季刊「食育活動」

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食育活動
No.6 2007

6

地域の食卓を創る〈高齢者〉の食育力−食文化を継承する6つの実践から

 
  ■巻頭言 いのちの源となる「食」と「農」の次世代への引継ぎを……………………………………4
全国生活研究グループ連絡協議会長 佐々木善子
地域の食卓を創る〈高齢者〉の食育力
 ――食文化を継承する6つの実践から
【T】食文化の継承で高齢者が食育をリードする
◆経験豊かな女性高齢者は食育の〈無形文化財〉
 ――おばあさんを教師とした食文化の伝承を……………………8 
 民俗研究家 結城登美雄
◆「ルーラルガイド」で生活文化伝承のネットワークづくり……………18
 ――農村の高齢者は伝統文化と郷土食の語り部
 元山口県農村女性むらおこし推進室長 藤井チエ子
【カコミ】突撃!「自分のため、家族のための料理教室」体験レポート
 ――みんなが熱中!「食」で三世代が結びつく……………………26
 編集部
【U】高齢者のパワーを食育に活かす6つの実践
◆平均年齢七五歳の生産者が元気だから!孫に愛される学校給食………………30
 前雲南市木次学校給食センター長 陶山文江
◆祖父母世代や地域の力を借りて「孫と一緒にクッキング」……………………34
 高槻市保健センター 管理栄養士 寺原美穂子
◆子どもたちの「食」体験を広げる「おばあちゃん先生」が大活躍!…………38
 いなぎ栄養士クラブ 松山清美
◆定時制高校生と地域の高齢者を結ぶ「食べ事」の時間…………………………42
 熊本県立湧心館高校 立山ちづ子
◆直売所を核に!ベテラン農家の奮闘で地域の食育が動き出した………………46
 さんのへ農産加工友の会会長 工藤哲子
◆農家レストラン「ひまわり亭」は地域の食育の発信拠点………………………50
 熊本県人吉市・郷土の家庭料理「ひまわり亭」代表 本田節
【トピック】
得意分野の「相乗り」で互いにメリットのある連携の仕組みがみえてきた……54
 三神農業改良普及センター経営担当主幹 藤崎弥生
< 連  載 >
■実践から学ぶここが決め手!食育最前線の取組みから
 「めざせ食べもの博士」地域の生協が食による子育て支援
 ――「七つの力」を育てる子ども限定の食育講座……………58
 コープやまなし食育推進チーム担当常任理事 原田芳江 
■食育の仕掛け人
 大豆が完熟しない!亜寒帯気候の「みそ作り」に挑む
 ――「手作りみそ」の〈生きた力〉を次代に伝えたい…………………64
 自然の味をとりもどそう会代表 小林良雄
■シリーズ:世界の食からE――極北カナダ
 北の大地に生きる先住民族イヌイットの食の変容…………………………………70
 国立民族学博物館教授 岸上伸啓
■食育の使えるツール箱
 「羽釜」――感動をよぶ五感で体験する飯炊き…………………………………76
 埼玉県さいたま市ファームインさぎ山代表 萩原さとみ
■地域に根ざした食文化ルネサンス
 ローカル色豊かな高知の多彩なすし文化
 ――すしは買ってくるのではなく、つくって後世に伝えたい…………………80
 土佐伝統食研究会代表 松崎淳子
■食育の情報コーナー
 最新レポート!「米どころ」北陸の食育推進の現段階…………………………84
 北陸農政局消費・安全部消費生活課長 長洋行

巻頭言 いのちの源となる「食」と「農」の次世代への引継ぎを

◆全国生活研究グループ連絡協議会会長 佐々木善子

全国生活研究グループ連絡協議会会長 佐々木善子 私たち、全国生活研究グループ連絡協議会は、農山漁村における望ましい生産と生活の研究、知識・技術などの情報交換を行なう自主グループの全国組織として、長年にわたって活動を続けてきました。
生活研究グループの設立から四〇年。その活動内容は、台所のかまどの改善から始まり、環境美化、家計簿の記帳、自家生産物五〇万円運動、転作問題など、生活改善から地域づくりまで多岐に及んでいます。

