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食育活動
No.5 2007

いま〈働き盛りの世代〉の食育を問う――脱・メタボリックシンドロームはここから!

 
  ■巻頭言 食と農の距離を縮める食育を…………………………………………4
東京農業大学客員教授 中村靖彦
特集 いま〈働き盛りの世代〉の食育を問う
 ――脱・メタボリックシンドロームはここから!
◆インタビュー:「りんご型肥満」の方は要注意!!
話題の「メタボリックシンドローム」――その考え方と改善策……………………8 
 独立行政法人国立健康・栄養研究所 研究企画評価主幹 吉池信男
【カコミ】気がつけばメタボリックシンドロームという中年が増えている…14
 ――働く世代の健康づくりを考える 
 三菱重工(株)横浜製作所 産業医 北原佳代
◆「食事バランスガイド」を活用した食生活改善
 ――健康づくりのための食環境整備のすすめ…………………………………16    
 厚生労働省健康局 生活習慣病対策室 栄養調査係長   溝口 景子
 栄養・食育専門官 清野 富久江
◆いま地域の食文化を伝える社員食堂が面白い
 ――「食事バランスガイド」キャーンペーンで企画が大当たり…………………24           
編集部
◆生活習慣病の気になるおやじにもGoodな料理教室
 ――働く世代の新しいライフスタイルを目指す「おやじの休日の会」…………30
 「おやじの休日の会」代表 岡本靖史
【カコミ】突撃!男のヘルシー料理教室体験レポート
 料理って面白い!自信もついた――ここからはじめよう食生活改善…………34
編集部
◆「潜在農力」を呼びさませ!週末の農業体験農園で心身ともにすがすがしい
 ――中年男性はなぜ畑に向かうのか……37
  NPO法人「畑の教室」代表・白石農園 白石好孝
「地域に根ざした食育コンクール2006」表彰事例ダイジェスト……………………41
< 連  載 >
■実践から学ぶここが決め手!食育最前線の取組み            
 「魚」をテーマに食育!
 学校・家庭・地域が盛り上がる「ぎょしょく教育」プログラムの授業実践………60
 愛媛大学農学部海域社会科学研究室教授 若林良和 
■食育の仕掛け人!                            
 人をつくりふるさとを育てる「霧島・食の文化祭」
 ――ありのままの食こそが地域の宝……………………………………………68
 NPO法人霧島食育研究会代表・管理栄養士 千葉しのぶ      
■シリーズ:世界の食D――ロシア                            
 自給の暮らしを支える家庭菜園『ダーチャ』で個性豊かな週末術………………76
 ライター・翻訳家 豊田菜穂子
■食育の使えるツール箱  
 「鬼下ろし」――ふるさとの味を引き出す調理器具を教材に使ってみよう………82
 元栃木県食生活専門技術員 高橋久美子    
■地域に根ざした食文化ルネサンス                      
 岐阜の発酵食品の魅力――第六二回研究会を終えて…………………………84
 岐阜女子大学家政学部教授 小川宣子/岐阜女子大学家政学部講師 岩田彩見 
■食育の情報コーナー 
 最新レポート!「みちのく」東北の食育推進の現段階……………………………88
 東北農政局消費・安全部消費生活課長 大友 浩幸

巻頭言 食と農の距離を縮める食育を

◆東京農業大学客員教授 中村 靖彦

東京農業大学客員教授 中村靖彦若者の野菜離れが心配されている。一日に野菜三五〇グラム、果物一〇〇グラム、いも類二〇〇グラムの必要量を食べるのはなかなか難しい。ところがある若い男性が、そんなことちっとも大変ではないと言う。
  「あるメーカーが売っている、これだけで三五〇グラムの野菜というペットボトルを一本、それに果汁一〇〇%のジュース一缶を飲みます。いも類ですか?これはポテトチップスでとりますね」 

  確かに、量的には必要量を満たしているかもしれない。何も気をつかわないよりはいいとは思うが、しかしこれで本当に十分なのか。栄養士はそうは言わないだろう。ここには繊維がない。人間の食事にはなくてはならない"噛む"という行為がない。さらに私が感じるのは、このような加工食材には土が見えないことである。畑に育つ野菜や果物には自然の色があり香りがある。缶詰めのジュースには飲み易く工夫された味はあるが自然ではない。表示された野菜の名前を見て、その原型を思い浮かべることができる若者がどのくらいいるか、心もとない。
  食材の名前を知らない人が増えている。

