季刊「食育活動」

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食育活動
No.9 2008

3

継承したいニッポンの〈味覚〉――保育所で、学校で、地域で――

 
  ◆子どもの嗜好を科学する
 味覚や嗜好はどう育つか 名古屋短期大学保育科教授 小川雄二……6

◆野菜や魚のうま味で“ゼロ歳児”からの味覚づくり
 ――子どもの「食べる意欲」を育てる5段階の離乳食
 京都市・朱七保育所 調理師 清水美千代 ……12

◆それは娘の味覚の立て直しからはじまった
 学校給食の完全米飯化と〈味覚の共同体〉づくり
 滋賀県栗東市・Paddy代表 管理栄養士 渡辺さおり ……20

◆食文化の継承は味覚のしつけから
 京都大学大学院農学研究科教授 伏木亨 ……26

◆〈ぬか床養子縁組〉から〈給食への供給〉まで
 漬け物がつなぐ人と人、受け継がれる〈ふるさとの味覚〉
 ――福岡県築上町「町民つけもの博覧会・つけもの講習会」が面白い 森の新聞社 森千鶴子 ……28

◆農家ならではの〈旬の味覚〉をおすそわけ
 農家レストラン「楽舎」が届ける食の歳時記
 山形県河北町・季節の味彩「楽舎」代表 今田みち子 ……38

<小特集1>速報!地域に根ざした食育コンクール2007
 表彰事例のここがポイント……43

<小特集2>突撃レポート!ここまできた食育実践活動事業 パート2
 知って得する 築地発!大人のおせち料理教室……64
 農業体験イベントを「食農教育」に深める……68
 「ふるさとの家」で暮らしの「ほんもの」体験 ……72

<連載>
【シリーズ:世界の食から】(9)――日本
 世界の食育の現状と展望――国内初!食育の国際会議から
 新潟市・食と花の世界フォーラム実行委員会事務局 ……76

【新連載!副菜が上手にとれる旬菜料理教室(1)】
 「ふき(蕗)」――春の苦味を楽しもう
 食育サークルSUN代表 管理栄養士 小出弥生 ……80

【食育の情報コーナー】
 最新レポート!長寿県復活をめざす〈沖縄〉の食育推進の現段階
 内閣府 沖縄総合事務局農林水産部 消費・安全課課長 比嘉一也 ……84

食文化の継承は味覚のしつけから

◆京都大学大学院農学研究科教授 伏木 亨

京都大学大学院農学研究科教授 伏木亨やめられない三つのおいしさ

 食べものには、やみつきになるおいしさというものがあります。砂糖と脂肪とダシのうま味です。これらを組み合わせた食品が外食産業やファストフードの味わいの中心となっているわけです。
 たとえば、脂肪と砂糖ならクリームたっぷりのケーキ、脂肪とダシなら行列のできるラーメン、砂糖とダシは牛丼。おいしいものはいくらでもあります。これら三つのおいしさは、一度好きになったらやめられない、やみつきのおいしさといえます。
 とはいってもそれは恐ろしいことではありません。砂糖と脂肪とうま味はそれそれぞれ、糖質、脂質、タンパク質という三大栄養素の存在をしらせる味覚のシグナルなのです。
 残念ながら、動物も人間もこの三大栄養素に対しては食べ過ぎのストップがかからず、つい食べ過ぎてしまう。その結果、現代人を悩ませる肥満や生活習慣病が増えているのです。
 ですが、気をつけられる余地は残されています。それは、三つのおいしさのなかから、どのおいしさを選ぶかということ。脂肪よりはダシのうま味のほうがカロリーも少なく罪が軽そうです。うま味は和食のおいしさの中心であり、日本の伝統的な味覚であるダシの風味と味を中心とした「日本型食生活」を強くお勧めする理由ともなっているわけです。

なぜ、子どもの頃に味覚のしつけか

 「子どもの味覚がおかしい」としばしば耳にしますが、舌の機能という面からみると子どもの味覚がおかしいという証拠はありません。
 味覚ではなく子どもの好みがおかしいのです。正確にいえば、子どもの好みが親の期待する方向と違うということです。野菜も魚もご飯も酢の物も子どもが成長するうちに好きになるだろう。しかし、その淡い期待は誤りでした。親は子どもと食卓を同じくして、子どもに親の味覚を伝達する必要があったのです。
 たとえば、味噌や納豆、漬物などの発酵食品は独特の癖があります。子どもの頃から親がおいしそうに食べていたものには興味もわきますが、知らないものは食べられません。
 反対に、親に教わらなくともファストフードや、油っぽい欧米の食などをどんどん好きになっていきます。それは幼児期の体験が必要ないほど強烈なおいしさだからです。
 このように味覚に対する一種の刷り込みのような学習が起こる時期に、親と同じ味つけを共有することが、決定的な味覚のしつけになるわけです。

「口中調味」は日本型の食事作法

 日本の伝統的な食文化のなかで、何がもっとも大事かと問われたならば、私はご飯を中心に据えてダシのうま味の利いた副食を少なくとも一品、いっしょに食べることと答えるでしょう。
 さらに付け加えたいことは、主食のご飯とおかずを同時に食べること。正しくは、おかずを口のなかに入れて、その味の余韻があるうちにご飯を食べるということです。
 ところが、最近いくつかの小学校に訪問して驚いたことがあります。ご飯とおかずがいっしょに口のなかにある状態が気持ち悪いという子どもたちの割合が高いのです。
 辛子明太子やキムチ、漬け物が好物な方、ご飯がほしくなりませんか。
 ご飯といっしょに食べることでおいしく感じる食べものがいっぱいあったはずです。減塩も行き過ぎるとうま味が引き立たなくなるうえに、口中で味を薄めるためのご飯も必要としなくなってしまいます。
 ごはんと同時におかずを口に入れて両方の味を楽しむことは、日本型の食べ方の基本中の基本だと私は思います。ごはんのおいしさ、和食のおいしさもすべてここから出発しています。
 いま、ご飯とおかずを同時に食べられない子どもや親が増えているならば、日本の伝統的な食文化は、根本的なところで傾いていると言わざるをえないのではないでしょうか。
 ご飯とおかずを同時に口に入れることが心地よいか悪いかは生理的な問題で、極めて根が深い部分ということです。
 今からでも遅くはありません。日本の食文化が育んできた「口中調味」の大切さについて、真剣に子どもたちに伝えてほしいと思うのです。