季刊「食育活動」

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食育活動
No.7 2007

9

食で学ぶ〈いのち〉の絆――「いただきます」の深い意味を考える――

 
  ■巻頭言 地域に根ざした食育の時代がきた……4
和洋女子大学副学長併教授 坂本元子

◆食べ物さんありがとう!
「生ごみリサイクル元気野菜づくり」は食育の根幹
 長崎県・大地といのちの会代表 吉田俊道……8
◆野菜は生きている
――いのちのサイクルを伝える農業体験を子どもたちに
 埼玉県・ファームインさぎ山主宰 萩原さとみ……18
◆園庭を掘り起こすと見えてくる〈いのち〉の環境づくり
――ここからはじめる食農保育
 東横学園女子短期大学専任講師 倉田新……22
◆動物飼育でワイルドな共育!
「いのち」に触れる瞬間、子どもだけでなく大人も本気になる
 神奈川県・大庭城山幼稚園園長 井上輝夫……28
◆農家の暮らしに学んだ!
感動をよびこむ「ほんもの体験」の仕掛け方
 飯田市企画部企画幹 井上弘司……31

【コラム】等三輪空寂――仏教における食といのちの作法
 大本山永平寺典座 三好良久……36
【コラム】毒のある食べものとのつきあいから「食べる」の原点をみる
 昭和女子大学専任講師 渡辺睦行……40

小特集
「食育推進計画」をすすめる視座を南国市の「食育ネットワーク」に学ぶ
 フリー編集者 木村信夫……44

<連載> 【実践から学ぶここが決め手!食育最前線の取組み】
■日本初!JA型コンビニが誕生
「JAンビニ」で再び輝き出したグランマ奮闘記
 JA秋田やまもとふれあい課長 泉牧子……58
【食育の仕掛け人!】
■今こそ自然との連環の物語に耳を傾けよう
――都会で暮らすミツバチからのメッセージ
 岩手県・養蜂家 藤原誠太……64
【シリーズ:世界の食から】7――中南米
■今なお伝統が生きつづける中南米の「食の三大文化圏」
 国立民族学博物館名誉教授 山本紀夫……70
【食育の使えるツール箱】
■「箱膳」――箱をひらけば溢れるニホン
 特定非営利活動法人えがおつなげて代表理事 曽根原久司……76    
【地域に根ざした食文化ルネサンス】
■種はすべてのはじまり――未来へと生命をつなぐ「種採り人」
 ひょうごの在来種保存会代表 山根成人……80
【食育の情報コーナー】
■最新レポート!中国四国の食育推進の現段階
 中国四国農政局前消費・安全部消費生活課長 中野正久……84

巻頭言 地域に根ざした食育の時代がきた

◆和洋女子大学副学長併教授 坂本元子

和洋女子大学副学長併教授 坂本元子 「食べる」という行動は、種の保存においてもっとも自然な営みであり、動物の本能にゆだねられた基本的行動である。動物は生息領域において必要な食料を確保し、自己の生体が要求する栄養素のバランスをとるためにさまざまな食行動をとる。なかには塩分や無機質を得るために、土を食べる動物もいる。
 一方、人間は過去数千年にわたり、それぞれの地域で確保できる動植物を食料にし、時には加工しつつ、個性的な食文化を育むことで民族を維持してきた。その形が変わるのは人間の移動である。人間の移動に伴って、新しい土地の個性を生かしたかたちで食文化が変容し、根づいていく。
おそらく最初は少数の民族の食品・食材が動き、それらの食材が定着することで彼らの食文化が土着の食文化と融合し、折衷型の新しい料理や食文化が各地で生まれて、世界中さまざまな食文化が存在することになったと思われる。この時期はまだ人の移動のスピードで文化がひろがっていったのであろう。
 しかし高度に発達した情報化社会は、世界のニュースを映像や音声で伝えるだけでなく、その情報を享受した人間の思想、行動さらには人間の本質である生体反応、例えば人間の味覚、嗜好、疾病構造さえも急速な速度で変えてしまう恐ろしさがある。この現象は衣食住に関するすべての事象においてさまざまに見られている。
 前述のように、本来、人間はその地域の産物を食することで種を保存してきた。だが、この食物と人間の均衡のとれた社会が、経済性や利便性のみを追求した近代化により断ち切られ、根底にある人間の健康状態も大きく揺らいでいる。そのことが今日的な課題となっている。
 低栄養時代の感染症の多発は、食料状況の好転、特にタンパク質の充足によって解消されることになった。子どもたちの身体状況、有病率も好転し一九六〇年代には栄養問題は解決した。 
 当時は、栄養指導はもういらないという「食育不要論」が出てくる時代、食料さえ豊かになれば人は皆健康に暮らせるという神話があったようである。だが、食育(栄養指導)は本当に不要であったのだろうか。

 現在、日本人の糖尿病患者は約七四〇万人、その予備軍は一六二〇万人といわれるが、大部分は「二型糖尿病」で、高脂肪食や運動不足などの生活習慣による肥満が原因とされている。 
 東京大学大学院の門脇孝教授によると、二型糖尿病は脂肪や糖分の合成・貯蔵を管理するインスリンの分泌不全か、インスリンの働きを抑える生体機能の作用が加わって、インスリンの作用が不足し、高血糖になる病気である。 
 元来農耕民族である日本人は、数千年にわたり肉食や脂肪摂取の習慣がなく、インスリン抵抗要因がなかったために、すい臓でインスリンを分泌するベータ細胞への機能が充分でない状態であった。一方、狩猟民族の欧米人は、肉食、高脂肪食の習慣があり、ベータ細胞への負荷が大きく、その機能も大きい。ところが日本人はこの六〇年間急速に肉食や高脂肪食の食文化をとりいれたため、ベータ細胞の機能が少ないにも拘わらずインスリン抵抗性要因が増したことから、日本人に糖尿病が増加したとされている。
 また、生活習慣によるインスリン抵抗性の増大が患者数の増加につながったといえよう。糖尿病や肥満の可能性は、欧米人に比べ日本人は約二倍から二・五倍と高い。日本人やアジア人は食べもののエネルギーを効率よく脂肪として蓄積する節約遺伝子を持っており、飢餓時代でも生存できる遺伝子であった。日本人の現代の食生活はこの節約遺伝子にそぐわない食生活であることがわかっている。 
 糖尿病の理論的な発症メカニズムは専門家に譲るとして、日本の食文化から欧米の食文化への変貌が原因で、長期に安定し、維持してきた人間の生体機能を破壊する結果になってきている。外国の食文化の安易な受け入れが、生体機能に悪影響を及ぼすことが科学的に解明されてくると、日本人の食生活はやはり伝統的な米文化に戻ることが必要ではないかと考える。

 食育基本法の制定以来、日本各地でさまざまな人たちが食育活動を展開している。食育は誰がやってもいい、誰にやってもいい、一人でも、団体でも、組織をつくって地域をあげて職域の壁を超えて実施してもよいというものである。
 地域に根ざした活動として、高齢者が次世代に向けて食文化の継承活動を実施している。地域の産物を生かす「地場産給食」の取組み、また、共働きの家庭の子ども自身に朝食や昼のお弁当をつくらせる子どもの食の自立の試み、そして日本の米を大切にする和食の講習会など、それぞれの個性的な活動を通して、食育はすでに地域に根づきはじめている。
 こうした地域に根ざした食育活動を顕彰し、情報を共有するための催事として「地域に根ざした食育コンクール」が今年も募集を開始していいる。元気な活動をぜひお寄せいただきたい。