季刊「食育活動」

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食育活動
No.7 2007

12

磨け!食べものを選ぶ力――食・栄養の俗説に惑わされないために――

 
  ■巻頭言 安全で健やかな食生活のために「選ぶ力」をつけよう
全国消費者団体連絡会事務局長 神田敏子 ……4

◆あなたは大丈夫?食の教育にありがちな三つの問題
――フードファディズムに陥らないために
 群馬大学教育学部教授 高橋久仁子 ……8
◆「4つのおさら」で食べ物を選択する能力を幼児期に磨く
NPO 法人「こどもの森」理事長 吉田隆子さんの実践……16
◆ 買い物は「投票」と同じ!
あなたの「選択」が健全な食べものづくりを守り育てる
――生協パルシステムは「事業そのものが食育」
 パルシステム生活協同組合連合会商品企画部長 栗田典子……22
◆「食事バランスガイド」を使いたくなる
「個人別簡易食習慣評価ツール」の開発
――東京大学大学院教授 佐々木敏先生に聞く……26
◆知っておきたい食べものの裏話  
ナンバ食品研究所所長 難波良弘 ……32
――「乳化牛脂を注射した霜降り肉」「静菌剤で日持ちするおせち料理」

【コラム】入室作業の手間を体験して納得!
 工場見学を活用して「食」の安全・安心を考える
 食品産業センター普及・食育推進部主事 二瓶徹 ……36

◆おじじ・おばばの力はすごい!
四季の変化に寄り添い旬をいただく「ふるさと」の教え
長野県農村文化協会役員 池田玲子……38

【小特集】
・突撃レポート!ここまできた食育実践活動事業
 学校のランチタイムで食育体験
 〜今どきの女子高校生の食堂メニュー改善計画〜……44
・ただいま奮闘中!
 喜多方市ではじまった小学校の「農業科」……48
・古きを訪ね、新しきを創る
 高千穂のcobiru(こびる)大作戦!……52

<連載>
【実践から学ぶここが決め手!】食育最前線の取組みから
 体験を学びに高める「感動」と「葛藤」のしかけとは?
 ――お米をテーマに心を揺さぶる授業術
 新潟・上越市立高志小学校 舘岡真一 ……58
【食育の仕掛け人】いのち一番 待ったなし!
 「百姓医者」の土からの養生訓
 熊本県・公立菊池養生園名誉園長 竹熊宜孝さんの取組みから ……66
【シリーズ:世界の食から】(8)――中東アラブ 
 沙漠とイスラームが誘う大河ナイル流域の食文化
 東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所所長 大塚和夫 ……72
【食育の使えるツール箱】「稲ワラ」
 千葉大学理事・副学長 宮崎清……78
【地域に根ざした食文化ルネサンス】阿蘇高菜
 ――火の国〈熊本〉の個性が生みだした故郷の味
 くまもと食・農・健康を創る会運営委員長 矢住ハツノ ……82

【食育の情報コーナー】
 最新レポート!近畿の食育推進の現段階
 近畿農政局消費・安全部消費生活課課長 中山直子……86

巻頭言 安全で健やかな食生活のために「選ぶ力」をつけよう

◆全国消費者団体連絡会事務局長 神田敏子

全国消費者団体連絡会事務局長 神田敏子 O-157や乳業メーカーの食中毒事件、日本・米国のBSEの発生、未承認食品添加物の使用や中国産農産物の残留農薬問題、ダイエット食品による死亡事故や健康障害など、食をめぐる問題が続くなか、「食品の安全」に関する国民的な関心が高まっている。 
 また、食経験のない新しい食べ物や輸入食品、加工食品、外食や中食などが増えることで、「原材料は何か」、「出所は確かか」、「誰がどのようにつくっているのか」など、不安に感じている人も多い。そのうえ偽装表示や不正行為が後を絶たず、食品の安全とともに「食品の安心」を求める声も大きくなっている。
 食品の安全性を考えるとき、「絶対安全」であるということはできない。どんなに体によいといわれる物や栄養価の高い物でも、さらには水や塩のように生命維持に不可欠な物でも、食べ方や飲み方によっては体に悪影響を与え、健康のリスクを高めることにもつながる。
 また、研究がすすみ情報も豊かになると、これまでの科学的評価が変わることもあり得る。アクリルアミド(発がん性が疑われている物質)のように、加工食品の製造過程で生成されることが新たに分かった例もある。このように見ると、食品の安全性は、白か黒か、〇か一〇〇かというように単純に語ることは難しいということが分かる。
 新しい情報を常にキャッチしながら安全性を科学的に捉え、考え、判断したいものである。栄養面からだけではなく、リスクを分散し安全を確保するという意味でも、いろいろなものをバランスよく食べることが大切ではないか。