  このように食と農の距離が離れたことが、ここ何年かの間に起きた食の安全・安心を脅かした事件の背景にあると私は思う。食べる側は、食料の生産現場をほとんど知らない。農業も食品産業のラインを見たこともない人ばかりである。こうなると、食を供給する側は、多少のごまかしをしてもバレることはない、と思ってしまう。モラルの上で良くないことだが、例えば表示をごまかすことによって、過大な利益を得る可能性があったりすると、つい誘惑に負けてしまう。そして実際に食べる側は、表示のごまかしなどについて気がつくことが少なかった。安全・安心の点からも、食と農の距離はなるべく縮める必要があるのである。
  そしてこれは食育の大切な役割だと私は考える。

  平成十八年三月にまとめられた食育推進基本計画には、五年後を目指した数値目標が九つ掲げられている。
  その中の一つに、学校給食で地場産物を使う役割が平成十六年度に、食材ベースで二一%になっているのを二二年度に三〇%に増やそうとの目標がある。これはこれで結構な数値目標だが、私はさらに学校給食の場で、農水産物についての正しい知識を伝えてほしいと思う。学校給食は、栄養や仲間意識を高める上でとても重要だが、私がちょっと気にしているのは、不自然な平等主義と安全志向である。

  学校給食では、みかんを一個ずつつけるのに、大きさが同じでなければならないという。供給する側は揃えるのに苦労する。しかし、自然を相手にして作る農産物は、大きさや色が少しずつ違うのが当たり前である。これが農業だということを教えるのが食育ではないか、と私は思う。
  現在、学校給食では野菜はナマのままで出されることはない。必ず調理しなければならないが、ごくたまに小さな死んだ虫がついていたりすることがある。保護者からの苦情が寄せられることは間違いないが、これも扱い方によっては食育の材料となる。保護者の方々は、いつも安全で農薬も減らして生産した作物を求める。それなら、安全な作物をほしがるのは虫も同じだ、ということを子どもたちに伝えるべきではないか。もちろん、小さな虫でも調理の際には取り除くのが望ましいが、仮に一匹くらいが混じっていたとしても、極端に忌まわしい事件ではない。自然界ではごく当たり前だということを伝えてほしいと思う。

  私が代表理事を務める「NPO法人・良い食材を考える会」では、各地の地域食材に注目した。
  農林水産省統計部と各県の担当者のご協力をいただいて、「日本の地域食材」という資料集をこれまで四回出版した。最新の二〇〇六年版には、全国で一千件以上の農水産物が収められている。

  地域食材に食べる側が関心をもち、名前や素性、そして調理の仕方までも知識を得ようとすれば、作る側には大きな張り合いとなる。担い手の高齢化で消えかかっている農産物なども、周りの人たちの励ましで復活するきっかけになるかもしれない。こうなれば、集落の活性化にもつながる。こんな願いで私たちの会は活動を続けてきた。
  もちろん食育活動は幅が広い。いま、様々な分野で人々がこの活動に取り組みはじめている。栄養士や企業、農業関係者、市町村などの自治体の担当者などがそれぞれの立場でふさわしい研究や活動をおこなっている。私はその研究なり活動の成果を発表する場を作りたいと思った。現在は個々の組織のなかで取り組んでいる研究内容などを公の場で紹介してほしいと思ったのである。

  日本食育学会はこのような経緯で発足した。何人かのご賛同を得て、去年の十一月一七日、設立のシンポジウムを開催した。当日、会場である東京農業大学百周年記念講堂には、一二〇〇人の定員を上回るたくさんの人々が参加した。食育で一体どんな活動をすればいいのか悩んでいる人の多さが、大勢の参加者になったのかもしれない。
  当日のキャッチコピーは「食育がつなぐ、作る人食べる人」であった。
     
  日本食育学会のお問い合わせと入会申し込みは、東京農業大学栄養科学科内 事務局 
     (電話・FAX 〇三―三四二五―三九四五)