  戦後の高度経済成長を経て、私たちの食生活は米と魚を中心とした「日本型」から、パンと肉を中心とした「欧米型」へと大きく変化しています。海外では、日本の主食である米が注目されているにもかかわらず、国内での米の消費量は年々減っているのが現状です。
  そして大量の輸入食料による飽食の時代、食べ物は生産とは無関係に、お金をもって買えばよいものとなるにいたって、「食」と「農」の問題はますますクローズアップされてきているといえます。
  「豊かな緑と水に恵まれた自然の下で先人からはぐくまれてきた、地域の多様性と豊かな味覚や文化の香りあふれる日本の『食』が失われる危機にある」と食育基本法の前文には謳われていますが、地域の食文化の喪失と、各種の健康問題の増加、生産者と消費者の乖離の問題は一体のものといえます。
  さらに基本法の冒頭で、食育は「生きる上での基本であって、知育、徳育、体育の基礎となるべきもの」とされているように、子どもたちの教育は、どのような生活文化と地域社会を形成していくのかということと裏腹の関係にあります。
生活研究グループでは、二〇〇〇年から地元の保育園児、小中高生を対象とした「食農教育」を実施し、食を通した地域の子育てに取り組んできました。
  農業体験や伝統食の料理教室など、子どもたちとの温かい交流を通して、私たちは、命の源といえる「食」と「農」の大切さを次世代に伝えています。
  こうした活動は、三月の総会で報告され「食農教育の実践活動事例集」としてまとめられています。二〇〇六年度は、宮城県美里町の「伝えたい・育てたい精進料理で地域の食文化の伝承」(小牛田地域精進料理の会)の実践や、大分県豊後高田市の「小学校で地産地消『白ネギ料理勉強会』」(ススキ会)の実践などが報告されました。
  このように生活研究グループには、長年の経験で培ってきた「食」の知恵と技を生かして、小中学校や地域住民と連携した「食育・食農教育」を実践している方々がたくさんいます。
  岩手県の生活研究グループは、四〇年以上に及ぶグループ活動で培ってきた郷土料理とアイデア料理のレシピ集『子や孫に伝えたい食の技 岩手ふるさとの味』を出版しました。
  この本には、会員らが次世代に伝えたいとする約一八〇種類の料理が紹介されており、昔から地域に伝わる「米・雑穀レシピ」や「海産物レシピ」、会員のアイデアによる「お菓子レシピ」などの調理法がわかりやすいイラストで解説されています。
  そこには、朝ごはんを食べない若者の増加や食の欧米化がすすむなかで、生まれ育った故郷の味を大切にしてほしいという母や祖母の願いが込められています。
  岩手だけでなく、私たちのグループは、各県でそれぞれの「食」に関しての本を出版しています。

  私が暮らす岩手県一関市(旧花泉町)は、県南に位置し、米どころとして藩政時代から独自の餅文化を育んできた地域です。
  昔、餅というのは、お客さんが来たときにつくる「ハレの日」のご馳走でした。今でこそ、お米を食べる人が少なくなってきていますが、かつては大変貴重なもので、そこから郷土食が生まれてきたわけです。今でも冠婚葬祭などの行事の際には、地域で餅をつく風習が残っています。
  そこで私は、地域の食文化を次世代に残していこうと、餅つき歌や踊りを披露しながら餅をつく「出前餅つき隊」を一九九三年に結成し、今年で一四年になります。
  出前餅というのは、臼・杵・餅を持って会場に出向くわけですが、県内の小中学校、高校で餅つき体験や餅食文化の授業をしたり、阪神大震災の被害者への餅の提供、さらには、パリやホノルルで出前餅つきをして好評を博しています。
  また、築二〇〇年の旧家でゆっくりくつろいでもらいたいと、家屋を開放して農家レストラン「夢みる老止の館」を二〇〇〇年から経営しています。老止を「おとめ」と読ませるのは、花泉の伝統食である餅料理と山菜料理を食べながら夢を語り、老いを止めて元気になってもらいたいという願いが込めてあります。
  「夢みる老止の館」では、ゴボウと鶏肉の「ふすべ餅」、沼の干しエビをからませた「エビ餅」、「ジュウネン(エゴマ)餅」、「つぶあずき餅」の四種類が並ぶ一の膳と、季節の山菜が並ぶ二の膳からなります。
  「農」を絶やさないように土地を守り、田や畑を耕やし、いのちの源となる「食」を広めていこうと昔から活用されている山野草も取り入れ「山菜膳」と「餅膳」で郷土食を守り続けていきます。
食育をすすめるなかで、地域の食文化を次世代に引き継ぐ活動をしていきましょう。