 食品添加物や農薬の問題は確かに気になる。しかし、これらが使用されているからといって、即食品の安全性が脅かされるということではない。それぞれに安全基準が設けられ、使用方法なども決められている。問題はこれらがきちんと守られているかどうかである。また、その基準はどのようにつくられているのかを知ることも、安全性について考えるうえで重要である。
 ADI(一日摂取許容量)という言葉を聞いたことがあるだろうか。これは人が一生涯にわたって毎日摂取しつづけても健康に影響がないと判断される量である。
 これをもとに、食品中の残留農薬基準や食品添加物の使用基準が決められている。ADIは、動物を用いた各種毒性試験結果から得られた無毒性量に、動物と人間の違いや人間の個人差を勘案して、通常一〇〇倍の安全係数を見込んで算出(無毒性量×一〇〇分の一)されており、数値はかなり小さいといえる。
 最近、中国産の食品から基準を上回る残留農薬や動物用医薬品・食品添加物などが検出され、信頼が失われている。確かに、口に入れるものなので気持ちが悪いが、基準値そのものがかなり小さな数字であることを考えれば、直ちに健康被害が出るということは考えにくい。必要以上に心配することはないのである。もちろんこのような違反はあってはならないし、安全性を確保するための基準なのだから、必ず守るよう厳しく対処し、再発防止策を講じなければならないことはいうまでもないことである。

 スーパーの店頭などで表示を見て食品を購入する人が非常に多くなっている。あるアンケート調査によると、一番見るところは「賞味期限」と「消費期限」で、その次が「原産地表示」だという。そのことと関係があるのか、なぜかこれらに関する偽装表示が目立つ。
 表示は、消費者が商品を選ぶ際のよりどころである。そこにうそ偽りがあってはどうにもならない。食品製造者、販売者には、正しい表示、誤解を与えない表示を厳守してもらいたい。
 合わせて、消費者側も表示の意味を正しく理解することや原産地について、どこがどのようによいのか、「表示を読み取る力」、「選ぶ力」を身につけていく必要もあるだろう。消費者の選び方によっては、違反を減らせる可能性があるのではないかと思う。
 国は加工食品の原料原産地表示の改善や外食の原産地表示ガイドラインづくり、トレーサビリティの促進など、消費者にできるだけ情報が届くよう施策を講じている。また、外食産業や食品企業などは、メニューの表示方法の工夫や工場見学など、消費者が必要とする情報を提供するようになってきた。生産者も顔が見える関係づくりに力を入れており、産直や生産現場の体験をはじめ、消費者との交流も盛んに行なわれている。
 違反行為がいろいろ目立ってはいるが、一方で消費者の視点に立ち、消費者を重視する生産者や事業者が出てきていることも確かである。こうした動きをもっと広げていくためにも、関係者同士の意見交換や交流が重要である。信頼関係を築くことが、安心に繋がる大本ではないかと思う。
 二〇〇三年七月より、日本の食品安全行政は大きく変化した。リスクコミュニケーションが重視され、意見交換会やパブリックコメントなどが盛んに行なわれている。メールマガジンの開設やホームページの改善なども図られ、新しい情報が迅速に分かりやすく提供されるようにもなった。
 これらを大いに活用しながら、食に対する判断力や選択力を身につけ、安全で健やかな食生活を送れるようにしたいものである。