岩手食文化研究会代表 及川桂子

巻頭言 学童期の『食育』をリードする栄養教諭への高まる期待

◆女子栄養大学学長・医学博士 香川 芳子

女子栄養大学学長・医学博士 香川 芳子 いよいよ栄養教諭の本格的採用、活動が始まる。「食」は体をつくり、支える日々の欠かせない営みであるが、それだけに好きに食べられればあまり顧みられず習慣的に続いていくことが多い。しかし、食は人の心身に大きな影響を与えることは言うまでもない。良い食習慣は健全な心身をつくるのに極めて重要である。

 日本人は戦後の食糧難の時にその重大性に気づかされ、せめて子どもには健康を保てるようにと学校給食制度をつくり上げた。それが児童・生徒の健康に果たしてきた役割は極めて大きい。世界に誇れる内容である。普及率でみれば児童のほぼ九九%、中学生徒の約七〇%が完全給食を享受しており、内容も栄養摂取基準が定められ、実施には栄養士が配置され、栄養的にも衛生的にも配慮が行き届いている。

 学校給食法で支えられていることは世界的に見ても他に類をみないもので、日本の誇るべき教育システムである。料理も、学校給食開始当初の栄養補給第一から、今では選択献立、伝統食その他、多くの工夫をした美味しい食事が増えている。

 他方、わが国の食糧状況は大きく変わり、動物性食品の増加、精製・加工された食品の増加、豊富な食糧のなかで、栄養状態はエネルギーの不足から過剰へと変わった。肥満児の増加、成人のメタボリック・シンドロームの多発、生活習慣病のための医療費増加などが新たな問題として国民の生活を圧迫し始めている。

 家庭での食事も、核家族化、住宅事情の変化や、塾通いなどのための個食化、女性の社会進出に伴う家庭料理の衰退などによる家族団欒の食事形態の減少など、過去とは大きく変化した。外食、既製食品の増加など、食の外部化が進んでいる。その結果、食習慣が変り、家庭での伝承は少なくなって子どもたちの食事も、その栄養的な内容も大きく様変わりしてきた。

 食習慣は一般に幼児期に身につき、成人後に変える事がなかなか困難であることは、最近増加している糖尿病や高血圧、肥満などのための食事療法が成功しにくいことからも分る。

例えば、食べられる食品のレパートリーも幼時の食生活に影響を受けることが多い。しかし、最近は上記のような食環境の影響で、種々の食品についての知識の乏しい子どもが多い。学校給食はそれを広げ、食の体験の幅を広げるのに効果があるが、それだけでは必ずしも十分ではない。

 戦後の日本で、例えば一四歳男児の身長が一八p以上の伸長をみたのは明らかに学校給食の牛乳の影響であり、日本食に不足していた栄養素の補給の効果である。牛乳が学校給食に出されたので、受身で飲用摂取したのであり、必ずしもその栄養的な効果を理解していたのではない。従って、残念ながら学校給食がなくなれば自発的には飲用しなくなる子どもが多い。

 このように、日常口にしない食物の場合には、受身で終らせるのではなく、その食物を摂取する意味を理解することが必要である。

 すぐれた学校給食を提供しても、その健康に対する意義、身近な食材の生産過程や歴史などの学習なくしては、単にいろいろ食べることで健康になったという意味しかなくなる。

 その点の学習が従来の学校給食では不足であった。学校給食を提供している栄養士は栄養を指導することが本務であるにも関わらず、従来、学校においては職員であり、教諭でなかったため、十分に食に関する指導・教育を行なう立場にはなかった。

 しかし、今、日本人の健康は主として食生活の誤りによる生活習慣病で蝕まれ、医療費は一人二五万円に達し、年収の八・七%にまで達している。これを減らすことは米国、スウェーデンなどの栄養政策による一次予防の成功から見ても不可能ではない。そのもっとも有効な手段は食習慣の改善にあることは明らかである。 

 『食育』の中心課題は全国民が良い食習慣を身に付けて生活習慣病を予防し、医療費を抑えて健康で幸せな国にすることである。『食育』の基本は生活習慣病の一次予防であって、そのための「健康日本21」、「健康増進法」、「食育基本法」である。『食育』は教育の基本であり、読み、書き、算盤より前に全国民が健康に生きるために身につけなければならない。従って義務教育で身につけさせなければならない。実物教育として学校給食は理想的であるが、単に食べさせているだけでは不十分である。

 そのなかでこの『食育』を進めるのは学校給食を担ってきた栄養士である。そのために教諭としての力を備えた栄養教諭制度が創設された。

 学校給食を教材に、教員の協力を得て学校内の食育の態勢を整え、カリキュラムや、子どもの発達段階を踏まえた食育プログラムのコーディネーターとして、食材の調達や伝統的な良い食習慣を児童・生徒に紹介するために地元とも協力し、また、養護教諭、校医、家庭とも連携をとりつつ、各児童・生徒の栄養指導(アレルギーや肥満など)も進める食のコーディネーターとして栄養教諭が活躍することが待望される。